【08 他の組の二回戦(2)】
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・【08 他の組の二回戦(2)】
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「いやぁ、やっぱ面白いわぁ、ネタってめちゃくちゃ面白い」
そう声を漏らしたのは枯チューだった。
こうやって他者のことを素直に褒めることができる枯チューのことが僕は大好きだ。自分と同じような感覚ということも嬉しいし。
ねずくんもニコニコしながら、テレビ画面に向かって拍手をしている。クリップワニくんも優しく頷いている感じだった。
するとスタブリさんがゆっくりと口を開いた。
「みんなすごいね、ライバルのネタを褒めることができて。私はちょっと戦々恐々としてしまう」
ここはスタブリさんとちょっと感覚違うかぁ、と少し残念な気持ちになってしまった。
いや全部が全部スタブリさんと一緒だと何が良いというわけでもないんだけども。
枯チューはスタブリさんにサムズアップして、
「それも良いと思う! 俺らはちょっと能天気過ぎるな!」
またねずくんと一緒にドッと笑った。
枯チューのコミュ力というかなんというか、尊敬してしまう。
スタブリさんは僕のほうを見ながら、
「ニコくんはどう思う?」
「僕はビビる部分もあるけども、基本はやっぱりネタを見ることが好きですね」
「強いね、そういう人が最終的に上位へいけると思うよ」
と優しく微笑みかけたところで、部屋に誰かが入ってくる音がした。
この部屋には扉が無いので、誰でもシームレスにやって来ることができる。
足音のほうを見ると、そこには主力のナマクラさんが立っていた。
「そうだな、アンタらのような老害は二回戦が関の山だよな、なぁ? 枯チューにニコ」
するとねずくんが笑いながら、
「僕も一緒にネタで笑っていたから僕も勝ち上がるという理論になるねず!」
ねずくんの言葉にはばつが悪そうに、嫌な顔をしながら会釈だけした主力のナマクラさん。
あくまでねずくんは雇い主でもあるので、ねずくんとは喧嘩したいわけではないらしい……のか? 主力のナマクラさんは相変わらず態度というか目元も嫌な感じだ。
でも主力のナマクラさんはこうやってライバルになる相手へ動揺を誘う手口を使うことがある。
ねずくんのほうに背を向いて主力のナマクラさんはスタブリさんへこう言った。
「昔はもっと尖っていたくせにさ、今は良い子ぶってなぁ、そこまでしてしがみつきたいかよ、この世界のお笑いに」
スタブリさんは視線を合わさないように俯いたが、主力のナマクラさんはやめない。
「オマエが尖ってた頃さ、俺がバイトするうどん屋に来た時、めちゃくちゃ態度悪かったぜ? ニコもあんまこういう裏表あるヤツと会話しないほうがいいぜ」
だからって、こんな表で悪口ばかり言うヤツも嫌だよ、と思っていると枯チューが、
「まあ誰が誰と会話していてもオマエとは関係無いから。最後に一つ言っておくけど、スタブリさんはオマエの競合相手じゃないから。オマエはもうちょい格下だ」
その言葉に主力のナマクラさんがヤンキーのように、
「あぁん?」
と言って睨んだ。
いや変なところで喧嘩するなよ、と思っていると、ねずくんが割って入るように前に出てきて、
「まあまあいつか決着はつくねず! 決勝戦が楽しみねずね!」
と言ったところで主力のナマクラさんは深い溜息をついてから、
「一応雇う人でもあるんで、あんま言わないようにしてましたけども、審査員買収してるヤツがうるせぇよ。あっ、ネズンの営業無くなってもいいですよ、俺、他でもやれるんで」
「いえいえ! 面白かったらいくらでもオファーするねず!」
「じゃあ単独公演でもお願いしますわぁ」
そう言って主力のナマクラさんは舌打ちをしてからいなくなった。
何なんだマジで。
何でそんなことを言いに来れるんだ。こっちから絡んだわけじゃないのに。
空気もかなり悪くなってしまった。
あんな時に何も喋ることができない自分が情けないし。
こういうところでちゃんと喋れる人間じゃないと本当の笑顔になんてなれないだろ。
せめて、と思って、僕は、
「あういう人もいるはいるけどもあんまり気にしないでいきましょう。ほら、次のネタが始まりますよ」
「そうねずね!」
僕たちはまたテレビ画面を見始めた。
でもスタブリさんは俯いたままで、この人を笑顔にできない自分の実力の無さを恨んだ。
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磯山「二回勝つとすごいという噂があります! やります!」
【マシュマロ男子:磯山】
《可愛く太った男子中学生だ。コミカルに表情を変えて一人コントをする。中学生から舞台に立つ子はさすがに稀有で、さらに実力もあるというのは早々いない。今大会は特に仕上がっていて普通に優勝候補とも言われている》
文化祭はおやつ屋さんがいいです! おやつをいっぱい置くんです!
売りません! オブジェです! それをクラスメイトだけが食べるんです!
基本は博物館みたいで、あとはクラスメイトだけで食べるというヤツです!
売る? アレンジしてカフェ? そんなことはしませんよ、
学校の資本金でおやつを買いたいんですよ、
そんなことも分からないんですか? ちょっと生徒の気持ち分かりますか?
……そんな! 僕だけの夢じゃないですよ! みんなもそう思うよね!
えっ、普通にカフェをしたい? そんな、労働なんてまだ早いよ……。
僕は大学生まではずっと他人のお金でおやつを食べたいんですよ!
労働なんてどうせ大人になったら飽きるほどするんだから、
今は絶対に楽したほうがいい! 小銭稼ぎで時間を失うな!
そうそう、そうそう、ちょっと僕派が増えてきたンゴねぇ……いいね、
いや! 僕の話を妄言としないで下さい! それは失礼だと思います!
失礼なこと、僕言いました? それは先生のファースト失礼ですよね!
謝って下さい! まず謝って下さい! よしっ、それでいいでしょう!
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ちょっと尻切れトンボに終わったようにも思うが、時間制限もあるので、こんなところでやめたという感じだ。
オールラフトーナメントは回戦が進むごとに時間制限が伸びていく。
唯一決勝戦だけは一本目が短めで、二本目は今までで最も長いといった感じだ。
別に時間制限を越えたとしても、それをマイナス評価するかどうかは審査員個別に任されている。
だからあんまり気にしなくてもいいのにな、とは思うけども。
点数は89点。かなり高い点数だし、そうだと思った。
次の芸人はこの世界のレジェンド、オヤヤッサンだ。
下ネタナンバーワンの呼ぶ声が高いが、それって半分ディスられていないか? と思っている。
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オヤヤッサン「ちょっとR-18過ぎましたでぇい、反省の反り立つ壁!」
【大将の秘密ワールド:オヤヤッサン】
《寿司屋の大将みたいな恰好をしている。いや実際寿司屋の大将として店に立っているらしいけども。僕はこの人の店で食べたいとは絶対思わない。何か汚そうだし》
スクープ! オヤヤッサンは寿司男優だった!
《フリップをめくって喋り出したオヤヤッサン。フリップ芸らしいけども、絵の無い、字だけのタイプみたいだ》
一つ目、喋ると口から酢飯をポロポロとこぼす。
全然食べてもいないのに、だでぇい?
これはすごい寿司男優っぷりだでぇい。オヤヤッサンを奉るでぇい。
分裂した奥歯が粉砕されて酢飯になっていると言われているでぇい。
研究者の意見は本当に貴重だでぇい
二つ目、股間のあたりから常にサーモンがボロンとハミ出ている。
この男優感は腐女子にはたまらないでぇい? そうのはずだでぇい。
漫画のピアノと男根の表現はボロンで決まりだでぇい。
そんな感じでサーモン(脂満載!)が出ているんだでぇい。
三つ目、デカいプールの中にいると、出汁が出てしまう。
もはや出汁男優でもあるんだでぇい、出汁汁の椀物が作れるでぇい。
出汁を出している最中はすごく気持ち良いでぇい。
「あっ、あっ、あっ」と言っちゃうでぇい。
次、最後の真打ちでぇい。
だってそうだし。
だってそうなんだでぇい、そうなんだから仕方ないでぇい。
寿司男優としての誇りを持っているでぇい。
《ここで終わりかなと思ったところで、めちゃくちゃカメラ目線して、ナレーションのような感じでこう言った》
今度、ビデオに出演。
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どんなネタだよ、と思ったが、めちゃくちゃウケていた。
この世界って結構こういうネタを好むんだよなぁ、と思っていると枯チューが、
「めちゃくちゃ面白かったわぁ」
と言ったので、ここは感性が違うし、違っても別に良いと思った。
点数は92点。しっかりウケてしまっていて、何だかちょっと首を傾げてしまった。
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トパ「ハゲない秘訣知ってます」
ごす「いやもうハゲまくりですよ!」
【ハゲ否定漫才:突破語】
《ボケのトッパーはめちゃくちゃハゲている男性で、ごすはいわゆる渋谷系の男性。両方とも若くて、トッパーは完全に若ハゲである》
トパ「全然ハゲてないわぁ!」
《開口一番すごい圧力で叫んだトッパー。その圧でめっちゃウケてる。いやハゲてる人のハゲてない宣言、面白過ぎるだろ》
ごす「いやトッパーさん、ハゲまくりですよ!」
トパ「ワシの毛でカツラ作ってくれぇ!」
ごす「全然毛が無くて作れませんよ!」
トパ「いや技術だけじゃなくて量もあるわ!」
ごす「正直技術も無いと思います! 昔からハゲですよねっ?」
トパ「昔の写真見せてやるわ!」
ごす「うわっ! 子供の頃も全然ハゲてる! 余裕でハゲてる!」
トパ「フサフサだろ! 羨ましいだろ!」
ごす「全然生えていませんって! それとも肌色に毛を染めてるんですか?」
トパ「毛を染めるなんて毛根に悪いことしないわ!」
ごす「いやハゲを気にしてる人の発想!
もうハゲてるのにハゲること気にしてる!」
トパ「全然これからだわ! これからハゲがやって来る世代だわ!」
ごす「いやもう終焉ですよ! 終わった状態ですよ!」
トパ「誰が荒廃した世界が舞台のRPGだ! いきいき農業だろ!」
ごす「息切れ農家です!」
トパ「今年も不作だ……悩みハゲ……じゃないんだよ!」
ごす「いやもう悩む必要が無いくらいの全ハゲです!」
トパ「いやこちとろん毛髪を全クリしてるわ!」
ごす「そう! 全クリしてハゲてます! もういいです!」
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いくらなんでもハゲハゲ言い過ぎだ。
まあ自ら言っているからいいんだろうけども。
ふと、スタブリさんのほうを見ると、このネタでも一切笑わず、寂しそうに佇んでいた。
でも今話しかけるのもな、と思ってまたテレビ画面のほうを見た。
点数は88点。一点差で敗退決定。これはちょっと惜しいなぁ、と思った。
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アラ「頑張り!」
マボ「オナラ!」
《この二人はぬいぐるみ型の生物だ。アラちゃんが水色のアライグマで、マンボーくんが水色のゾウでゾウの割に四つ足ではなくて腹ばいになっている。クリップワニくんみたいな、ワニみたいな感じになっている》
【勢いオナラのファンタジスタ:ウォーターブルー】
《勢いよく舞台袖から飛び出してきた二人。アラちゃんはピョンピョンと跳ねながらやって来た》
アラ「勢いオナラショートコント! オナラオチ!」
マボ「オナラ出る、オナラ出るわ……パス……ヘイ! パス! パス!」
アラ「サッカーやってるじゃん、Oh,トトカルチョ!」
二人「でっけぇ屁!」
《と二人で叫ぶとオナラの効果音が天から鳴った。何このネタ》
アラ「勢いオナラショートコント! オナラの噂!」
マボ「オナラって知ってる? 知ってる前提で話す僕の地元の先輩!」
アラ「すごいっすね!」
二人「でっけぇ屁!」
《またオナラの音が鳴った。本当に勢いだけのオナラショートコントだ》
アラ「オナラ勢いショートコント! オナラの本当の勢い!」
マボ「ブゥゥウウウウウウウウウウウウウウウ! オナラのオバケだぁ!」
アラ「な!」
二人「でっけぇ屁!」
《またオナラの音かと思ったら、まるで天使が降りてくるような、ファーという音が鳴った。何なんだよ》
アラ「勢いオナラ勢いショートコント! 勢い!」
マボ「オナラ! 出した勢いで! 捻挫!」
アラ「マネージャー集合!」
二人「でっけぇ屁!」
《ドガーンという爆発音と共に暗転した。これで終わりかなと思っていると》
二人「再放送!」
《という声が聞こえると明転して、また二人が同じ立ち位置で立っていた》
アラ「オナラ勢いショートコント! オナラの本当の勢い!」
マボ「ブゥゥウウウウウウウウウウウウウウウ! オナラのオバケだぁ!」
アラ「な!」
二人「でっけぇ屁!」
《再放送とは言ったものの、オナラの音に変わっている》
アラ「勢いオナラ勢いショートコント! 勢い!」
マボ「オナラ! 出した勢いで! 捻挫!」
アラ「マネージャー集合!」
二人「でっけぇ屁! でっけぇ屁! でっけぇ屁!」
《オナラの音が三発鳴り、暗転》
二人「再放送……でっけぇ屁!」
《暗転したまま、オナラの音が鳴って終了した》
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「勝つ気無いだろ!」
と枯チューはめちゃくちゃ笑いながらテレビ画面にツッコんだ。
ねずくんもクリップワニくんも爆笑している。
「フフッ」
そう言ってスタブリさんも笑った。
やっぱりこういう時はもうこれくらい行き切った笑いじゃないとダメだよな、と思った。
点数は納得の12点。会場が爆笑に包まれた。
結果、オヤヤッサンと磯山が勝利した。