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【07 他の組の二回戦(1)】

・【07 他の組の二回戦(1)】


 落ち込んでいるカッパ弘法に対して、大楽屋から出て廊下にいた『主力のナマクラさん』が声を掛けた。

「一グループ目は実力足りなくてもワイルドカードで上がれるからいいよな、御祝儀点数様様だな」

 そんな言い方ないだろ、と思っていながら、カッパ弘法のほうを見ると、そんな嫌味に対応できないほど俯いていた。俯いているカッパってそんな見ないなとか思ってしまった。失礼かもしれないけど。

 主力のナマクラさんは黙っているカッパ弘法にまだ喋りかける。

「マジでオマエレベルはここで落ちたほうがいいんだけどな、そう思うだろ? ニコ」

 と僕に話が振られてしまい、ドキッとしていると、カッパ弘法が、

「いいんだいいんだ、所詮僕は敗者だから」

 と僕へ制止のポーズを出してから、その手を揺らして、バイバイしてくれたので、会釈してその場を去った。

 でも後ろではまだ主力のナマクラさんが、

「オマエ返しがおもんなくて味しないわっ」

 と言って笑っていた。

 何でお笑いという一つのジャンルでの勝負でしかないのに、あんな人に対して偉そうにできるんだろうか。

 そもそも主力のナマクラさんはまだ勝負が終わっていない。自分だって負けるかもしれないのに。

 僕と枯チューは撮影している映像が見られる部屋へ移動中。

 ウシモくんも僕たちと一緒のような位置で歩いていたんだけども、廊下で震える『ソニュトラ』を見て、話し掛けた。

 『ソニュトラ』は僕が一回戦の時に気に掛けていた、虎と妖精さんのコンビだ。

 一回戦のネタはテレビで見た。正直結構面白かった。ちょっと噛んでいたけども、堂々の勝利だった。

 相変わらず場数が足りないようで、今回も緊張しているらしい。

 でも僕も最初の頃はそうだったな、とか思ってしまった。

 この世界では皆お笑い活動を一度はしてみるもので、僕はその時にウケたのでそのままやっているといった感じだ。

 今回のお客さんだって皆お笑いをしたことがあるだろう。たまに見る専門でいく人もいるらしいけども。

 でも大体は一,二年やって辞めていく。

 見ているほうが楽しいということになるのだ。まあ確かに見ているのも楽しいけども、やっぱり僕はやっている時が一番楽しい。

 何だか没頭している時は『本当の笑顔になりたい』という気持ちさえ忘れて、楽しめているような気がするんだ。あくまでそんな気がするだけだけども。

 でも実際、枯チューと一緒にお笑いの話をしている時は楽しいし、僕にとってはこれがベストなんだろう。

 何であの『ソニュトラ』はオールラフトーナメントに参加しているのだろうか。

 いやそもそも、ウシモくんとかだってそうだ、こういう話してみたいけども突然聞くのもな、とか思うと尻込みしてしまう。

 撮影している映像が見られる部屋に入った僕たち。

 そこにさっきのグループで来たのは結局僕たちだけだったけども、まだまだ出番が先の人たちが何人かいた。

 スタブリさんもいたので、僕は話し掛けることにした。

「この前は、最後無視して申し訳御座いません」

「ううん、ナイス判断」

 そう俯きながらも微笑んでくださった。良かった、合ってたと胸をなで下ろした。

 スタブリさんは僕の手を握って、

「すごく良いネタだったよ。面白かった」

 と言って笑ってくれた。

 スタブリさんに言われたんなら本物だと思って嬉しくなった。

 すると近くにいた、ねずくんが、

「本当に良かったねず! NIPPON笑顔疲れにまた仕事の依頼しないといけないねず!」

 と声を掛けてくださった。

 それに対して枯チューが、

「仕事ならいくらでもお願いします! ネズンは金払い最高なんで嬉しいです!」

 僕は枯チューの肩を叩きながら、

「そういう言い方は印象が悪いでしょ」

「いやでもそこは真実だからさ!」

「真実だから言っていいとかじゃないから、笑顔が引きつっちゃうよ」

「それにしてもねずくんは社長業大丈夫なんですかっ? 出番はもっと後ですよねっ?」

 ねずくんはニコニコしながら、

「やっぱりこういう空気を楽しみたいねずからね、それに練習もしたいねず」

 枯チューは小首を傾げながら、

「あれ、ねずくんはまだ昔のネタありますよね? 現に一回戦は往年の名作だったじゃないですか」

「一回戦で負けると恥ずかしいから、昔のネタ使ったねずけども、二回戦からは新ネタねずよー」

 新ネタ。こんなに忙しい人(顔ねずみ)なのに新ネタおろすんだ。

 何かその意気込みがすごいと思ってしまった。マジで僕たちの忙しいは全然忙しいじゃないからなぁ。

 ねずくんは近くにいた『クリップワニくん』の背中をしゃがんでさすりながら、

「クリップワニくんは常に新ネタですごいねずー」

 と言った。

 クリップワニくんは見た目がコミカルなぬいぐるみのワニで、床を這うように歩く存在だ。

 ちなみにリアルなぬいぐるみワニのグリコダイルという存在もいるが、クリップワニくんはコミカルでカートゥーンアニメのような顔をしている。

 この世界のレジェンド的存在で、クリップワニくんの最弱ネタにはファンが多い。

 クリップワニくんは少し震えてから、

「昔のネタとか廃れるの早いんで、怖くて新ネタしているだけです」

 と言ったんだけども、そういう思考ってしたとしても行動に移すことは難しくて。

 言動と行動力を含めて、本当に尊敬している。

 すると枯チューがテレビ画面を指差して、

「おっ、そろそろ始まりますよ!」

 と言った。

 僕たちは一斉にテレビのほうを見た。

 結局皆見ることも大好きなのだ。

●●●

後白「モ」

宿黒「モ」

【ゆるゆるニュース番組:大牛宿】

《このコンビはウシモくんよりは一回り小ぶりな白いウシと黒いウシのコンビ。独特の間で喋り合う空気系コント師だ》

後白「ニュース始めるモー」

宿黒「モー」

後白「モー」

宿黒「モー」

後白「……どういう映像?」

宿黒「分からないモー」

後白「……あっ」

宿黒「分かったモ?」

後白「いや、いや、そう、なのかな」

《戸惑う宿黒に何か分かった風の後白。ここで長い間が入る。もう五秒は黙っているんじゃないか? ネタが飛んでいるようにも見えるが、このコンビはこれが通常運転だ》

宿黒「説明してモ」

後白「説明?」

宿黒「そう、説明してモ」

後白「あっ、原稿あったモ」

宿黒「それ読むモ」

後白「でも、もう遅いモ」

宿黒「そっか」

後白「モー」

宿黒「モー」

後白「……映像長いモ」

宿黒「そんなことないモ」

《この辺りからテンポ良く喋り始める。緩急で見せる》

後白「でも、終わる気配しないモ」

宿黒「多分まだ続くモ」

後白「原稿、やっぱり、早足で読む始めるモ?」

宿黒「でもさすがに、もう遅いモ」

後白「もう間に合わないモ」

宿黒「そう、間に合わないモ」

後白「諦めるモ」

宿黒「そう」

後白「……」

宿黒「……」

後白「モー」

宿黒「……」

後白「モー」

宿黒「……」

後白「モー」

宿黒「それは何のモーだモ?」

後白「手持無沙汰のモーだモ」

宿黒「そっか、それは僕もモ」

後白「そうなんだモ」

宿黒「僕にも原稿あったけども、もう無理だモ」

後白「気付くのが遅かったモ」

宿黒「一生ってそういうもんだモ」

後白「モ」

宿黒「モ」

後白「……」

宿黒「……」

後白「モー、終わったモー」

宿黒「結局何だったモ?」

●●●

 大牛宿は87点。普通なら通過の点数だが、僕たちのグループなら落ちているスコアだ。

 だからなのか、二頭とも浮かない顔をしていた。

●●●

宇佐「今日もガンガンいっちゃうよぉ!」

中村「ウザさの濃縮還元じゃん」

【大喜利大好き:師弟関係】

《ここは両方人間のコンビだ。宇佐が女子で中村が男子なのは見ての通り。異世界から来てこの世界に馴染んでいる人たちだ。向こうの世界でもお笑い芸人をやっていたらしく、最初からテンポの良いコンビだった。でもその分というかなんというか、伸び悩んでいるコンビでもある。今回は果たしてどうなるか》

宇佐「大喜利のお題出すから答えてね」

中村「いや漫才ってそういうの上手く会話に混ぜてやるんだよ」

宇佐「生活笑百科みたいなこと?」

中村「そうそう、漫才に見せかけて法律の相談事するみたいなこと」

宇佐「でもそれは嘘じゃん、作り物じゃん」

中村「大喜利のお題なんて言ったら、マジの作り物じゃん」

宇佐「お題、植物の種が通貨の国」

中村「いやもう勝手に始めるなよ、尖ったお題で始めるなよ」

宇佐「お題、植物の種が通貨の国」

中村「……敵国のハムスターが攻めてきた」

宇佐「お題、植物の種が通貨の国」

中村「いやツッコめよ、漫才なんだからツッコめよ」

宇佐「多答しないと勝てないよ! ファイト!」

中村「大喜利ライブの練習をさせるな」

宇佐「お題、植物の種が通貨の国」

中村「……死んだ種を植えてるジジイが意味ありげに国の悪口言ってる」

宇佐「もうちょっと分かりやすいほうがいいと思う」

中村「批評じゃなくてツッコミをしてくれよ」

宇佐「お題、植物の種が通貨の国」

中村「……この国だけもうカーボン・ゼロになってる」

宇佐「そういう知的さを見せたいボケは鼻がつくんだよなぁ」

中村「せめてバシっとツッコんでくれ、もういいよ」

●●●

 点数は大牛宿と同じく87点。

 同点だった時、どういうルールだったけ、そんなことを思っていた。

●●●

一字る「遣」

【一文字賢者:一字る】

《見るからに底意地の悪そうな顔をしている男性のピン芸人。センス系で売っていて、無口なので、主力のナマクラさんのように嫌味を言って回ることはないが、仲の良い芸人仲間と酒を飲む時はめちゃくちゃ毒舌らしい》

「虫」 「歌」 「虫」

この字を見て、どう思うでしょうか。

カマキリごときが作り出す汚ねぇ歌、でしょうか。

正解は虫が大好きな歌舞伎俳優です。

こういうクイズを出していきます。

バカなりに考えてくれると有難いです。暇でしょ、どうせ。

《こういう一字システムのネタが主で、ネタと性格が一致した毒っ気。この世界のお笑い芸人はより自分の持っている性格に近いネタをしがちだ。その一番の理由はそれがお客さんにウケやすいということなんだろうけども、どこか引っ掛かる部分もあって。まるで見えざる手にそうしろと操作されているような感覚もあって。まさにそれが僕自身だけども》

「虫」 「歌」 「虫」

どうでしょうか、最初と同じ問題と思うでしょうか、それとも

カマキリごときが作り出した最高傑作の汚ねぇ歌、でしょうか。

正解は虫歌丸により落語、虫、でした、簡単でしたね、一問目ですもんね。

「虫」 「歌」 「虫」

どうでしょうか、同じと思うでしょうか、それとも、

もう引っ込みがつかなくなった私と思うでしょうか、それは正解です、

本当は違うお題にしたほうが私も楽です、だけども、もう何だか、

引っ込みがつかなくなってしまったのです、そういうこともありますよね?

さて、カマキリごときが作り出した歴史上類を見ない汚ねぇ歌でしょうか、

正解はカマキリで俳句を詠む歌人が最初の自分のカマキリに引っ張られ、

もう下の句もカマキリしか浮かばなくなっている状態でした。

つまり私でした。そういうことってありますよね。

●●●

 この世界はあんまり毒っ気のあるネタは好まれない。

 その理由として、演者に可愛いキャラクターが多いことがあると思う。

 でも一字るはその毒が認められていて、ウケもあった。

 結果は89点で勝利確定。ラストは可愛いぬいぐるみのような存在だ。

●●●

ステ「本当に 結果を残す 本当に」

きの「下の句を余らせている。リテイクだ」

【川柳漫才:ふらっと】

《子供用のゴーカートくらいのサイズのステゴザウルスと、身長百二十センチくらいの緑色のキノコのコンビ。大体この世界は四つ足系が子供用のゴーカートくらいのサイズで、自立系は身長百二十センチくらいだ。そこに例外はほとんど無い。そこも何だか誰かに決められているように。一体この世界って何なんだろうと時折、いや結構思う。でも考えても答えは出ないのだ。そうであるだけで。僕は本当の笑顔になりたいという願いがあるけども、同じくらいこの世界とは、と考えてしまう。いやまずは優勝しないといけないんだけども》

ステ「農業が川柳くらい好きなので、農業の川柳作りますね」

きの「まあ貴方がどのくらい川柳好きかは分かりませんが」

ステ「ビバ農業 すごく強いぞ この畑」

きの「ビバから始まる川柳、露悪的ですね」

ステ「ビバ農業 すごい匂いだ 堆肥です」

きの「堆肥ディスでは?」

ステ「ビバ農業 すごい早いぞ ビニールハウスで作ると」

きの「あまりにも字が余り過ぎだ」

ステ「ビバ農業 すごい優しい 農家の人」

きの「まずビバ農業って最初に言うことを止めようか。文句はそれからだ」

ステ「農業を やっている人 カッコイイ」

きの「農業称える川柳、小学生の部か」

ステ「農業を リスペクトしている ホントだよ」

きの「疑っていない上に小学生の部で落ちるヤツじゃん」

ステ「ビバしてる 農業最高 お祭りだ」

きの「ビバって言うな、ビバが川柳にとって露悪的だから」

ステ「農業を お祭りだと思って 接してる」

きの「接してる、という上から目線の言い方は止めたほうがいい」

ステ「農業を 応援したい 応援団」

きの「まず全体を言い過ぎる、好きな野菜を言え。もういいよ」

●●●

 ラストに『ふらっと』が大ウケして、93点。

 このグループは『ふらっと』と『一字る』が通過となった。

 やっぱり他人のネタって面白いと思う。

 皆いろんなこと考えるなぁ、と素直に考えてしまう……と、何か本当の笑顔になれそうなヤツの思考でいいな、と考えてしまったが、そう最後に考えてしまうところが穢れているな、なれるはずないだろと自分の中でツッコんでしまった。


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