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【06 二回戦・本番】

・【06 二回戦・本番】


 二回戦からは、人数もある程度少ないということもあり、勝負を見ていきたい芸人はその場に残って観覧してもいいことになった。

 とは言え、十六グループ×四組で、組数で言えば、六十四組の芸人が呼ばれているけども。

 この大会はワイルドカード枠というものがあって、一回戦で落ちた中から高得点だった数組が復活して、人数を合わせているという話だ。

 枯チューはワイルドカードとは無縁になるため、という願掛けに、話をちゃんとは聞かず、かつ、枯チューが聞かせてくれなかった。

 でも実際ワイルドカードはここぞという時、重要なわけだから、何の願掛けになっているんだろうという感じだけども。

 枯チューと僕のコンビ『NIPPON笑顔疲れ』は二回戦のトップバッターなので、勝利したら観覧していこうという話になっている。

 大楽屋から僕たちはすぐに呼ばれ、舞台裏で最後のネタ合わせ。

 相手は『シラマル!』というトリオコント師と『カッパ弘法』というピン芸人に『ウシモくん』だ。ウシモくんは毎回違うことをするので、正直どんなネタをするかは分からない。

 この中だと、ウシモくんだけ普段のライブシーンには顔を出さないので、未知数だ。

 『シラマル!』はキャラの立っている三人だけども、ネタだとややそれが生かせていない印象がある。

 『カッパ弘法』はハマれば強いが、ネタ数がそんなに多くないので、多分上に上がれば上がるほどキツイはず。だから二回戦ではまだ脅威。

 『ウシモくん』は本当普段のライブシーンに出ている芸人とは雰囲気から違うので、それが面白いという空気になったら手が付けられないだろう。

 今回、ウシモくんは爆発すると仮定して、僕たちとカッパ弘法の二位争いといった感じだと思う。

 まだ二回戦では負けられない。僕は枯チューと最後のネタ合わせをがっつりした。

 司会から呼び込みがあり、トップバッターのシラマル!が舞台上の板につく。

 さぁ、ネタがそろそろ始まる。

 僕と枯チューは舞台袖から見ている。

 会場には事前に撮影された、意気込みVTRが流れている。

●●●

臼田「ジャイアントキリングだ!」

豆打「いいや! アップセットだ!」

白丸「どっちも大番狂わせだし、両方ともちょっと負けてる設定!」

【元気な三色丼!:シラマル!】

《暗転から明転、ついにシラマル!のネタが始まった》

臼田「白丸の趣味って何だっけ? 大袈裟に教えて」

《臼田は臼から手足が生えているような存在。全然人間ではない》

白丸「大袈裟にっ? えっとぉ、巨大迷路が世界で一番好きだぁぁああ!」

《シラマル!では唯一の人間で緊張しい。でも今日はしっかり声が出ている》

豆打「キナコであれよ! 世界一は!」

《何かカッコイイマシン、ゴーカートサイズのF1みたいなのに乗り込んでそれを操縦することで動いているのが、この豆打というおまめのあやかしみたいな存在だ》

臼田「いやいや! 餅! 世界一好きなモノは餅がいい!」

《ここから臼田と豆打の高速掛け合いが始まるのが、いつもの展開だ》

白丸「普通にキナコ餅を推せばいいじゃないか」

豆打「いいや! キナコ単体でイケる人間になりなさい!」

臼田「いや! 餅のほうが栄養あっていいよ!」

豆打「違う! キナコも大豆だから栄養満点だ!」

臼田「キナコなんて所詮ゲホゲホしてしまうものでしょ!」

豆打「餅だって所詮うぐぐぐ食いづらいってなるものでしょ!」

臼田「キナコだってそのまま食べるには食いづらいでしょ!」

豆打「餅に言われたくないよ!」

白丸「いやキナコ餅にしたら両者納得できるでしょ」

《と白丸が落ち着いた声で言う》

豆打「キナコ餅なんて、キナコが刺身のツマになってるじゃん!」

臼田「違うよ! キナコ餅だと餅がキナコの引き立て役さ!」

豆打「違う! キナコがその他大勢!」

臼田「違うって! 餅が無くてもいい存在!」

《ヒートアップした二人をなだめるように白丸が言う》

白丸「両方強くて両方良いよ、卑下し合わないでよ」

豆打「本当に……」

臼田「そうなのかい……?」

白丸「そうだよ、キナコ餅は相乗効果で百点だよ」

豆打・臼田「いやっほーい! 他者からの評価! 他者からの評価!」

《と豆打と臼田がユニゾンし》

白丸「落ち着いたなら良かった」

《と胸をなで下ろす白丸で暗転。いつものシラマル!だった。会場はややウケくらいで、爆発している様子は無い。まあ会場もまだ重たい感じで、これなら点数もそんなに伸びないだろう》

●●●

「ニコ、オマエはどう思った?」

 枯チューが僕に聞いてきたので、僕は、

「まあ始まったばかりだから会場が重いのは仕方ないよね」

「そうだな、何かヒートアップに会場がついてこなかったよなぁ」

 そんな会話をしていると、点数が出た。79点。

 一回戦は70点台後半が出れば勝てていたけども、果たして。

 次はカッパ弘法。

 またVTR後、ネタが始まる。

●●●

カッパ弘法「面白いことが好きです。いいえ、私は面白くありません」

【猿も木から落ちない:カッパ弘法】

『弘法も筆の誤り』と『カッパの川流れ』と『猿も木から落ちる』が、

ごっちゃになった上で、何かすごいクサイモノが乱入してくることって、

ありますよね、それやります。あるあるやります。

《いわゆる無いあるあるというネタだ。カッパ弘法は落ち着いた語り口で変なことを言うので、観客は不意を突かれてしまう。勿論ネタも確かだ。見た目はもう完璧に服着たカッパ。それ以外の何者でもない》

『弘法も川が激クサで泣く』

上流にある工場のせいなんですよね、いくらあの弘法でも、

上流にあんな工場があったらクサさで泣いてしまうということわざですね。

弘法なんて年中鼻詰まってるんですけどね、昔の人だから。

『カッパも木から落ちてきたクサイ実を見てる』

全然自分には関係無いんだけども、あまりにもクサイと見てしまうという。

正直ね、熟し過ぎの柿なんですよね、そのクサイ実って。

ことわざって昔の言葉なんで、その実って柿のことなんですよね。

でも柿業界が「クサイって言うな」と憤って、

柿という記述を消しているんです。

『猿もクサイ弘法に謝り』

クサイ弘法とクサくない弘法がいるんですけども、

今日はクサイ弘法にイタズラしたということですね。

ことわざとしての意味は、一切無いです。意味が一切無いことわざです。

ありがとうございました。

●●●

「正直ウケてたよな」

 枯チューが不安そうに言った。

 僕もかなり不安になっている。だってカッパ弘法は大きくウケたから。

 結果が出た。93点。会場にどよめきが起きる。

 ただこの大会は一回戦もそうだったけども、最初は御祝儀としての点数というか大会を盛り上げるために一グループ目は高得点が出やすい。

 だからその分、僕たちも高いはずだ、そんなことを言い聞かせた。

 次はウシモくんだ。こんな願い最低だけども、ウケないでくれ、と願った。

 いやこんなヤツ、本当の笑顔になれるはずないだろ。

●●●

ウシモくん「今日は冷静に乳牛について語るモー」

【お元気乳牛:ウシモくん】

お元気乳牛だモ。今日はビーガンに言いたいことがあるモ。

《漫談スタイルだ。しかも内容はビーガンに言いたいことという題材。子供用のゴーカートくらいのサイズの丸々見た目がうしの存在がビーガンに物申すわけだからその時点でもう面白い。これは、これは、卑怯だ……》

牛乳は飲んでもいいモ。むしろ搾乳しないと詰まって死んじゃうモ。

いっぱいいっぱい牛乳を飲んでほしいモ。乳牛からの約束だモ。

それと、乳牛のゲップが地球温暖化の原因と言う人がいるけども、

じゃあ人間も消滅すればいいモという話になるモ。

結局その議論の行きつくところはソレだモ。

そうなることに気付いていないんだモ? 頭が悪いんだモ。

地球が植物だけになればいいという話になるモ。

そもそも人間が消滅すれば文化も無くなるから地球に優しいモ。

地球温暖化の一番の原因は人間なのに、乳牛に押し付けてくるなモ。

二酸化炭素を酸素にする機械を作ればいいだけだモ。

そもそもビーガンは旬の食材しか食べていないということだモ?

旬じゃない野菜はビニールハウスで作っているから、

そこで温室に保つための何かを使っているモ。

冬場に日本へ野菜を運んでくる乗り物も二酸化炭素を出しているモ。

そういうモノの根絶から始めるべきだモ。乳牛に押し付けるなモ。

だんだんイライラしてきたモ。モ、モ、いや!

マッイィィイイイイイイイイイイイイイン!

●●●

 僕と枯チューは黙ってしまった。拍手笑いが起きていたからだ。

 ヤバイ、これは本当にヤバイ。

 こんな強いネタを二回戦でするなよ。

 この世界はウシモくんのような人間以外の存在もいて、勿論お客さんにもいる。でも半分以上は人間だ。それなのに拍手笑いが起きていた。

 うしの毒舌漫談って強すぎるだろ、そんなこと考えていると点数が出た。95点。この時点でウシモくんの勝利は確定。

 同時にボーダーがカッパ弘法の93点になった。

 これは本当にワイルドカードも視野に入れなければ、と思ったが、ワイルドカードの説明をちゃんと聞いていなかった僕たちにワイルドカードの神様が微笑んでくれるか。

 いやワイルドカードの神様って何?

 枯チューと僕は最後に目を合わせる。VTRが流れている。もうすぐだ。

●●●

かれ「さて、出番ですね。参りましょうか」

ニコ「分かりました」

【笑顔のために:NIPPON笑顔疲れ】

かれ「今日もコント漫才をしようか、僕、料理人しますんで、客を」

ニコ「分かりました。それで本当の笑顔になれるならば」

《一台詞目はうまく発声できた。ここから流れに乗っていきたい》

かれ「枯れたチューリップの煮つけです」

ニコ「チューリップって少し毒があるのでは?」

かれ「毒の成分を自力で抜きました」

ニコ「恐れ入りました。でも枯れていたら美味しくないのでは?」

かれ「熟成している、という意味ですよ」

《いつもの調子でネタができているし、それなりにウケているような気がする。笑い待ちをしながらネタを進んでいく》

ニコ「それなら最初からそう言ったほうが客に優しいよ」

かれ「でも枯れたチューリップというインパクトが欲しくて」

ニコ「料理人もタイトル付けに大変ですね」

かれ「そうですね、今やバズらないと無価値ですから」

ニコ「現代病ですね」

かれ「現代病と言えばニコさん、本当の笑顔になれましたか」

ニコ「まだまだ難しいですね、顔の筋肉がもう壊れているんです」

かれ「じゃあ心の中では既に笑っている、とか?」

ニコ「いいえ、心の中も全然笑っていません」

かれ「まだダメですか……」

ニコ「短期的に見られても焦るだけ、長期的に見てほしいです」

かれ「分かりました。今後もゆっくりコント漫才やっていきましょう」

ニコ「ありがとうございます」

●●●

 ウケたはウケたと思うけども、正直集中していてどれほどなのかは分からなかった。強弱が分かるほど、余裕は無かった。

 果たして結果は……97点! 高得点だ! やったぁ! 素直に嬉しい!

 僕と枯チューはハイタッチをした。

 まあ二回戦の始まりということもあり、景気よく、御祝儀点数みたいなもんだろうけども、それでもこの高得点は嬉しい。

 このグループは『NIPPON笑顔疲れ』と『ウシモくん』が進出した。

 カッパ弘法は落ち込んでいたけども、もしかしたらワイルドカードがあるかもしれないなぁ、とは思っていた。


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