【03 動画審査予選結果発表】
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・【03 動画審査予選結果発表】
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動画審査予選結果発表があり、結果は合格だった。
枯チューはガッツポーズをして喜んでいたけども、僕の心の中は自分で驚くほどに凪だった。
それは本当の笑顔にならないキャラクターのせいなのか、動画審査くらいなら勝ち上がれるだろうという傲慢さからくるものなのか。
まあこの世界には毎日のように各所でライブがあり、そこでネタバトルなんて日常茶飯事だ。
僕と枯チューのコンビ『NIPPON笑顔疲れ』は優勝の常連、だからまあ少しくらい驕っていてもおかしくはないんだけども。
動画審査の結果発表はメールできたので、その場で枯チューと一緒に喜んでいると、奇怪漫才の『チャイチ』のイチグラムくんが話し掛けてきた。
「ちょいーっす! もしや笑顔疲れも予選通過って感じぃ? まあそれは当然か! でもビッグサプライズ! 俺らも予選通過しちゃったよぉ~ん!」
いつも軽いノリのイチグラムくん。漫才ではツッコミを担当しているが、そのツッコミは何かズレている。
でももっとすごいズレを生み出すのが『チャイチ』のボケ担当・チャイイロくんだ。
爽やかな犬顔に綺麗な茶髪、イケメンで高身長、本当にただのモデルではと思うこともあるが、このチャイイロくんはとにかく奇怪なのだ。
「おい! チャイイロ! 喜びを体で表現してみろよ! 枯チューとニコに見せつけるぞ!」
くるくる、くるぞ……。
「へい」
そう言ったチャイイロくんはその場でバック宙したと思ったら、そのまま体が透過されて、宙に溶け込んでいき、消えてしまった。
「おっしゃ! 決まったぜぇ~! チャイイロどこだぁー!」
そう言って走り去ったイチグラムくん。
そうチャイイロくんは特殊な能力を使って、透明になったりできるのだ。
この芸に慣れていない人はぶっちゃけヒくし、気味悪がる。
この世界には剣や魔法、忍術を使う者は確かにいる。
でも少数なのだ。そういうことができる人間は。
だからそれをネタに利用する人なんてまずいなく、そういう点で『チャイチ』はイロモノ漫才師として扱われる。
慣れない人がいれば完全にスベるので、お客さんの投票で結果を決めるネタバトルのライブでは最下位争いをよくしているコンビだが、今回の大会はお笑いに慣れた人が審査するという話だ。
少なからず『チャイチ』のことを知っている人が審査するのだろう。
ということは『チャイチ』本来の面白さが伝わるということを意味している。
意外と強敵かもしれない、予選で同じブロックになりたくないなぁ、と思った。
僕たちはこれから仕事で、ネズンという巨大商業施設でネタをすることになっている。
ここの社長が大層お笑いが好きで、ライブ会場を何個も施設内に所有している。
今日は社長自ら僕たちと喋りたいということで、ライブ時間よりも早く着いて、社長室に向かっていた。
「ネズンの社長って、あんまネタバトルには出てこないからなぁ、久しぶりだよな」
枯チューが飴の小袋を開けながらそう言った。
これから社長と話すのに、飴って、とも思ったが、そんなことを気にする小さい人ではないので、いいかと思った。
枯チューは続ける。
「ネズンの社長って、えっと、芸名はねずくんだっけ? ねずくんって呼んでもいいのかな?」
そう、ネズンの社長もお笑い芸人をやっている。
とにかくこの世界は誰でもお笑い芸人をやっているのだ。
このねずくんという人、すごく変わっていて、顔が完全にねずみなのだ。
完全にねずみと言ってもコミカルな、ファンシーなねずみグッズのようなねずみの顔だけども。
体は普通に人間なんだけども、身長は小学生サイズ。
一応それで完全な大人らしい。
エレベーターはどんどん上にあがっていき、扉が開いた。
本来この階にエレベーターは止まらないが、社長の操作によってこの階層に着くようになっている。
だからこの階層はすぐに社長室の扉に繋がっている。
ドアtoドアの距離で、すぐに扉を開けると、そこには黒い椅子、いわゆる社長の椅子に座るねずくんがいた。
何台ものパソコンが並んでいて、それを一人で操作しているといった感じだ。
秘書の類はそこにいなくて、ねずくん一人だった。
ねずくんは笑顔でこう言った。
なんせファンシーなねずみグッズの顔なので、めちゃくちゃ可愛い。
「やぁ! 久しぶりねず! NIPPON笑顔疲れは今ライブシーンで一番だもんね!」
「いえいえ! そんなことありませんよ!」
そう満面の笑みで答える枯チュー。
僕は謙遜するように会釈した。
するとねずくんはパソコンが置いてある机の前にあるソファーまで歩いてきて、
「ままっ、座って座ってねず。最近のライブシーンについて聞きたくて呼んだんだねず」
枯チューは椅子に座ってから、すぐにこう言った。
「最近のライブシーン、めっちゃ面白いんで今度来てくださいよ!」
「それは客ねず? それとも芸人としてねず?」
「そりゃお好きなほうで!」
そう言うと、ねずくんと枯チューはドッと笑った。
僕はこういう大人の会話ができないので、なんとか作り笑顔をして頷いていると、ねずくんが僕のほうを見ながら、
「君がニコさんねずね、僕の時代にはいなかった芸人さんねずねぇ」
なんて言えばいいか分からず、めっちゃ早く頷き連発をしていると、枯チューが、
「俺もそうですよぉ、俺はねずくんの時代が聞きたいですねぇ」
「そんなん今と一緒ねずよ、でも今の時代のほうが、ネタが多様化していてレベル高いねずね~」
「いえいえ、先人の方々が作り上げてくださったからじゃないですか! まっ! レベルは高いですけどね!」
と言うと、また枯チューとねずくんでドッと笑い合った。
僕は正直失礼じゃないかなとハラハラしてしまうんだけども、その後も枯チューとねずくんの会話は和やかに進んだ。
そろそろライブの時間かなという雰囲気になった別れ際、ねずくんがこう言った。
「そうだ! オールラフトーナメント出るんだねずね!」
「えぇ、出ますよー」
「僕も出ることにしたねず! オールラフトーナメントは六年前に終わって以来だからつい僕もエントリーしちゃったねず!」
「えっ? ねずくんも出るんですかっ?」
「うん! 動画予選も通過したねず!」
「すごいですね!」
枯チューのそういう上から目線みたいな返答とかもどうなのかなと思いつつも、特に指摘しないまま、僕と枯チューはエレベーターを下がっていった。
その時に枯チューが、
「でもさ、ネズンの社長って時点でこの世界のレジェンドなのにさ、動画審査って……審査するほう忖度してないよな?」
「ちょっ、失礼過ぎっ」
と言って僕はたしなめたんだけども、確かにそういう考えもあるなぁ、とは思った。
この世界の大型商業施設は全てネズンが取り仕切っている。テーマパークもそうだ。
ねずくんランドという、ねずくんが好きなモノを詰め込んだテーマパークも運営していて、それが大評判で日本でいうところの……まあこれはいいか、そんなことを脳内で考えている暇は無い。
そろそろライブが始まる。ギリギリまで話し込んでしまったから。
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●【動画予選通過者】
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