【01 ニコ】
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・【01 ニコ】
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僕はこの世界に疑問を持っていた。
何でこの世界の住人は皆、こんなに存在がバラバラなんだろうか。
いや分かる。分かる部分もある。
何故なら異世界からこの世界へ遊びに来る勢もいるので、その辺がごちゃ混ぜになっていることは理解できる。
でも、でもだ、それにしてもバラバラ過ぎるのだ。
剣や魔法、忍術を使う者もいれば、僕のように何もできない者もいて、移動手段は専ら自転車という、いわゆる科学を使う者もいる。
自動車を運転する人もいるが、この世界、というか僕が住んでいるこの島は狭いので、自転車で十分だ。
まあ大きなモノを運ぶ時などもあるからタクシーはよく走っているけども。
ただ一番不可思議な疑問点はそこじゃない。
一番気になっている箇所、それは自分自身だった。
僕はまるでそういったキャラを与えられているかのように、ずっと嘘の笑みを浮かべている人間だ。
周りのことが気になって、気を遣って、嘘の笑顔を浮かべているが、何だかその行動が自分の芯から湧き出ているようなのだ。
辞めたくても辞められないというか辞める気にもならない。
この世界の住人や異世界から遊びに来る人たちは、誰も僕に笑顔を強要しているわけではないし、どちらかというと皆自分自分の精神で他人のことをあまり気にしていないようにも思える。
でも僕は何故かこの嘘の笑顔をしてしまうのだ。
それが顔に張り付いて取れないのだ。
何で僕はこんな性格なのか、そんなことを思っていたある日、大規模なお笑いの大会が行なわれるというニュースが流れた。
オールラフトーナメントという大会で、一グループ四組でショートネタバトルし、審査員五名が二十点満点で審査して合計点の上位二組が次のラウンドに勝ち進むという大会だ。
実はこの世界の住人は皆お笑いが好きで、大体の住人がお笑い活動を行なっているor行なっていた。
それもまま不思議なことなのだが、これに関してはもう皆やっているからやっているという感じだ。
異世界から遊びに来た人たちも例外無く、皆お笑い活動を始める。
まあそういう人たちに関して言えば、そういうことをやりたくて来ているんだろうけども。いや詳しく聞いたことは無いけども。
そんなわけで僕には相方がいる。人によってはピンで活動したりしているのだが、僕は相方がいて一緒に漫才をしている。
枯チューという枯れたチューリップをこよなく愛している人だ。
そこにも何故という理由は無い。ただただ枯れたチューリップが大好きなのだ。
そのことについては、本人にも聞いたことがあるが、
「好きなんだからしょうがないよ」
とだけ言っていた。
まあ確かに好きというモノはそういうモノなのかもしれない。
でも僕は決してこの嘘の笑顔が好きではない。
好きではないのに、ずっとしてしまうんだ。
僕みたいな人は他にもいるんだろうか。
あんまりそういう話はしたことがないから分からない。
オールラフトーナメントのことを相方の枯チューに話すと、すぐに出場しようという話になった。
この大会で優勝すると、どんな願いも一つ叶えてくれるという話だ。
だから僕は本当の笑顔になりたい。
それが僕の願いだ。
枯チューは枯チューで別の願いがあるらしい。これはコンビ・トリオ・カルテットならそれぞれ叶えさせてくれるという話だ。
僕と枯チューは『NIPPON笑顔疲れ』というコンビ名で活動している。
この世界は日本語という言語を使い、日本語とは日本という国の母国語らしい。
この世界の娯楽は主にこの世界のテレビ・ネットと、日本という国のテレビ・ネットが流れている。
日本という国から本なども輸入されている。あんまり量は多くないけども、あることはある。
日本という国の文化をテレビやネットで知る限り、ここに輸入されている本はやや偏っているような気がするけども、まあそこを気にしている人はあまりいない。
本当に読みたいのなら、スマホのアプリなどで好きに閲覧すればいいだけだから。
まあそんな日本という国との関係性を脳内で反芻している必要性は無い。
今、僕に必要なことはNIPPON笑顔疲れのネタ作りだ。
まずは大会運営に一分ネタを送らないといけない。
動画審査をして、ある程度数を絞るらしい。
まずこの予選を勝ち抜けられるように、ネタを練らなければ。