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ダックダイニング店舗円滑化推進部 ~料理は厨房だけでするものじゃない!~  作者: たかたちひろ@『巻き込まれ転生幼女』2/28 発売!
三章

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53話 おとまり

「すいません、こんな時間まで」


長い長い、打ち明け話になってしまった。


鴨志田は、なにも言わずに首を横へ振る。

お茶は手をつけられておらず、好物たるクッキーさえ一枚も減っていなかった。


「それで、後輩。明日のデモは、どうするつもりだったんだ」

「……やりますよ、仕事ですもん」

「できないだろうが、そのままじゃあ」

「だから練習しようと思ったら、鴨志田さんが」


そんな域でないことは、分かっているのだけど、諦めたくはなかった。


鴨志田はクッキーを一気に口へ詰めると、それを流すかのようにお茶を飲み干した。

でんと胡座をかくと、腕組みをして目を閉じる。


「なぁ後輩。今日泊まっていってもいいか」

「…………はい?」


希美の頭が真っ白になった。


「人を泊める用意ぐらいあるんだろ? 友達が来た時用とか」

「そりゃありますけど……。でも、鴨志田さんの家みたいに高級な奴じゃないですよ。通販で買ったやつで──」


と、普通に答えてしまったがそうではない。


「それで十分だよ。まだ床に寝て腰を痛める歳でもないし」


えぇ、と希美が声を上げたのは間もなくだった。隣人迷惑という常識が、一時的に吹き飛ばされてしまった。


「な、なんで! たしかにもう遅いですけど、車があったら帰れますよ!」

「俺がいなくなったら、すぐ包丁使うつもりだろ。顔に書いてんぞ」


図星だった。いとも簡単に見抜いてしまうのだから、その慧眼は恐ろしい。


「使いませんから! 絶対、きっと、たぶん……!」

「どんどん信憑性薄れてんの気付いてるかー」


希美は、鴨志田の肩を揺すってみる。石像のごとく、頑として動かない。


「ちなみに、余計な心配はするなよ。誓って変なことはしないから。きゅう、なんて鳴かないよ、俺は。それに──帰るの面倒くさいしな」

「この省エネ男め!」


鴨志田は、そのまま後ろへ倒れる。あくびを一つ、今にも眠りそうな調子だ。


ふざけているのかと思うが、鴨志田の本意が別にあることは希美にはもう分かっていた。


この人は、純粋に希美のことを案じてくれている。

そう思うと、その美丈夫を極めたような寝顔に関係なく、希美の心にぽっと火が灯る。


「分かりました、分かりましたから。鴨志田さん、せめてお風呂入ってください。スーツのまま寝たら、べとべとになりますよ」


鴨志田は返事をしない。でこをピシッと叩けば、


「……助かるよ」


やっぱり狸寝入りだった。


急な来客、それも男性を泊めるなど、思ってもみないことだった。

彼氏ゼロで二十余年間を生きてきた希美の家に、男性用のアイテムがあるはずもない。


あるものは使っていいからとしたうえで、近くのコンビニで物を補給した。


日付が変わった頃、あっさり消灯する。


鴨志田の公言通り、なにも起こらなかった。

彼が寝ている布団から、すぐに寝息が立つ。変な意識をしているわけでもないが、希美は眠れなかった。


暗闇に目が慣れてくる。うつ伏せに肘をついて、鴨志田を見つめた。


この人がいてよかった。なにも今日に限った話ではなく、この部署にきてからはずっと彼に支えられている。


「……ありがとうございます、鴨志田さん」

「ちゃんと面と向かって言えよ」


起きてんのかい! と希美は、即座に突っ込んでいた。




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