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ダックダイニング店舗円滑化推進部 ~料理は厨房だけでするものじゃない!~  作者: たかたちひろ@『巻き込まれ転生幼女』2/28 発売!
三章

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47話 会計不一致は、まさかの真実?

     五


トップが来訪するとなれば、『天天』が大騒ぎになるのも無理はなかった。


その日、昼前に到着するという会長に先んじて、希美たちは店へと入った。


家庭訪問の前に家を大片づけするのに近い感覚なのだろう。

できるだけ綺麗に、と店員が総出で掃除に取り掛かっていた。


その脇で、希美らは店長である岡に再度挨拶をする。


「……あぁ、蓮くんだったのか。大きくなったなぁ」


今日の鴨志田は、変装をしていなかった。

前回は、会長の話をしたくなかったがためだったらしい。


「もう十年以上ぶりだろう? 会えて嬉しいよ」

「俺もですよ。でも、これからもっと大事な再会が待ってますから」

「……あぁ、そうだな。もう準備に戻るよ。下手な料理作ってたら、殴られちまう」


岡は低い声で言って、前掛けを首に掛ける。


後ろ手に結ぶのに、何度も失敗していた。黙々としているが、落ち着かないようだった。見ているだけで、やきもきしてくる。


「……なんだか私まで緊張してきました」

「どうして後輩が?」

「だって、かつての盟友が再会するんですよ! 熱い展開じゃないですか」

「……あー、後輩。そこのダスター取ってくれ」


まともには、取り合ってもらえなかった。


諦めて、片付けを手伝う。


そうして予定していた十一時の少し前、


「代表、いらっしゃいました!」


店先で番をしていた店員から声がかかった。


岡が、こけそうなほど前のめりに玄関先まで抜けてくる。


引き戸がどこか懐かしい音をカラカラ立てて鳴って、


「久しぶりだな、岡」

「おう。もう見ることもないかと思ってたよ」


時が引き戻されたかのようだった。


顔を合わせるなり、二人は抱き合う。真っ黒のスーツと、白の割烹着が対照的な絵だった。


店員たちは、それを円形に囲む。


二人が中あいにある席へ着くと、彼らはそれについて回った。


会長は、ラックに挿してあった裏表一枚のメニュー表を手に取ると従業員らにも見えるようにだろう、真ん中に置く。


「なんだ岡。ほとんど創業当時のまんまじゃないか」

「あぁ、店を始めた時からなんにも変えてない。メニューも全く一緒のままだ」


「いいや値段が変わったさ。昔はもっと安かっただろう」

「そうだなぁ。四百円もいかない料理ばかりだったっけ。覚えてるよ、二人でこの席で少ない小銭数えたよな」

「利益を見たら、数百円って日もあったよな。それが今や年にしたら数千万円だ」


語られた昔話に、希美は強く惹きつけられた。


今や本部まである大きな会社が、硬貨数枚の稼ぎから出発していたことがリアルに想像できて、心が熱くなる。


「なぁ岡。あの頃の百円と、今じゃあなにが違うんだ?」

「……お金の件で来たんだったな、そういえば」

「それもあるが、それだけじゃない」


会長は旧友に向けていた和やかさを、鋭いものへと変える。


「次世代を育てていくことも、俺たちのやるべきことなんじゃないか。数百円だろうが、お客様から貰うお金には違いない。それを大切にできる文化を残さなきゃいけない。

 岡、ろくに指導もしてないだろ? それどころか厨房に人を入れてないそうだな」

「……俺の味を提供できないと期待に応えられないと思ってな」


「それじゃあ、数年先にその期待に応えられなくなるだろ。むやみに続けることには、なんの意味もない。俺たちはいつでもお客様のために、その横に付き添いながら、味を何年も先へ届ける必要があるんだ。

今はたしかに岡に敵うやつなんていないだろう。でも、練習すればどうにかなるさ。お前だって下手くそだったんだ」


内容自体は、鴨志田が言っていたものとほぼ同一だった。


けれど間違いなく、同じ道を肩組んで歩いた盟友でなければ、できない忠告だった。


岡は心を打たれたようだ。

眉をしかめてしばらくの沈黙を作ったのち、店員たちを見回すと、


「……これまで、すまなかった」


こう非礼を詫びた。


そのうえで、会計の不一致について調査の協力を願いでる。


ようやっと希美らの出番かとも思ったのだが、幕が上がるまでもなかった。


「すいません、俺たちがやったんです」


従業員らが一斉にこう白状したのだ。

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