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46話 謎のメモと感傷

会が無事にお開きとなり、希美は鴨志田に家まで送り届けてもらう。


希美の酔い覚ましにと、途中でコンビニへ寄った。


鴨志田を車内に残して、お茶を二本買う。戻ってくると、彼はまた例のメモ帳を手元に抱えていた。


「それ、前から思ってたんですけど、なんなんですか?」


助手席に乗り込み、希美は尋ねた。


前回はすぐにしまわれてしまったから、気になっていたのだ。


「……ま、もう見せてもいいか」


鴨志田は一枚の写真を抜き出すと、希美の膝下、赤いスカートの上に乗せる。


それは『天天』の前で、鴨志田家や岡らが並んだ集合写真だった。

全体がセピア色に霞んでいる。


「これ、ずっと持ってたんですか。たまに眺めてたのも?」

「……まぁな。後輩が机に飾ってんのと同じだよ。俺は、なんだかんだで、あの場所が好きだったんだ」

「会長も夫人もいて、岡さんがいる?」

「そうだな、俺にとっては三人とも本当の親みたいなもんだから。……もう手に入らない宝物だと思ってたがな。たまには、自分から探しにいくのもいいかもしれないな」


そんな言い回しを、どこかで目にしたような。


「あ、謎のメモ書き! 運のいい人が見つけるっていう……」


声に出ていることに気づいて、まずったと思った。


「……後輩、いつ見たんだよ」

「わ、わざとじゃないんですよ! この間、鴨志田さんが落とした時に、ぺらっと。たまたま偶然たまさかに!」


よっぽど見られたくない代物だったらしい。

鴨志田は、やや早口に、言い訳のようなものを連ねていく。


「別にじいさんのことに限った話じゃないからな。あれは俺の気づきをメモしててだな」


長くなればなるほど、家族や店を宝物のごとく大切に思っていることが伝わってきた。


希美は写真に目を落として、遠く離れた実家へと思いを馳せる。


もう数年来、帰ってもいない。仕送りがたまに届くくらいだ。


希美の宝物は、兵庫に置きっぱなしのまま、今はどうなっているやら。


本部直営店のオープンがうまくいったなら、胸を張って帰れるだろうか。

感傷的な気分に襲われて、希美はGショックごと、強く右手首を握った。



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