表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/61

30話 YES!!

仲川は興味深そうに、パフェグラスを一周くるりと回す。そのあと、一口含んだ。


「……たしかによく合っていますね」


はじめに漏れたのが、これだった。希美は、一つほっと息をつく。


「でも、もう企画は始まってます。変更することは……」

「むしろ始まったばかりです。テレビ放送前なら、まだ引き返せます。緊急の案件は、部長会で決定してるんですよね? ならチャンスはあります。仲川さんならやれるはずです」


なにも、根拠がないことを言っているわけじゃない。


「私、知ってますよ。仲川さんが実は料理に熱い思いを持ってること!」


あたかも初めから知っていたように言ったが、確信したのはさっき話を聞いてからだ。


部長会での積極的な態度は、なにも偉ぶっていたわけじゃない。少しでもいい料理を提供したいからこそ熱くなったのだろう。


団子さくらんぼパフェにしてもそう。一見投げやりだが、味は悪くなかった。あれは上部の意見を押さえつつも、せめても食べられるものにしようという努力の結晶に違いない。


そこから導けるのは、彼も本当は料理を愛しているということだ。


でなければ、わざわざ中小の飲食会社の本部に就職などしない。秀才でルックスも申し分ない。引く手あまただろう中から、仲川自身がここを選んだのだから。


「……生放送までは一週間。時間がたりませんよ。部長会を通して、各店舗へ通知を出すだけならできるかもしれませんが。まだ味がばらついています」

「それは、はい。分かってます」


希美の思いつきから、阪口には即興で作ってもらった。

砂糖の量や、水・片栗粉などの微調整は、考慮の余地がある。


「私が商品企画部のお手伝いをします。店舗円滑化推進部は、こういう時のために便利屋を兼ねてきたんです! ……たぶん」

「あなたは鴨志田の後輩でしたね。正直、あなた方をどこまで信用していいか分かりかねますね」


仲川は渋るように、腕組みをした。

そこから無言になって、パフェを黙々と食べ進める。


実力を計られているのかもしれない。希美は固唾を呑んでそれを見守った。ペースが落ちることもなく、無事に平らげられる。


「……木原さん。お力を借りてもいいですか?」


もちろん、希美の答えはYESだった。握り拳を固める。


「任せてください!」

「……では明日からもう動き出します。時間がないですから。私はまず部長会に掛け合います。木原さんたちは、明日こちらへ行ってください」


そう言うと、仲川は手帳にペンを走らせる。用紙をちぎって、希美に手渡した。


それを見るや希美は目が開きっぱなしになる。


いや、まさか生真面目そのものたる仲川に限ってそんなはずはない。


けれど、丸みを帯びたその文字は、あの悪戯ラブレターとよく似ていた。


「本社とは別にキッチンがあります。そこへ、手すきの人員を回します。それから……」


話そっちのけで、希美は仲川の顔を凝視してしまう。


条件だけ見れば揃っていた。あの手紙が入っていたのは、商品企画部のボックスだ。

たしか内容は、デートのお誘いだった。


流れは全く違えど、こうして二人で食事にきている。


でも、ついさっきまで不躾な態度を取られていた。照れ隠しという風にも見えなかった。


「木原さん、そう見つめられると恥ずかしいのですが……。どういう魂胆ですか」


こっちが聞きたいよ! 心の中で希美は悲鳴を上げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ