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ダックダイニング店舗円滑化推進部 ~料理は厨房だけでするものじゃない!~  作者: たかたちひろ@『巻き込まれ転生幼女』2/28 発売!
二章

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24話 先輩のおごり


     四


結局、希美の努力は実らなかった。


二週間後の五月下旬、フェア企画は、そのまま実現に至っていた。


大々的に告知がなされ、社内各所にも「さくらんぼフェア」のポスターが貼り出される。店舗円滑化推進部の執務室内にも、忌々しい団子パフェが大きく飾られていた。


希美はつい剥がしてやりたい衝動に駆られる。一枚くらい、と魔が刺しかけた時、手がほんの軽くはたき落とされた。


「そんなことしてもなにも変わらないぞ、後輩」


ビニール袋を提げた、鴨志田だった。


「……分かってますよ」


希美は大人しく自席へと戻る。ちょうど昼休憩の時間だった。上席たちが戻ってきているわけもなく、室内は鴨志田と二人だ。いつもならば、彼が一番最後に帰ってくるのだが、


「お気に入りの店が閉まってたんだ。臨時休業だとよ」


こういうわけらしい。


「それでコンビニですか」

「あぁ、惣菜パン。そういう後輩は?」

「これからどこかに行きます! パンにも、ゼリー飲料にも頼りません!」


希美は力強く言って、ビジネストートを漁る。すぐあと、あれぇと情けない声をあげていた。荷物を全部出してみても、財布がない。そういえば、昨日の夜に外食をしたまま、私用のカバンに入れっぱなしにしていたのだった。


「なんだ一文なしか。食べるかー、ツナマヨパン」


鴨志田は半笑いで、四つ入りのパン袋を揺らす。

ぐぎゅううぅ、と凹んだお腹が渦巻いた。誤魔化しが効く余地もない。


「……ください」

「正直でよろしい。パンもゼリーもバカにするもんじゃないぞ。企業による努力努力の末に作られてんだから」


希美は、渡してもらった丸パンを見つめる。


大口を開けて塊ごと詰め込むと、たしかに美味しい。生地の甘さといい、ツナマヨの程よいしょっぱさといい、これが四個でワンコインならかなりのコスパである。


「ま、企業努力じゃなく、昇進努力によってる会社もあるがな。全くどこの会社なんだか」


自分の会社ですよ。こう言おうとしたが、口が開けない。懸命に噛み進めて、


「さっき、例のパフェの日次売上推移を見たんだ」


希美はパンをごくんと一飲みにした。


「……どうなってましたか?」


口より早いと思ったか、鴨志田はPCを開く。電源コードを抜いて、膝上に置いた。


映されていたのは、店舗からの報告を元に、日々財務部が作成している商品別売上管理表だ。新たにパンを咥えつつ画面を見れば、結果は一目瞭然だった。


「跳ねたのは話題性で売れた初日だけ。そこからは、不味いとネットで悪評が瞬く間に広がって」


折れ線グラフは、地を這うような位置で、小さな上下を繰り返している。


「あまりに売上が悪いから、今度、お昼のテレビ生放送で取り上げてもらうらしい。タレントに無理に美味いって言わせるんだと」

「……そんなに不味いんですかね?」

「食べに行ってみるか、今夜」

「えっ。でも私、お財布なくて」

「……出してやるよ。他のもんも適当に食べればいいだろ、適当な量だぞ」


その言葉を聞いた途端、希美の瞳に星が宿った。


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