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23話 若きエリート部長は本当に傲慢なだけ?

そんなふうに、弱点情報まで手に入れて、希美はいよいよ再戦へと挑むことにした。仲川の前へ勇み出る。


「またあなたですか」


彼は目を瞑り、眼鏡のツルを眉間に押し付けていた。


「頭が痛いんですか? 出直しましょうか」

「誰のせいだと思ってるんですか」


開かれた目は、鋭く角張っている。

ビームでも放ちそうな雰囲気だ。腰が引けそうになるが、粘った。


「ゼリードリンクの飲み過ぎのせいでは? 企画のためにも、健康のためにも、ちゃんとご飯食べたほうがいいと思います!」


希美が言い切ると、フロアがにわかにざわめき出した。


「あなたに食生活のことまでとやかく言われる筋合いはないと思うのですが」

「とやかくは言ってません。元気そうなので、本題に入っても?」

「…………どうぞ」


少し押せているかもしれない? 希美は、不確かな手応えとともに、まず資料を渡した。


「この通り、フェアメニューの見直しを求めます! インパクトより印象です。団子を乗せるのはやめて、素直にさくらんぼのみでいきましょう!」


今度はぬか喜びはせず、反論を待つ。

鴨志田相手に散々にされたあとなので、大体の切り返しは読めているつもりだった。だからこそ、思わぬ死角にしてやられた。


「コンセプトは和洋折衷と言ったはずです。インパクトも必要。私にはこの二つしか言うことはありません。お帰りください」

「……へ?」

「これ以上話すことはないと言っているんです。そもそも、この企画はもうフィックスしています。……そうですね。今日は、こちらをどうぞ」


理論とは正反対、問答無用の突き返され方であった。


呆然としていたら、またしても煎餅をもらってしまう。海苔巻きつきの、ざらめありだった。少しグレードアップしているのは、敢闘賞なのだろうか。


ぽかんとしているうちに、部署を追い出される。すぐに恵子が後をついてきた。


「希美ちゃん……。本当ごめんね、力になれなくて」

「ううん、恵子にはむしろ感謝しきれへんくらい」


希美は失意のうちに、店舗円滑化推進部まで帰ってくる。


「その顔はやられた、って顔だな」


デスクについてもショックで思考が働かないでいると、横から鴨志田がぴしゃりと言い当てた。


「なにがあったか聞こうか、後輩」


希美は、商品企画部で起こった出来事を話す。こうして振り返ってみると、なお理不尽に思える。なんだか、胃がムカムカとしてきた。


解消するのにぴったりのものが手元にあった。

希美は、バリバリ豪快に食ってやる。これまた、しっかり美味しいのも腹立たしい。


「……とりあえず呻くなよ。その煎餅は、シカ煎餅か?」

「私は鹿じゃありません! あ! 馬鹿でもないですよ! というか、あれだけ用意したのに、鴨志田さんはムカつかないんですか!」

「ないな、別に」


希美が活火山なら、鴨志田は死火山だった。首をこきっと鳴らして、肩を揉む。


「諦めてるからな。諦観ってやつだ」

「聖人かっ!」


希美が強烈なツッコミをかましたところで、こほん、と咳払いがある。


早川部長が渋い顔で、希美を見ていた。たしかにこの騒ぎようでは仕事にならない。


「あ、すいません! ついかぁっとなっちゃって」

「いやいや、そうじゃないんだ。木原くん」


早川部長は、手を素早く上下に動かすなど、少しおろおろしていた。


「私も部長会では彼と話をすることがあるからね。思うところがあるんだよ」

「はぁ、部長会ですか」

「木原くん、私も一応部長だからね?」


……そういえばそうだった。希美は話の続きを待つ。


「仲川くんは、部長会では積極的なんだよ。むしろ意見を押し通そうと強いてくるくらいね」

「でも、上層部の意見には忠実だって」

「そうなんだよ。人の価値が立場だとでも思ってるんだな、きっと。同じ立場なら、若いうちに部長になった自分の方が上だと思ってるんだろう」


早川部長はそれだけ言うと、自慢の植物たちへ携帯カメラを向ける。レンズを振りながら、


「生えてから何ヶ月だろうが、花をつけようがつけまいが、同じ植物。あ、いやいや、同じ人間なのになぁ。上下なんて人が勝手につけるものだよねぇ。お、いいの撮れたぞ」


一見、少しいい話をした。ほんとの見かけだおしである。


仲川部長がこの人に高慢な態度を取るのは仕方ない気がしつつ、大枠では希美も早川部長の意見に同意だった。

立場の上下は判断基準の一つでこそあれ、全てになってはいけない。


ただ、彼はそれだけの人なのだろうか? 


それしかない人が、あの年齢で部長になれるものか。早川部長や佐野課長が示すように、ダッグダイニング株式会社は、基本的に年功序列制である。それを打ち破ってまで昇進したのに?


ぬぐいきれない違和感が希美の懐に残った。



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