正確には“アルファベット”じゃなくて“ラテン文字”じゃないかと思った話。
異世界作品に於いて「ランク付けに“アルファベット”が使われていることに異を唱える」エッセイを拝読しました。
「(異世界は)“アルファベット”が存在していない世界なのだとしたら」と前提しており、「どうやって、ランク分けにその文字を採用したのか?」と苦言を呈しています。
一見すると「その通り」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、私からすれば「見当違い」としか言えません。お読みになられた方の中に同意していただける方も多いのではないでしょうか。
さて、ここで“アルファベット”の意味を改めて調べてみましょう。
「表音文字のうちの音素文字の一種で、学術的には、一つ一つの文字が原則としてひとつの子音もしくは母音という音素を表すものを指す」
確かに「A~Z」は“アルファベット”という括りに入ります。しかし、正確に言えば「A~Z」は“アルファベット”の“ラテン文字”にカテゴライズされます。
なぜ、“正確に”となるかは“ラテン文字”以外にも“アルファベット”があるからです。昨今よく見聞きする“ラテン文字”以外の“アルファベット”といえば“キリル文字”があります。「ロシア語」などで使われる“アルファベット”です。
つまり、「“ラテン文字”が存在しないこと」と「“アルファベット”が存在しないこと」は同義ではないのです。
件のエッセイの前提条件である「(異世界は)“アルファベット”が存在していない世界なのだとしたら」は「“ラテン文字”が存在しない」からという理由だけでは成立しないのです。
件のエッセイの前提条件を有効にしたいとするなら、
「(異世界は)“ラテン文字”が存在していない世界なのだとしたら」
としなければなりません。
まずは、この条件を前提に据えて、話を進めます。
では次に、
「(異世界は)“ラテン文字”が存在していない世界なのだとしたら、どうやって、ランク分けにその文字(ラテン文字)を採用したのか?」
の検証をしてみます。
先にも述べた通り、異世界に“ラテン文字”は存在しないとしても“アルファベット”までが存在しないことにはなり得ません。
作品内で「“ラテン文字”を含めた“アルファベット”が存在しない」という証明は作品内で使われる言語(以下、「異世界言語」)が作品内で「“アルファベット”は使われていない」という設定がなされている場合にしか成立しません。
しかし、私はそんな設定がされている作品を見た記憶がありません。もしかしたら、あるのかもしれませんが限られた一部の作品だけではないでしょうか。
そう考えると「異世界言語」の“アルファベット”(以下、“異世界文字”)をランク付けに使用している可能性を否定は出来ません。
では、“異世界文字”を作品内で表記が可能かといえば、それは不可能です。
“異世界文字”は実際には存在しないからです。
それゆえに“異世界文字”の代替として“ラテン文字”を利用することになるのです。
これが例えば“キリル文字”で代替すると、
「これで、俺も今日からЖ級冒険者だ」
となり、パっと見での判断がし辛くなります。
というよりも、私は読めません。“Ж”の発音や何番目の文字か知っている方もいらっしゃるでしょうが、その周知度は“ラテン文字”とは比較にならないくらい低いのではないでしょうか。
つまり、異世界作品に於いてランク付けに“ラテン文字”が使われている場合は「“異世界文字”の代替」であり、「読者へのわかりやすい表現方法」であると考えた方がいいと私は認識しています。
私からすれば、そんな細かいことを気にするより、もっと大らかに作品を楽しめばいいのに、と思えてなりません。