第1章 第5話 弁当
「中々上手くいったんじゃない?」
昼休み。俺と巫子は屋上へと続く階段の裏で会議を行っていた。
「ああ……やりすぎなくらいにな」
巫子が俺の彼女面をしてきたのは朝だけではない。授業と授業の間。移動教室。果ては授業中まで細かく俺に絡み、その度にクラスを沸かしていた。
「……協力してもらってなんだけどさ。そこまでやってもらわなくてもいいよ。噂程度ならいいけど、ここまでアピールするとその……芸能活動に支障がさ……」
「ん? 大丈夫大丈夫。芸能界では週刊誌に家の前とかホテルの前で写真を撮られない限り交際にはならないから。高校生が異性と2人で話しているところを週刊誌に送ったって釣れないって。学校の外ならもうちょっと控えるけどね」
紙パックのイチゴ牛乳のストローを咥えながら器用に話す巫子。昨日のシェイクといい、案外甘党なのかな。
「ところで史郎、お弁当は?」
「昨日も言っただろ。弁当持ってくるといじめの被害に遭うんだって。うちは姉の収入と親の遺産を食い潰して生活してるから無駄になるってわかってて持ってこれないよ」
親の生命保険から出た金はまだ残っているが、死んでから10年も経つとかなり減ってくる。俺もバイトで協力できたらいいが、姉がバイトするくらいなら勉強していい大学行けとうるさいので甘えさせてもらっている。もっと甘えられたらいじめのことも言えたんだが、無駄な心配をかけるのが一番嫌だ。
「ああごめん、暗い雰囲気になった?」
「ううん、むしろ逆。よかったーって思った」
親が死んだ話をよかったと言われさすがに少し引っかかっていると、巫子が手提げ袋から弁当を取り出した。二つも。
「お弁当作ってきた。一緒に食べようよ」
「作ってきたって……」
これじゃあ彼女のフリじゃない。彼女そのものじゃないか。何なら子犬にすらやってもらったことないぞ。
「……ありがたくいただくけどさ、明日からは別に大丈夫だから」
「お弁当作るのにかかる労力なんて1、2個じゃ変わらないよ。まぁ明日は朝から仕事だから物理的に無理だけど」
巫子が弁当を押しつけてきたのでありがたく受け取り広げる。白米に卵焼き。ウィンナーに野菜。これを普通の弁当と呼ぶのだろうか。親が死んだのは俺が小1の時。その時の姉は今の俺と同じ高校2年生。あまりちゃんとした弁当というものを作ってもらったことはなかったし、俺が食事担当になった今でも残り物を詰め込んだだけの簡単なものしか作っていない。だからこういうちゃんとした、普通の弁当を見るのはすごいひさしぶりなのかもしれない。
「昨日の残り物とか冷食入れちゃったけど大丈夫だよね?」
「大丈夫っていうか……お金払うよ。悪いし」
「いいっていいって。私それなりにお金持ちだから」
「……ごめん、ありがとう」
食べる。美味しい。でも涙は出ない。涙が出るほどの両親との思い出を積み重ねていないから。
「どう? おいしい?」
「うん、おいしい」
「よかった。私も食べちゃお」
「うん……」
そう。こんなちゃんとした弁当なんて、実の姉にも作ってもらったことがないのだ。それをお金持ちだから、なんていう理由で一つ余分に作る物だろうか。ましてや昨日会っただけの、一方的に恩を売っている相手に。
「……少し聞いていい?」
「なに? 言っとくけどほんとにたいしたことないからねこれくらい」
「それもそうだけど……なんで俺にここまでしてくれるの? 昨日初めて話しただけだし……言っちゃ悪いけど友だちじゃないだろ。……ほんとにかわいそうって理由だけなのか? 同情で……そこまでするものなのか?」
「……ああ。やっぱ気になるよね」
巫子が弁当を食べる手を止める。そして笑った。
「やっぱ教えない」
「はぁ?」
「ちゃんと復讐終わったら。全部教えてあげるよ」
「……それは。やっぱり同情じゃないってことか?」
「さぁね。人の気持ちは文章問題じゃないから。明確な理由があるわけじゃない、かもしれないよ」
「…………」
意味深な言葉を振りまくだけ振りまいて再び箸を動かす巫子。その女優の顔の裏を知るには、俺はまだ巫子のことを知らなすぎた。
ランキング入れてもらったお礼の2話目更新です。次回はいじめっ子との対峙です。おもしろい、続きが気になると思っていただけましたらぜひ☆☆☆☆☆を押して評価を。そしてブックマークのご協力をよろしくお願いいたします。




