第4章 第1話 終わりの始まり
入院している間は暇だった。とは言っても姉ちゃんたちが帰ってから2時間ほどしか経っていない。その間俺はスマホで「復讐の刃」を観ていた。巫子と卯月が主演をしている、俺の両親の事件が元となった作品だ。
1時間ほどの短いネットドラマ。おもしろくも、つまらなくもなかった。知り合いが真剣に演技していたのは独特のおもしろさがあったが、何というか、普通だった。
初めは学校でのシーンが描かれ、やがて同じ人を好きになったということで巫子が卯月の両親を殺害した。俺が見学した例のシーンだ。その後は卯月が悩んだり、実は両想いだったという男といい感じの雰囲気になり、ラストシーン。見覚えのある山で卯月が巫子包丁で殺害し、川に流して終了だった。
別になんてことはない。テレビでやっていても不思議ではない内容だったし、2人の演技もすごくて思わず見入ってしまったところはある。まぁ男優は演技下手だったし、巫子が川に沈んでいくシーンはシュールでおもしろかったが。観終わった俺は特に何の感想も抱けなかった。
その理由はありきたりなストーリーのせいもあっただろうが、おそらく自分のせいだ。馬場さんが散々悩んでいたラストシーン。卯月が巫子を殺害するシーンがどうしても思い出せない。ぼんやりと観ていたせいもあるだろうが、無意識的に考えないようにしていたんだと思う。理由はもちろん……。
「史郎くんっ!」
ちょうどドラマを観終え一息ついていると、まるで電車に急いで乗り込むかのように、病室に一人の女子が入ってきた。
「あ、兎ヶ咲だ」
「やっぱり頭怪我して混乱してるんだね……! 私は宇佐田卯月だよ!」
「あぁそうだった」
ドラマに引っ張られて役名を呼んでしまったが、意識はしっかりとしている。卯月が今にも泣き出しそうな顔で俺のベッドに倒れかかってきた。
「何はともあれ元気そうでよかったよ。これ、お見舞い」
そして少し遅れ、馬場さんがフルーツバスケットを手に病室に入ってきた。
「なに食べる? 剥いてあげるよ。あ、人気女優に剥いてもらった方がうれしいかな?」
「いやそろそろ検査なんで。お気持ちだけ受け取っておきます」
「そう? じゃあ後で食べてね」
馬場さんがテーブルにフルーツと果物ナイフを置き、卯月の分も椅子を用意する。
「その……無事でよかったです。あ、でも無事じゃないよね……。その、猪野さんが平気そうで何よりです!」
「まぁな……。あ、復讐の刃観たよ。おもしろかった」
「本当に!? よかったー!」
卯月に言ったつもりだったが、反応したのは馬場さんだ。まぁ別にいいけど……お世辞だし。
「それでその……言いづらいんだけど」
馬場さんは笑顔を一瞬で申し訳なさそうな顔に変化させ、言う。
「これ以上巫子ちゃんや卯月ちゃんに関わらないでくれるかな」
「馬場さん!」
途端に卯月が立ち上がったが、これは馬場さんの方が正しいだろう。
「本当に申し訳ないけど……君に関わると、周りが危険なの。だからマネージャーとしては……認められない」
「失礼なこと言わないで! 史郎くんは私を助けてくれた!」
「……猪野くんがいなければ、そもそも卯月ちゃんが襲われることもなかった」
「だったら私が人気になったのは史郎くんのおかげ! 私は史郎くんを助ける! こんな時だから助けないといけないの!」
その言い争いを聞きながら俺は他人事のようにぼんやりとしていた。馬場さん正しいけど言い方きついなーとか、卯月焦ると俺の呼び方が変わるなーとかそんなどうでもいいことを考える。そして一瞬2人の会話が止まったところで口を開く。
「そろそろ検査なんで。帰ってもらえますか」
そう伝えると、馬場さんはもう一度謝罪して病室を出る。それでも卯月だけは俺の傍から離れなかった。
「史郎くん……私は何があっても……」
「大丈夫だよ。俺は卯月に感謝してるから」
それだけ言い、半ば無理矢理卯月を追い出す。検査にはまだ時間があるのでしばらく待ち、馬場さんが残した果物ナイフを手に病室を出た。
その後まっすぐナースステーションに行き、巫子の病室がどこか訊ねる。相手が有名女優だから中々教えてくれなかったが、最終的に教えてくれた。その扉をノックして病室に入ると、ベッドで横になる巫子と、その父親。杜松さんがいた。
「やっほー、史郎。元気?」
「あの時は守ってあげられなくて申し訳なかった。無事生きていてくれてよかったよ」
巫子は起き上がると、相も変わらない何を考えているのかわからない笑顔で手を振ってきた。杜松さんも人の良い笑顔で俺を見ている。
「巫子、痛みは?」
「ん? 大丈夫だよ。跡も残らないみたいだし、痛みもない。いやーもっと痩せてたら危なかったなー。それに秋でよかった。水着撮影とかシャレになんないよ」
「これ以上痩せたらさすがに骨になるだろ」
「褒めるのが下手。もっといい褒め言葉あったでしょ」
適当に話す巫子に倣うように俺も適当に話しながら巫子に近づく。そしてナイフを突きつけた。
「犯人はお前だ。杜松道彦」




