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第3章 最終話 辰尾蛇頭

「ん……ぅぅ……」



 気がつけばベッドの上にいた。凄まじい眠気と共に後頭部に痛みを感じる。そういえば何者かに後頭部を殴られたっけ……とかぼんやり思っていると。



「史郎っ!」

「おにぃっ!」

「姉ちゃん……詩歌……」



 ベッドの隣に座っていた姉ちゃんと詩歌が抱きついてきた。その目は真っ赤でどれだけ悲しませてしまったかが窺えた。でも今は……。



「巫子は!? 子犬は!?」

「それについては私が」



 そう話に入ってきたのは警察の竜崎さん。手には警察らしく重厚な手帳があるが、その目は赤くなっていて。昔と変わらないなと感じさせられた。



「杜松巫子さんはとりあえず無事。というより史郎くんの方が重傷って言った方が近いかな。刺された箇所も脇腹で命に別状はないし、今は入院してるけどすぐに退院できるだろうって話だよ」

「そうですか……」



 よかった……本当によかった。もし子犬のせいで……俺のせいで巫子が死んでいたら……よかったとしか言えない。



「それで……子犬は……」

「犬養子犬さんは大丈夫……とは言えないかな。捕まってから1日が経ったけど……今も錯乱しているみたい。それに軽傷とはいえ人を刺したわけだから……しばらくは、会えないと思った方がいいよ」



 ……わかってはいた。わかっていはいたが、改めて聞かされると……クソ。



「子犬は被害者なんです……! 猿原に無理矢理薬を使われて正気じゃなくて……誰も気づいてあげられなかったんです……! だから……!」

「……これでも警察だから。罪は罪だよとしか、言えない」

「っ……!」



 ……俺がもっと早く気づいてあげられていたら。ちゃんと止めてあげられていたら。きっと……子犬は……。



「自分を責めないで。史郎くんは悪くない」

「そう……かもしれないですけど……」

「色々辛いかもしれないけど……今は君にできることをやってほしい」



 そう言うと竜崎さんは「辛いかもしれないけど我慢してね」と念押しし、語り始める。



「宇佐田卯月さんから話を聞いて、猿原申吾に確認しにいった。犬養さんに薬を使ったかどうかを」

「そうだ、猿原……!」


「答えは、イエスだった。犬養さんは薬を使われて、半分洗脳のような状態になっていたみたい」

「じゃあ猿原は罪が重くなって子犬は罪が軽くなりますよね……!?」


「それについては何とも言えないけど……問題なのはその薬の入手先。それを猿原は『黒い男』にもらった、って言っていた」

「それは……子犬の言ってた黒いおじさんと同一人物ですか……!?」


「まぁ聞いて。黒い男が猿原に出した指示は、史郎くんをいじめること。そしてそれを行うたびに5000円を受け取っていた。犬養さんを狙ったのもその一環。薬で史郎くんの彼女を寝取れ、っていう指令を受けた」

「……は? ごめんなさい、ちょっと意味が……」


「そしてその対象は史郎くんだけじゃない。お姉さんも、詩歌ちゃんも同じ。2人とも今までいじめを受け続けてきた。そしてその犯人は全員『黒い男』から報酬を受け取っていた」

「は、ぁ……!?」



 駄目だ……全然理解できない。姉ちゃんや詩歌を見ると、2人とも目を逸らして俯いていた。それでも口を開く。



「ごめん……おねぇたちに心配かけないように黙ってたけど……今まで小学生からずっと、いじめられてきた」

「……私も同じ。パワハラを受けてきたし……彼氏ができても、すぐに振られた。ごめん……ごめんね……私お姉ちゃんなのに……全然、気づけなくて……。2人が苦しんでるのに、気づいてあげられなくて……」



 2人の涙を見て。俺も自然と涙が溢れていた。なんでだ。なんで、なんで、なんで――!



「なんで、俺たちなんだよ……!」



 両親は殺された。姉ちゃんは大学も行けなかった。詩歌には寂しい思いをさせてきた。俺も、たくさんのものを失ってきた。



「俺たちが何をしたっていうんだよ……!」

「……逆に言えば、黒い男の狙いがはっきりした」



 竜崎さんが言う。涙を瞳に溜めながらも、しっかりと。



「3人の両親を殺した犯人が、黒い男。そしてその黒い男は両親だけじゃ飽き足らず、その子どもまで狙っている。10年間も、ずっと」



 .....それはつまり。これは単なるいじめの復讐ではなかった。もっと大きく、深い。深淵のような陰謀が関わっている。



「.....ありがとうございました」



 ……もう充分だ。これ以上聞きたくない。



 なぜなら俺は、既に犯人の目星がついているからだ。



「史郎くんまだ立っちゃダメだって!」

「大丈夫です……俺のせいで子犬が狙われた。巫子が刺された。俺が全部、終わらせてくる……!」



 立ち上がろうとする俺を制止する竜崎さん。そんな言葉で止まる気などなかったが。



「犯人はもうわかったのっ!」



 想像だにしなかった言葉に足を止めざるを得なかった。



「犯人が……わかった……?」

「うん……。史郎くんが病院に搬送されてからしばらく。校内で男性の遺体が見つかった。その付近に落ちていたのは黒い雨合羽。そして史郎くんが殴られたトイレに落ちていた花瓶の欠片についていた指紋と、その男の指紋が一致した」



 そして竜崎さんは告げる。犯人の名前を。



「牛島丑治。史郎くんの担任だよ」



 その名は。俺が導き出した答えとは違っていた。



「……でも牛島が殺されてたってことは、犯人は他にもいるってことですよね」

「そう。今捜査中だけど……かなり難航している。いかんせん警察や救急が学校に来たことで来場者の注目はそこに集まってたから目撃者がいない」


「じゃあ犯人は子犬の一件の最中に校内にいた人物ですか」

「それもわからない……その前後だっていうのはわかってるけど、それだけ。ただ警察は目撃者の少なさから後を想定しているってだけ」



 そう言うと竜崎さんは一枚の写真を差し出してきた。



「これは遺体の傍に落ちていたメモを映した写真。筆跡から被害者のものだっていうのは確定している。つまり、ダイイングメッセージ。史郎くん、意味わかったりする?」



 その写真には。



1603



 という暗号が描かれていた。



 それを見た瞬間確信する。犯人は、あの人だと。

これにて第3章終了です。ちょっとした暗号を作ったんですけどたぶん簡単です。いやもしかして成立していないのかも……? なにぶん人が亡くなる作品苦手で推理物は嗜んでこなかったので……。なんて言い訳をさせてください。成立していなかったり、簡単だったらあれですので次回で答え合わせは済ませます。コメント欄で正解予想してくれたりするとうれしいです。当然返信はできませんが。


そして次回から最終章です。一応ジャンルは現実恋愛ですので、謎が解けて解決ではないです。むしろその後こそが本編と言ってもいいくらいなので、残り短いですがぜひ最後までお付き合いください。


それではここまでおもしろい、続きが気になると思っていただけましたら☆☆☆☆☆を押して評価を。そしてブックマークのご協力をよろしくお願いいたします。

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