第3章 第6話 戌も歩けば復讐に当たる
「あ、猪野さん!」
蛇ノ道さんたちと別れ、校舎の外でしばらく考え事をしていた俺のもとに遠くから卯月が走ってくる。制服ではなく簡素な私服なのは仕事帰りだからだろうが、文化祭なので認められているのだろう。
「こんなところで何やってるんですか?」
「見ての通りだよ。やることないからぼーっとしてる。今うちのクラスの演劇やってるから観てきたら?」
「いえ……素人の演技ほど見ていて辛いものはないですから……」
「……ふーん」
卯月ってそういうこと言うんだ。別に悪い意味ではなく、そういうプロ意識っぽいものがあるんだと驚いた。
「巫子は?」
「仕事です。でも軽いインタビューなのですぐに来ると思うよ」
……そうか。卯月には悪いが、今はどうしても巫子に会いたかった。どうして俺の幼馴染だということを隠していたのか。巫子が言う復讐とは何なのか。そして、蛇ノ道さんたちが言っていたことは真実なのか。それを確かめたかった。なので少しがっかりしていると、卯月が頬を膨らませて怒っていることに気づいた。
「何度も言ってますよ。私といる時は、他の女の子の話はしないでほしいって」
「ああそうだったな……ごめん」
謝るとすぐに機嫌を直したようで、俺の隣に並んでくる。
「暇だったら……一緒に文化祭回らない?」
「いやそれは……あれだろ。もう卯月は人気女優なんだぞ。文化祭みたいな人が大勢いる場所で男と2人っきりはまずいだろ」
「そっか……そうだよね……」
しゅんとしている卯月を見ているのも嫌だったので遠くを眺めていると、意見が変わった。
「卯月……悪いけど、一緒にいてくれ」
「えっ、いいの!?」
「協力してくれるんだろ。俺の復讐に」
校門からトボトボ歩いてくる一人の女子。彼女は制服でもよそ行きの服でもなく、俺が見たことのある部屋着でこちらに歩いてくる。それに俺も近づき、声をかけた。
「ひさしぶりだな、子犬」
「……史郎くん」
暗く沈んだ瞳が俺を見上げる。図らずも巫子の俺に協力する理由を知ってしまったが、本来なら順番は逆だった。散々助けてくれた巫子に義理を通すなら、今しかない。
「ちょっと話、しようぜ」
子犬への復讐を終え、巫子と会う。それが俺にできるせめてものことだ。




