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第1章 第3話 提案

「それで、具体的な復讐方法だけど」



 子犬が俺の元から去り、手持無沙汰になった俺は杜松さんと一緒に少し辺鄙な場所にあるファストフード店に向かった。この場所を選んだのは杜松さんがそれなりに有名な女優だということ。そして今からする会話が誰にも聞かれたくないからだ。



「私が出演したドラマでは男は怖い人にボコボコにされて女の方……まぁ私なんだけど、えっちなお店に売られちゃったんだよね。でも現実的に考えると暴力とか違法行為は不可能。できるかもしれないけど私は関わりたくないって言った方が正しいかな」

「大丈夫だよ。俺も暴力なんて振るうつもりはないから」



 行儀悪く椅子に片脚乗せながらシェイクを啜る杜松さん。ちなみに俺の手元にあるシェイクは杜松さんに奢ってもらった。さすがは普通にテレビで見かける女優。改めて思うとすごい人と話してるんだな……。



「まぁでも猿原くんに関しては何も考えなくても復讐できるよね。警察に突き出せばいいんだし。暴力とか振るわれたんだっけ? 高校生だとそれくらいなら警察は動かないのかな。わからないからちょっと何されたか挙げてみて」

「挙げてみてって言われてもな……されすぎてて挙げきれないっていうか……」



 パッと思いつくのは……そうだなぁ……。



「とりあえず登校したら下駄箱に靴がないのは茶飯事だろ? それで靴下で教室に入ったら画鋲が転がってて……ああ俺の椅子にもよく落ちてるな。机の中とかも。机の中と言えば教科書とかノートもよくなくなってるか。最近は靴も教科書もあえてゴミ箱に隠してるからそんな被害はないけど……弁当を捨てられるのはきついかな。トイレで食べてても水が落ちてくるし……大前提的にトイレみたいな人目につかないとこだと殴られるからな……。もう弁当持ってくるのは諦めた。後は……」

「いやいいよわかった。間違いなく何とでもなるわ」



 杜松さんがため息をついて再びシェイクを啜る。動きが乱雑なのに、ストローを咥える仕草はやけに艶めかしくて脳が変になる。



「これ聞いていいのか微妙なんだけどさ、どうして猪野くんいじめられてるの? 普通に話せてるし嫌なことはしないしなんていうか……普通だよね」

「普通普通言い過ぎ……。理由なんてわかんないよ。まぁ小中もいじめられてたし……そういうもんじゃないの? なんかよくわかんないけど嫌われるっていうか……。昔は両親が殺されて親戚もいないから姉と妹の3人暮らしってのでいじられてたけど最近はわからん」


「あー……ごめん。やっぱ聞いちゃいけなかったね」

「いやいいよ別に。そんなことで心を痛めるならとっくに自殺してる」



 世の中運がよかっただけで成功したって言うのなら、運が悪くて何をやっても上手くいかない駄目な人間もいる。たまたま俺が後者なだけだろう。そこで悩むのはもうやめた。限られた最低限の幸せを最大限に満喫できればそれでいい。ただ今は、そのわずかな幸せすらまやかしだったと突きつけられている。それが何よりも耐えられない。



「それで復讐の方法の話だったね。私が思うに、猿原くんたちのプライドを折るのが一番だと思うんだ」

「プライド……」


「うん。ほら、格下だと思ってた人に嵌められると嫌でしょ?」

「俺は自分より格下に出会ったことはないからわからないけど……そうなんだろうな」



 それが事実だとしたら……子犬もそうだったんだろうな。自分より格下に助けられるのが屈辱だったんだろう。それで俺を貶めようとした。充分ありえる。



「でも正直言うと……面と向かって猿原に反抗するのは……怖い」

「うん、知ってる。それができたらとっくに何とかできただろうしね。だから2人を攻撃することはしない。目の前で輝かれたら何もされてないのに眩しいでしょ? そして虫みたいに近づいてきたところを……焼き焦がす」



 杜松さんの言っていることがわからない。言っていること自体はわかるが、途端に抽象的になったからだ。



「それで……どういうこと……?」

「女の子に言わせないでよ。ヒントあげると私はアイドルじゃないから誰かと付き合ってるって噂されてもたいしたダメージにはならないってとこかな。私のミステリアスなイメージ的にはそういう魔性なところからも評価上がるかもしれないし」


「……ごめん。やっぱりわからない」

「はぁ……仕方ないなぁ」



 杜松さんがテーブルにシェイクを置き、笑う。



「有名女優である私と付き合ったフリをしようってこと」

もしかしたらランキング載りそうなので1日2話更新です! おもしろかったらでいいので、ぜひブックマーク。特に☆☆☆☆☆を押して評価を入れていただけるとありがたいです! みなさまの応援が力になりますので、ぜひ気に入っていただけましたらご協力お願いいたします!

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