第2章 第15話 同じ
少しグロ注意です!
「史郎! 馬鹿なことはやめて!」
「ほっとけよ杜松。こいつに人を刺すような度胸があるわけないだろ。女寝取られても殴り返せないような情けない男だぜ? 馬鹿みてぇ」
巫子が叫び、猿原が笑う。まぁそう思うのはわかる。俺だって自分で自分を信じられない。たぶん無意識的に、俺は右手に握ったサバイバルナイフを。
「しろ……!?」
左肩に突き刺していた。
「馬鹿! 何やってんの!?」
巫子が近づいてくるが、俺は猿原から視線を逸らせない。呆然と恐怖が入り混じった猿原を見ていると、痛いのか悲しいのか。涙が溢れてきた。
「史郎……早く病院に……!」
「あぁー……いてぇ……」
そんなに深く刺していない。全然左肩だって動く。それでも痛い。泣き叫びたいくらいに、痛い。
「母さんたちも……こんなに痛かったのかなぁ……」
そして思うことはそれだけだった。
「もっと痛かったんだよなぁ……。楽に……死ねてたらいいなぁ……」
ほとんど記憶にない母さんと父さんに思いを馳せながら、俺はただ何の思考もなく言葉を吐く。
「猿原にいつものようにいじめられ、度を超えた猿原はナイフで俺の肩を刺してきた。命の危機を感じ揉み合っている内に、刺し殺してしまった。何か問題あるか? 巫子」
巫子の返事を聞くこともせず、猿原へと一歩前に進む。それに連動するかのように、猿原は一歩後ろに下がった。
「おい……冷静になれよ。人を殺したってなったらお前の姉ちゃんは悲しむぞ? 妹は進学もできなくなるかもしれない」
「だから言ってんだろ。これは事故だって」
「馬鹿野郎! 警察舐めんなよ!? そんなのすぐばれるに決まってんだろっ!」
「大丈夫だよ。街中の殺人だってまだ犯人見つかってないんだから」
「わ、悪かったよ! 謝る! さっきのは冗談だ! お前の家族に何かするつもりはねぇよ!」
「信用できると思うか? できないに決まってんだろ。だったらお前を殺した方が安心できる」
「し……死ねぇぇぇぇっ!」
「あ」
言葉とは裏腹に逃げ出す猿原。だが足の速さは俺の方が上だとわかっている。それによほど焦っているのか根っこに引っかかり、転んで走ってを繰り返している。
「逃げんのか? 普段偉そうにいじめてるくせに」
歩いて追いかけるが、返事は返ってこない。だが歩いている俺の方が速いようで、それでも距離はだんだん詰まってくる。
「もっと早くこうしてればよかったなぁ……。そうすれば子犬と……」
「史郎っ!」
後ろから誰かに羽交い絞めにされた。と言っても後ろにいるのは巫子だけなんだが。
「確かに殺したところで犯人にはならないかもしれないっ! でも君は……人を、殺すんだよ!? 殺人! 君の両親を殺した人と同じになるの! だから落ち着いてっ!」
落ち着いて、か。落ち着いてると思うんだけどな……。冷静に考えて、こいつはもう殺すしかないだろ。そうしないと安心して暮らせないんだけどな……。
「うあああああっ!」
巫子を傷つけないようにどう振りほどこうかと考えていると、俺が動けないからか猿原が悲鳴のような声を上げ突進してきた。
「馬鹿だろ、お前」
「がっ」
自由な右脚を突き出すと、それに当たった猿原が後ろに吹き飛んだ。
「あああっ! ああああああっ!」
倒れた猿原がまた叫びながら立ち上がる。その時だった。
「……ぅえ?」
小さな疑問のような声がしたかと思うと、目の前から猿原が消えた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
そんな悲鳴が下へ下へと落ちていき、どんどん遠ざかっていく。そして次の瞬間、その悲鳴が掻き消えた。
「う……そでしょ……?」
後ろの巫子が弱々しくそう口にし、ぺたんとへたり込んだ。俺を抑える手がなくなったのでさっき猿原がいた位置に行き、下を覗き込む。
「あー……大丈夫だよ巫子。まだ生きてる」
俺は緩やかな坂を滑り、猿原のところまで降りる。
「ぁ……ぁぁ……」
すぐ傍まで行くと、ようやく猿原の声が聞こえてきた。さっきまで力強く叫んでいたのに、たった数秒でこうなるんだな。
「た……すけて……」
そう弱々しく聞こえた猿原は一見普通の姿に見える。でもその背中には、太い木の枝が突き刺さっていた。




