第2章 第8話 不信
「お時間とらせてしまってすみません、馬場さん」
「いやいや全然」
放課後。俺は巫子に頼んで馬場さんを駅前の喫茶店に呼び出してもらった。俺の隣には巫子が。馬場さんの隣には卯月がいる。
「それで、話って? 私監督とか言ってるけど普段はただのマネージャーだから。できることなんて何もないと思います」
「単刀直入に訊きます。あなたは10年前に起きた事件。猪野家殺害事件に関わっていますか?」
訊きながら馬場さんの表情を見る。もし関わっていたとしたら、何らかの反応を見せるはずだ。動揺でも長考でも。無反応ではいられない。それなのに。
「今撮ってるドラマの元ネタがそれだもん。そりゃ知ってるよ」
そこに何の意思も感じない。無表情で、そう答えた。
「……俺は知っているかじゃない。関わってるかって訊いてるんです」
「関わってないと思うよ。近所だからもしかしたら何か関わってたかもしれないけど、たぶん関係ないと思う」
そう言い、馬場さんは動きを見せた。
「あぁでも私のクラスメイトの家の事件だったから。そういう意味では関係はあったかな」
「姉ちゃんと……!?」
いや、それよりも。今、俺の隣にいる巫子の顔を見た……?
「猪野さんがお姉さん? え、もしかして猪野さんの弟さん!? すっごい偶然! 元気にしてる? あ、でもそうだとすると……悪いことしたかも。ごめん、遺族の方を傷つけるつもりはなかったんだ。あくまでも元ネタってことで……許してくれないかな」
「それは……いいですけど……」
「ほんとごめんね! なるべく配慮するようにするからさ!」
馬場さんが何か言っているが、どうでもいい。この可能性の前では俺の感情などどうだっていい。
馬場さんと巫子は古くからの付き合いだと言う。だとしたら、庇ってもおかしくない。もし巫子が馬場さんが犯人だということを知っていたとしたら。庇ったっておかしくないんだ。
……馬鹿か。だとしたら巫子が俺に近づいたことがおかしいだろ。いや……俺と関わっている内に真相に気づいた……? 落ち着け。ただ巫子の顔を見ただけの可能性の方が遥かに高い。
勝手な憶測で考えるな。あくまでも事実に基づいて判断しろ。これは俺の勝手な暴走では片づけられない。だって人が、死んでいるんだから。
「姉のこと……嫌いだったりしますか……?」
「ううん全然。ていうかその……こう言っちゃ悪いけど、お姉さん浮いてたから。中二病っていうのかな? だからあんまり仲良くなかったっていうか友だちがいなかったっていうか……」
「ねぇ史郎。どうして私の方チラチラ見てるの?」
「いや別に……見てないけど……」
感づかれた。巫子に様子を窺っていることを気づかれた。これでもう尻尾を出してはくれないだろう。
「とりあえずこれでわかったでしょ? 馬場さんはご両親の事件に関わってない。疑い深くなるのはわかるけどさ、ほどほどにしないとね。疑われてる方は気分良くないだろうし」
「え? 私のこと疑ってたの? 全然違うって! 犯人だったらそれを元にしたドラマなんて撮ろうとは思わないし!」
話を無理矢理終わらされる。でも関わってないなんてありえないんだ。じゃあなんで姉ちゃんの言葉を知っている。たまたまか? たまたまだとしたら、卯月の演技はどう答える。俺が当時のことを思い出して嘔吐してしまうくらいにそっくりだったあの演技は。どう説明するつもりだ。
「史郎くんっ」
思えば当然だ。そのまま直球で訊ねて私が犯人でした、だなんて言うはずがない。言うはずがないのに、巫子が言うんならと、思ってしまった。
「あ、お友だち? じゃあ私仕事に戻るね」
巫子は俺を助けてくれた。でもそれはいじめの復讐についてのこと。俺の両親のことは関係ない。そうだ。逆に言えば馬場さんを守るため、俺に近づいたと考えることもできる。そう考えると全て納得がいく。巫子が俺に協力しようとした理由なんてそれくらいしか……。
「史郎くん、会えてよかった」
長考していて気がつかなかった。いつの間にか馬場さんがいなくなり。子犬がその席に座っていることに。
「なんで……ここに……!?」
「それはね、秘密」
子犬は基本的にインドア派だ。遠くに行こうとしないし、一人で喫茶店なんて、まずありえない。それなのに、いるってことは。
「巫子……!?」
「どうしたの? 史郎」
いつものようにミステリアスに微笑むその顔を。俺は信用することができなくなっていた。
2000pt超えさせていただきました! ありがとうございます! 少し暗い話ですが、次回から今章の復讐編に入りますのでご期待ください!




