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第2章 第3話 再現

 「復讐の刃」。それが馬場甘美初監督ドラマのタイトルだ。



 あらすじはこうだ。クラスメイトに両親を殺された主人公。主人公は復讐のために様々な準備をし、最後はクラスメイトを両親と同じ方法で殺す、というもの。30分程度のドラマらしいからこんなものだろう。そして設定も言っては悪いがありきたり、だと思う。



 だからおかしくないんだ。主人公がいない間に家にいた両親が包丁で刺されているという、俺の時と全く同じシチュエーションだったとしても。



「ごめんね、史郎」



 ハウススタジオに到着して荷物を下ろしていると、見学なのに荷物持ちさせられたからか巫子が謝罪しにきた。



「今から撮影するシーン……私が人を刺すところだから。辛いなら、帰った方がいいかも」

「ああそっち……。それくらい大丈夫だよ。実際に俺が見たわけじゃないし」



 俺が見たのは、リビングに転がっていた2人の……いや。2つの死体だけ。だからトラウマってわけではないし、何より。



「なぁ、監督さんってここら辺出身?」

「え? あぁうんそうだよ。私たちと同じ学校出身。うちの学校昔からテストさえできてれば卒業できるから色々都合いいんだよ」



 ……大丈夫。ただの偶然だ。それにうちのリビングは小さな庭を挟み、すぐ道路に面している。もしかしたら遺体を見ただけかもしれないし……そもそも思い違いの可能性の方が高い。



 ……でも。10年前だとおそらく監督さんは10代半ばから後半辺りだろう。それくらいなら武器さえあれば、大人2人を殺すことは容易だろう。……だから考えすぎだって。だいたい犯人ならこんなまんまなドラマ撮らないだろうし……。近所だから詳しく知っている。その程度だろう。なんなら後でさっきのひとりごとの真意を聞いてみるか。でももし……犯人だったとしたら……。いやだから絶対無関係だって……。



 そう自分に言い聞かせていると、撮影が始まった。まずは高齢の男女2人のスタッフさんがそのまま役者となり、リビングでお茶を飲んでいるシーンから始まった。そしていくつかの会話を挟み、現れる。包丁を持った巫子が。



「こんにちは。兎ヶ咲(うさぎがさき)さんのお母さんに、お父さん」



 口調は普段の巫子とよく似ている。でも声音が。目つきが。表情が。雰囲気が。いつもとは、全然違う。ナイフを撫で妖艶に微笑むその姿は、メイクと制服くらいしか違う点はないのに。全くの別人に見えた。これが、演技。



「今日は折り入って相談に来たんです。あなた方の娘さん、本当に良い子ですよね。勉強もできるし運動も完璧。吹奏楽部でも全国に出場したらしいですね。それでいて性格も良くて、何よりかわいい。困るんですよ。そんな完璧な子と私みたいな平凡な子の好きな相手が一緒なんて。勝負するまでもなく絶対に勝てないじゃないですか。だから消えてほしいんですよねーどっか遠くに。もう二度と会うことのない、天国に」



 巫子の役の犯行の理由は色恋沙汰のせいらしい。そんなことで殺されるなんてたまったものじゃない……と思ったが、俺の復讐の理由も色恋沙汰と言えば色恋沙汰。特に猿原は本気で殺したいと思ったから……案外リアリティがあるのかもしれない。そしてリアリティがあるといえば。



「さて、ここからが本題です。娘さんが死ぬか、あなたたちが死ぬか。選んでもらえますか? 私からすればどっちでもいいんですよねー、何にせよ兎ヶ咲さんにダメージ与えられるから。なので選ばせてあげますよ。私、優しいでしょ?」



 この、話の通じない感じ。子犬と相対した時と同じような感想を覚えた。吐き気がする邪悪。それを演技でやっている。そしてその吐き気は、現実のものとなる。



「どうしてこんな……ひどいことができるの……!?」



 両親を刺し殺した巫子の前に現れた、兎ヶ咲さんこと宇佐美さん。そしてその姿は。



「ぉぇぇぇぇ……」



 姉ちゃんと、重なった。



「史郎!?」



 突然その場で嘔吐してしまった俺に、撮影の途中だというのに巫子が駆け寄ってくる。



「ごめん……ごめんなさい……!」



 謝ることしかできない。ハウススタジオを汚して、撮影を中断させてしまって。苦しさから涙を流しながら、謝罪することしかできない。



 でも同時に確信した。わかってしまったんだ。直感で。こんな空気、演技で出せるわけがない。指導できるわけがない。あの現場を見ないと、再現なんてできるはずがない。母さんたちの死体を見た姉ちゃんと同じ台詞を書けるわけがない。だから、間違いない。



「猪野くん!? 大丈夫!?」



 馬場甘美は、俺の両親の殺人に関わっている。

本日も2話更新させていただきます。早く暗い展開から抜け出してスカッとする復讐話書きたいので。しばしお待ちください。

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