第1章 最終話 はじまり
「ちょっと心配になってついてきたら運がいいのか悪いのか。何にせよ、これで証拠は手に入った」
巫子がスマホで録画しながら近づいてくる。勝ち誇った顔で。そしてそれに真っ先に反応したのは俺でも猿原でもない。
「杜松巫女……! またわたしの彼氏にちょっかいを出す気……!?」
「彼氏? あーまだ史郎の彼女のつもりでいるんだ。さっきのあなたの顔見せよっか? 彼氏が暴力を振るわれているのに、自分一人の世界で快楽に酔っているクズ女。その醜い姿が綺麗に映ってるから」
威嚇する子犬と余裕そうに笑う巫子。2人の姿は対照的で、同時に今の状況を物語っていた。
「おい杜松。そのスマホ渡せ」
「そーしん。残念、今この動画私の友だちに送っちゃった。これで証拠は消せないよ」
俺の身体から脚をどかした猿原だが、遅かった。これで俺の……俺たちの……。
「わかる? 史郎の完全勝利ってやつ。そしてあなたたちの、完全敗北」
「いや……それは違うな……」
巫子の言葉を遮り、俺は立ち上がる。そう。まだ立ち上がれるんだ。
「この程度の証拠じゃせいぜい1週間かそこら停学になるくらいだ……。警察もそこまで動いてくれないだろ……。勝ちであっても完全勝利じゃない……。ただの負けだけじゃ済まさない……。完全敗北にはまだ足りないんだ……!」
こんなもので終わらせてたまるか。この屈辱はこんなもので終わらせるわけにはいかないんだ。
「……いいの? それってつまり……ここで終わらせないってことでしょ。まだ秘密は明かせないけど……」
「俺の両親のことじゃないんだろ……ならいい。俺は猿原を徹底的に潰さないと……前に進めない……!」
絶対に許さない。今までは我慢できた。俺だけのことだったから。でもこいつは子犬にも手を出した。それだけは絶対に、許さない。
「子犬……お前もだ。お前にも事情はあったのかもしれない。でもそんなこと、俺には関係ない。悪いけど俺は……優しい人じゃないから。お前のことも、許せない……」
「え? なに言ってるの? わたし、彼女だよ? 史郎くんのことが一番大好きな彼女だよ?」
「だから言ってるだろ。俺は優しくなんかない。お前みたいにプライドがないわけでもない。俺はただ家族に迷惑をかけたくなかっただけで……この最低辺が、居場所じゃないんだ。コケにされたままじゃ終われない。こんな馬鹿にされてそれが俺だからって納得なんか、できないんだよ」
「……そっか。史郎くんは、そういうことを言うんだ」
子犬が目を伏せる。だがその瞳はすぐに、巫子を向いた。
「杜松さんに騙されてるんだね。大丈夫だよ、史郎くん。わたしが目を覚まさせてあげる。その女をめちゃくちゃにぶっ壊してあげるから。一緒に幸せになろうね?」
「君が何を言ったところでどうでもいいけどさ、わかる? あなたは振られたんだよ。そしてこれで史郎は私のもの。私が史郎の彼女だよ」
「わたしの彼氏に触るなぁっ!」
……もういい。どうせ言葉なんかじゃ解決しないんだ。だから始めるんだ、俺たちは。
「猿原……子犬。俺はお前たちに復讐する。手加減なんかしない。徹底的にだ。死にたくなるくらいに、ぶっ潰す」
「なに調子こいてんだクソゴミ野郎。お前は負け組なんだよ! 俺に逆らったこと、後悔させてやる」
「女優の彼女がいる時点で勝ち組でしょ。その誰にでも股開くクソビッチくらいしか捕まえられない君の方が、よっぽど負け組に見えるけど」
「ご主人様を侮辱するなっ! 女優がステータスだと思ってるのなら……引きずり落としてあげる。そして証明してみせる。わたしが史郎くんの彼女にふさわしいって」
ここからが本当の、復讐だ。
これにて第1章終了になります。ここまでお読みいただきありがとうございました。ここまでは実質プロローグ。ここからが真の復讐編になります。そして新キャラも登場し、徐々に両親殺害の真相も明かされていきます。どうぞお付き合いください。
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