離婚が後を絶たない時代にメスを!!
とある方の講演を小説っぽくしてみました。
203x年。
その年に行われたとある調査結果は日本中の大人を震撼させた。
『日本の離婚率60%突破。遂に2人に1人以上が離婚する時代。
世界調査にて2位が32%に対して圧倒的。
外国では【離婚大国にっぽん】と呼ばれ始めている』
これを受けて政府高官は連日会議を繰り返した。
「それにしてもなぜ離婚するのに結婚をするのか」
「きっと『自分たちだけは大丈夫』って思ってるんですよ」
「調査結果によれば2度3度と別れているケースもあるぞ?」
「きっと『今度こそ大丈夫』って思ってるんですね」
「知り合ってから1カ月以内に結婚、そしてすぐに離婚、というケースも多いな」
「所謂『ビビット婚』ですね」
「あとは学生の『出来ちゃった婚』も問題だな。
というか、晩婚が問題視される一方で中学生でやらかしたケースが増えているな」
「そう言えば先日、娘に彼氏が出来たと妻から聞きましたがまさかうちに限ってそんな事はないでしょう」
「いや待て。その楽観視が危険なんだ」
「知りませんよ。会議を終えて帰ったら娘のお腹が大きくなっていたって」
「そ、そんなことは、いやまさか……」
「おほんっ。学生に関しては教育委員会とも掛け合って望まぬ結婚と出産についての授業を充実してもらおう。
今の問題はきちんと教育も受けたはずの大人たちの離婚問題だ。
家庭裁判所にも連日のように離婚調停の相談が持ち掛けられているようだしな。
どこかで離婚を踏みとどまらせるか、そもそも安易な結婚をしないような仕組み作りが必要だ」
「そうですね。では夢見がちな若者たちに結婚前にしっかりと現実を理解させるためにこんな活動を行うのはどうでしょう」
そう発言した議員が会議参加者にとある資料を配った。
それを見た1割程は「ふむ」と落ち着きを払って頷いていたが、残りの9割は冷や汗を流していた。
「た、確かに効果的かもしれないな」
「あ、あぁ。だが妻には見せられんな」
「私としては夫に突き付けてやりたいところですね」
「それでは離婚に踏み込む夫婦が激増してしまう。かえって逆効果ではないかね?」
「それで別れるなら遅かれ早かれ別れます。
なら一度しっかりと膿を出してしまった方が良いのではないでしょうか。
私の試算では早ければ年内、遅くても2年後には改善の兆しが見えるはずです」
「2年後。つまり次の選挙に間に合うということか」
「よし、ではやってみようではないか」
そうしてその案は可決され、来月から日本全国で実施されることになった。
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東京の風光明媚な教会。
そこでは今日も厳かに結婚式が行われていた。
多くの列席者が見守るなか、ヴァージンロードをゆっくりと歩く新郎新婦。
祭壇前へと辿り着いた彼らは神父から誓いの確認をされるのだった。
所謂「健やかなる時も病める時も~」というあれである。
神父は新郎新婦をじっと見て言葉をつむいだ。
「夫、誠よ。汝は健やかなる時も病める時も彼女を愛し続けることを誓いますか?」
「はい、誓います」
「妻、未来よ。汝は富めるときも貧しき時も彼を愛し続けることを誓いますか?」
「はい、誓います」
「具体的には元気過ぎる伴侶が浮気をしたとしても、事故や病気で一生介護が必要になったとしても愛し続けられますか?
夫がリストラに遭って職を失っても、妻が宝石やブランドを買うために借金を作っても愛し続けられますか?
男性は今は格好良いでしょうが20年もすれば髪の毛も減り、太り始め、加齢臭もするようになり、休日は家でゴロゴロと豚のように見えるかもしれません。
女性は今は美しいでしょうが20年もすれば肌が衰え、皺が増え、碌に化粧もしないか厚化粧かのどちらかになり、会うたびに愚痴を延々と聞かされることになるかもしれません。
人の恋愛ホルモンは3年で切れるという調査結果があります。
今は痘痕も靨。
細かいところまで気が利くと思っていたら、気が付けば口うるさいと思うようになるかもしれません。
自分に合わせてくれる優しさだと思っていたら、気が付けば優柔不断なだけと思うようになるかもしれません」
突然の神父の言葉に会場中がシンと静まり返る。
新郎新婦も落ち着きなく視線を彷徨わせていた。
「いま挙げたのはほんの1例です。
今の時代、調べればもっと多くの情報が手に入るでしょう。
それでも先ほどの誓いを違えることはありませんね?」
「「……」」
「それと結婚式というのは契約の場であり、列席頂いた皆様はその証人です。
もし後日離婚するような事があれば契約を反故にしたこととなりますので皆様へ違約金として一人当たり10万円をお支払いいただくことになります。
また近年、離婚は簡単に出来るものと思われがちですが、伴侶が離婚に同意しなかった場合でなおかつ特段過失がない場合は離婚が成立するまで5年以上の時間を要することになります。
例えば今が25歳として、すぐに離婚したいと思っても実際に出来るのは30歳。
25歳の時なら異性からモテたとしても30歳ではどうでしょうか。
ご自身なら25歳と30歳、35歳が並んでいたらどなたと付き合いたいと思うでしょうか。
今日の一瞬で短くても5年間、長ければ一生が決まります。
もちろん私は引き返せなどとは言いません。
ですがこの指輪を交換すればあなた方の人生が決まります」
差し出される指輪。
新郎は震える手でそれを受け取り、新婦を見れば彼女も震えていることがすぐに分かった。
「……」
「……」
じっと見つめ合う二人。
少しして結論が出たのか頷くと、ふたりは揃って神父に向き直った。
「「もう少し、考えさせてください」」
参列者から万雷の拍手が送られる。
新郎新婦が離婚を回避した瞬間であった。
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あの政策を打ち出してから半年後。
政府高官たちは再び熱い議論を交わしていた。
「この資料を見ろ。早くも離婚率が下がっているぞ!」
「あの~」
「今月の離婚数は半年前の約半分だ」
「もしも~し」
「よし、この調子で行けば来年には離婚率を30%以下にまで下げられるかもしれない」
「……現実を見ましょうね」
「「……」」
盛り上がっていた会議室が一瞬静まり返る。
「離婚率は確かに減少してますが、成婚数も半年前の1/100です。
むしろ半年以内に離婚した人数で考えれば半年前より悪化してますからね?
そして何より、この政府に寄せられた苦情の山をどう処理するかを考えましょう」
「苦情の送り主は結婚出来なかった女性、結婚相談所、結婚情報誌、式場が主です」
「後半3つは結婚する人の減少=収入の減少だから女性からというのはなんだ?」
「えー読んでみましょう。
『折角毎日コツコツ結婚情報誌を彼の見えるところに配置し続けたのに無駄になったわ。どうしてくれるのよ』
『てめぇらのせいで玉の輿に乗り損ねたじゃねえか。金払え!』
『単純(馬鹿)な彼だったのにあれを切っ掛けに結婚について勉強するようになっちゃったわ』
『ああいう話は先に言ってよ。披露宴代が全額無駄になったわ。まぁ(元)彼のお金だったけど』
『私の人生の心配をされるとか何様のつもりなの?』
『大勢の知り合いの前で彼に「ごめん、むり」って言われた私の気持ちが分かる!?』
などなど」
「うぅむ、離婚を回避できたと考えれば良かったんじゃないかとも思えるんだがな」
「残念ながらそれは仮定の話でしょう。
バラ色の人生が待っていると期待でいっぱいの状態で臨んだ結婚式で、崖から突き落とされるようなものですし、怒りのやり場がないのでしょう」
「目下の最大の問題は内閣支持率の大幅な低下と、全国各地で発生しているデモ集会への対策です」
パッとディスプレイに映し出された先では女性を中心として街頭を練り歩く集団が居た。
彼女らが持っているプラカードには『愛を否定するな!』とか『私の愛は永遠です』などと書かれている。
ただちょっと気になるのは参加している女性の年代層が恐らくだが30代が多いように見られる。
つまり離婚を心配している既婚女性と、行き遅れを心配している未婚女性が中心なようだ。
「こと結婚や出産、愛を掲げた女性は強いですからな。
下手なことを言えば社会的に抹殺されかねません」
「怖い事を言うな」
「……否定しきれないのが何ともな」
「で、どうする?このまま政策を維持すれば私達は破滅だぞ」
「あ、要は離婚率が下がれば良いんですよね?」
「おっ、何か思いついたか」
「ええ。離婚する理由は『伴侶に愛想が尽きたからこれ以上一緒に居られない』とか『別の人が好きになった』とかでしょう。
だから、結婚したとしても同棲する必要はないとか、財布を1つにする必要はないとか、夫や妻以外の異性と関係を持っても浮気と見なさず、もし良かったらそっちの相手に乗り換える『乗り換え婚』を認めるとかどうでしょうか」
「「『乗り換え婚』!?」」
まさかの発言に会議室がざわめく。
もし携帯電話の機種変更をするように気軽に結婚相手を変える事が出来るとしたらどうか。
既存の倫理観とかは全部吹き飛んでしまうが、離婚することに比べたらデメリットは少ないように思える。
少なくとも今起きている抗議への対策としては多少効果はあるだろう。
「よし、その方向で早急に詳細を詰めよう」
「そうですな」
「異議なし!」
そうして無事に日本の離婚率は低下の一途をたどることになった。
しかしその代わり、日替わり弁当のように結婚相手を変える時代が到来することになる。
「私、旅行から帰ってきたら三島さんと結婚するんだ」
「お前、旅行って新婚旅行だろうが」
「そういうあなたは旅行先で良い人見つけるんだって言ってなかった?」
「ま、まぁお互い若いしな」
「そうそう。どっちが多く結婚出来るか競争だからねっ」