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第2話 少年

すみません、プロローグパートもう少しだけ続きます…!

 目を覚ますと見慣れない天井が視界に入る。最初は病室かと思ったが、おれはベッドの上ではなく、毛の長い絨毯の上に仰向けで寝っ転がっていた。


 意識を失う前の出来事を思い出す。家に帰るため駅までの道のりを直進していて、今晩何を食べようかな等とぼんやり考えていた瞬間、脳天に何かが直撃し、跳ね飛ばされた。


 微かに記憶に残っているのは長い黒髪の女性の姿が横たわる姿だった。


 一体何が起きたのかはさっぱりだが、事故やテロなど何か非日常的な、ただならぬ事態に巻き込まれたような気がする。

 ただその割には身体のどこも痛くない。あれだけ頭に大きな衝撃があったのに。自分の首から下をざっと眺めても、服は破れていないし、怪我もしていないようだった。


 不可解な状況に混乱しつつも身体を起こして、周囲を見渡す。


 部屋には会社の重役が座るような立派な平机とこちらに背を向けた皮張りの黒い椅子があった。


(ここは?どこかのオフィスか?)


 そう思った瞬間、椅子がゆっくりと回転し、正面を向く。


 大きな背もたれで見えなかったが椅子には白色に近い淡い金髪と、雪のように透き通った白い肌の、神秘的な雰囲気を漂わせた少年が行儀良く座っていた。


「目が覚めたみたいだね。気分はどうだい?気持ち悪かったりしないかい?」


 少年の声は中性的で、性別の判断を惑わせる。


「え、子供?き、君は…誰だ?」


 少年は絵画で描かれる古代ギリシアの哲学者・ソクラテスが着ているチュニックのようなものを纏い、黄金色の美しく長いマフラーをゆるやかに巻いている。


「はじめまして、僕の名前はラーズグリーズ。ラーズと気安く呼んでくれたら嬉しい」


「ラーズ…くん…?ここは?病院ではないよね?さすがに君はお医者さんに見えないし」


「うん、そうだね。ここは病院ではないし、僕もお医者さんではないね」


 ラーズくんはおれの疑問を復唱しながら否定した。しかしおれを小馬鹿にするようなニュアンスはない。


「えっと…おれは…死んでしまって、ここは天国とかそういう感じなんでしょうか…」


 ラーズくんは間を空けず笑顔でさらりと答える。


「ふふふ、確かに君は死んでしまった」


「!!!!」


 やはり…!あの脳天への直撃は人生最大の衝撃だったし、おれが最後に見た女の人は血塗れだった…。


「あ、でもここは天国とはちょっと違うよ」


 少年の可憐な微笑を見た瞬間、おれは新たな自分を発見しそうになり、それを払拭するため慌てて首を濡れた犬のようにブルブルと強く振った。

 気を取り直しておれは美少年に尋ねる。


「さっき道を歩いていて事故か事件に巻き込まれた気がするのだけど、そのときにやっぱり…?」


「うん、そうなんだ。まさに君はその時の事故で命を失った。最悪だよね、ただ街を歩いていただけなのに飛び降り事故に巻き込まれてしまうなんて」


 飛び降り事故だと…!それではあの時倒れていた女が自分に落下してきたということか⁈そんなシチュエーションに遭遇するなんて、かなりレアな確率を引いてしまったのではないだろうか。


「さっきここは天国ではない、と言っていたよね?ならここはどこなんですか?」


 子供相手に時々敬語混じりとなっているが相手が美少年のため気圧されたとかではなく、この歳で恥ずかしいことだが子供と接する機会がないのでどのような態度が正しいのか分からないのだ。


「うん、よくぞ聞いてくれたね。ここはあの世とこの世の狭間。人類史の中で功績を刻んだ選ばれしものが死後招かれる"魂の座"の受付(レセプション)


 魂の座?天国とは違うようだが随分とご大層なところらしい。そしてなんとおれは"選ばれしもの"としてここに招かれたのか!だが人類史への功績…?ないだろ、そんなもの。


「えっとね…。ここに君が招かれたのは間違いなんだよね…」


 ラーズくんはものすごく言いにくそうにおれの顔から目を背けて言葉を続ける。


「君が巻き込まれて死ぬ原因となった飛び降り事故。その飛び降りを図った女の子の方が本来ここに招かれるはずだったんだ」


「え…」


「でも彼女がここに来るのは今じゃない。彼女はまだ何も成し遂げてはいないからね」


 未来の大人物になる予定の女性が突然身を投げ、おれはそれに巻き込まれ死んだ上、手違いでここにいるという。


「君の死はもちろん十分不幸なんだけど、彼女の死は未来に、それもとりわけ日本にどんな悪影響を与えるのか分からない。でもこんなイレギュラーな事態が起きたのは"特異点"の影響によるものだと僕たちは考えている」


 特異点?突然話が異次元の方向に舵を切った。これはうんうんと話を聞き続けた方が良いのだろうか?


「日本史三大ミステリーって君は知っているかい?」


 歴史好き(源平、戦国、幕末限定のライト層)のこのおれにその質問はチョロい。おれはこれまでにない早口で答えた。


「色々人によって見解は違うだろうけど、世間一般では〈邪馬台国と卑弥呼〉、〈本能寺の変の黒幕〉、〈坂本龍馬暗殺〉あたりになるのかな」


「そう。日本史におけるこの3つのミステリーが現時点で観測された最も大きな特異点となる」


 話がとんと見えない。飛び降りと日本史3大ミステリーがどうつながるというのだ。


「彼女の…彼女だとちょっと紛らわしいね。とりあえずX子と呼ぼうかな。X子の飛び降りを阻止し、人類史の歪みを戻すにはこの3大ミステリーのうち一番近代のものに介入し、僅かで良いから歴史改変をする必要がある。そうすればその特異点は特異点ではなくなり、X子の定められた運命は元の歯車に戻るはずなんだ」


 この言葉はさっきからおれに向けられたものなのだろうか。実際おれは置いてきぼりを食らっている。


「そこで君にその役目を依頼したい」


「はい?」


「君には1867年の京都へ転生し、坂本龍馬暗殺を阻止し、特異点化を防いで欲しい」

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