騙しやすい妹
「へいっ、兄ちゃん」
「なんだい? 妹よ」
「楽してお金を増やせないかな?」
「そんなことか。どれ、実際にやって見せよう」
兄は箱を取り出す。
「ここに百円入れてごらん」
妹は財布から百円を取り出し、箱の中へ放り投げる。
「はい、開けて」
妹が箱の中を覗き込むと、そこには百円玉が二つあった。
「すっげー。本当に増えてる。もう一回やって良い?」
「好きにしなさい」
「それっ」
掛け声と共に、取り出した二百円を箱に投げ入れる。
すると――。
「あれ? 空っぽだ」
お金が増えていないどころか、入れた筈の二百円すら無くなっていた。
「兄ちゃんっ、どういうことなの?」
「失敗すると入れたお金は消えてしまうんだ」
「じゃあ、私の二百円は?」
「消えた」
「そんなー」
妹はガックリと項垂れる。
「まっ、楽をしようとすれば損をすることもあるってことだな。良い勉強になっただろ?」
「ううぅ」
妹は肩を落としたまま自分の部屋へと帰って行く。
それを確認した兄は、空の箱に手を入れる。
引き抜いた手には二百円が握られている。
実は、お金は消えていなかった。兄の用意した箱には仕掛けがあって、中身を空に見せかけていただけなのだ。
「我が妹ながら人の言う事を真に受けやすいのは考えものだな」
兄は、手にした二百円を自分の財布にしまいながら、
「これも勉強代ってことで」
楽にお金を手にするのだった。