第85話 心づくしの贈り物
「これが……神通力なの……? なんだか怖い……」
私は自分の持つ能力の強大さにおののき、ぶるりと身を震わせた。
「神通力? カカオの実の加工法を話してたんじゃないのか」
そうそう、その話だよ?
クリス様もみんなも一様にきょとんとしてるけど、解説が必要ですか?
私の中では繋がってるんだけどな。
「ええ、そうです。加工方法を聞いたらあまりにも大変な作業なので、それを外注することに計画変更した私ってすごいな、神懸ってるな、神通力かなって」
みんなもそう思わない?
……あれ?
無反応だな。
「……チェリーナ。もし本当に神通力があるなら、計画の段階で無謀だと分かった筈じゃない? それに、わざわざ遠くの南の島を目指さなくても、もっと近場のこの島にカカオの木があることも分かってていいよね」
はい、つっこみ担当のアルフォンソが今回も容赦なくつっこんできました。
そういう言い方されると、ただの偶然みたいに聞こえて私の価値が半減するんですけどー。
「ひのめがみさまはー、ぼくたちをたすけるためにー、とんできてくださったんですーーー!」
最初に出会った男の子が、私を庇うように大きな声で叫んだ。
はッ、そうだよ!
私たちが来なかったらボルカノ島民を助けられなかったじゃん!
やっぱり神通力、いや、千里眼と言うべきか。
一見行き当たりばったりのように見えても、すべての行動には意味があったのだ。
「その通りです! 私には何もかも最初から分かっていました! すべては必然なのです!」
「おおー、ひのめがみさまー!」
ボルカノ島民は、ははーっと声をあげて、その場にひれ伏した。
あの……、9割冗談だから、あんまり真に受けないでほしいかも。
「みんなを助けられて私も嬉しいわ! さあ、みんな立ってちょうだい。食材を少し置いて行くから、ここの生活に慣れるまでの間の足しにしてね。ええと、どんなものがいいかしら?」
私はお母さん世代の女性陣が固まって立っている辺りを見て尋ねてみた。
たぶん女性陣が料理を作るんだろうし、実際作る人の意見を聞いた方がいいからね。
とりあえず小麦粉とじゃがいもは必須かな、いろいろ応用がきくし日持ちするから。
お米はおいしいんだけど、時間がかかる上に火加減にコツがいるのがなあ。
「食べ物はー、さっき果物と木の実を採って来ましたよー」
「それだけじゃお腹が空いてしまうでしょう? 魚は獲って来るにしても、小麦粉とかじゃがいもとか、主食になるものが必要だわ」
「こむぎこー……、じゃがいもー……?」
おうむ返しに言葉を繰り返して顔を見合わせる女性陣は、どうやら小麦粉もじゃがいもも知らないらしい。
え、普段は何食べてるの?
「チェリーナ、作物を育てるには、気候や気象条件が重要なんだ。小麦もじゃがいもも、この暑さでは育たないんじゃないかな」
「ええっ? そうなの? それじゃ、主食は食べないの?」
私的には白米は必要不可欠な主食だ。
1日1食は食べたい。
ボルカノ島民には、そういうのはないの?
「僕に聞かれても……。みなさん、魚介類や果物の他には、どんなものを食べているんですか?」
「はあ、ヤムイモやタロイモは毎食のように食べますよー」
それだ!
この人たちは芋系が主食なんだよ!
で、ヤムイモとかタロイモってどんな芋?
「困ったわ……。ヤムイモもタロイモも分からないわ」
私の魔法はイメージが重要だから……、私が想像できないものは出しようがない。
「この辺りを探せばー、きっと見つかると思いますよー。生えている植物がー、私たちの島のものと似ていますからー」
「それはよかったわ! それじゃ、しばらくの間の代用品としてじゃがいもを置いて行くわね。じゃがいもはとてもおいしいお芋だから、きっと気に入るわよ。あ、それから卵もしばらくは日持ちするわね。それに野菜は……、トマトとたまねぎとキャベツでいいかしら」
じゃがいもと卵は生では食べられないから、調理器具も必要だな。
でもこの島に最新式のキッチンなんて……、似合わなすぎる。
それに、元々暮らしていた島での生活とあまり変わらない方がいいと思う。
食器と、鍋や包丁なんかの差し入れにとどめて、調理は焚き火でしてもらう方が無難かな。
「ーーポチッとな! みんな、こっちの箱はじゃがいもと卵と野菜が入っているわ。それからこっちは食器や鍋よ。他に必要なものはあるかしら?」
「いいえ、いいえー。ほんとうにもう十分ですー。これ以上のことを望んではバチがあたりますからー」
なんと謙虚な……!
私の周りって、ガブリエルみたいにあれを出せこれを出せとずうずうしく言ってくるタイプが多いから、こういう反応だともっといろいろしてあげたくなるな。
「遠慮しなくていいのよ?」
「急に言われても、しばらく暮らしてみないと何が足りないか思い付かないんじゃないか? また近いうちに、俺か、うちの騎士が様子を見に来るよ。カカオの取引や賃金の支払いのことなんかも、どうせうちの領が仲介することになるんだろう?」
なるほど、実際に暮らしてみないと分からないこともあるか。
ジュリオがまた見に来てくれるなら急ぐことはない。
ジュリオは面倒見が良くて気の良いお兄さんだし、安心して任せられるからね。
「分かりました。それでは、ジュリオ様、これからの事をよろしくお願いいたします」
「ああ、任せてくれ」
はーい!
ジュリオ隊長、よろしくね!
「それじゃ、そろそろペリコローソ島へ行きましょうか」
「ああ、そうしよう」
えーと、木の枝の少ないところはどこかな。
いったんトブーンで浜辺へ出て、浜辺でバルーンに乗り換えればいいね。
「あのー、火の女神様ー、よろしければー、この島の果物をお持ちになってくださいー」
「えっ?」
1人のボルカノ島民に声をかけられて振り向くと、中年の男の人が植物の蔦を編んで作ったらしい即席の籠を抱えて立っていた。
そ、そこにあるのはッ!
マンゴーにパパイヤに、……えっと、紫のはマンゴスチンか、パッションフルーツかな?
他にも、よく分からない果物が山盛りになってるー!
「チッチディカカオが珍しいのならー、もしかしてこちらも珍しいのではと思いましてー」
珍しい、珍しいよ!
果物を探して帰ろうと思ってたのをすっかり忘れてたから大助かりです!
もらっていいなら持って帰りたいー!
「チェリーナ、島民がせっかく採ってきたものなんだから……。俺たちは食べるものに困ってる訳じゃないだろう?」
手を伸ばしかけた私を、クリス様が小声でたしなめた。
そうだった……。
着の身着のままで避難してきた人たちから食べ物を横取りするなんて……、極悪過ぎるな……。
「どうぞー、またとってくればいいですからー」
「でも、なんだか悪いわ……」
「喜んでいただけたらー、私らも嬉しいですからー」
にっこりと愛嬌のある笑顔を浮かべているこの男の人は、元々暮らしていた村の村長さんなのかな?
村の中では立場がある人なのかもしれないけど、勝手に決めていいんだろうか……。
他の人の反応が気になった私は、私たちを囲んでいるボルカノ島民をぐるりと見回してみた。
すると、私の心配をよそに、みんなニコニコと頷いている。
これは、受け取っていいってことだよね……?
「ありがとう、みんな! 本当に嬉しいわ!」
あまり断っても傷つけてしまうし、ここはありがたくお言葉に甘えることにします!
ああー、嬉しいなー。
果物ならアメティースタ公爵領で育てるのに何の問題もない。
加工なしでそのまま食べればいいもんね!




