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第72話 大海原に漂う木の葉


「う……うう……」


私は寝苦しさにうめき声をあげた。


「唸ってるな」


「のんきに夢でも見てるんじゃないか?」

「いい加減起きればいいのに」


うつらうつらする私の耳に、みんなの声が聞こえてくる。

心配そうなクリス様とは打って変わって、ジュリオとアルフォンソは薄情なものだ。


「うううー! まぶしい……ッ!」


カッと照り付ける太陽のまぶしさでおちおち寝てられないよ!


「起きたか」


「はい……」


籠に日よけを付けるべきでした……。


「そろそろ休憩するか?」


そうねえ、いま何時か分からないけど、ちょっと小腹が空いたかも。

おやつでもいただきますか。


「そうですね。どこかに降りて体を休めましょう」


「今の今まで体を休めてたんじゃないのか。これ以上どう休む気なんだ」


ジュリオが呆れたように言う。


なんか、ジュリオも結構揚げ足取るタイプじゃない!?

こっちは寝起きなんだから、突っ込みとかいらないんですけど。


「長時間狭い場所に座った姿勢のままでいると、血の流れが悪くなって体に不調が起こるんですよ。だから、こまめに足を伸ばしたり、歩いたりして体調を整える必要があるんです」


「え、そうなのか?」


理論的な答えが返って来るとは思ってなかったらしいジュリオが、驚きに目を丸くしている。


そうなんですよ、エコノミークラス症候群っていうんです。

私の賢さに驚いたかね。


「やっぱりチェリーナには不思議な知恵があるよなあ」


えへへ、そうかな?

これからは聖女チェリーナ改め、賢者チェリーナで行こうかな。


「そんなことより、あの島がペリコローソ島じゃないですか?」


そんなこと!?

アルフォンソ、遠慮しないで私の賢さをもっと褒め称えていいんだよ?


「どれどれ」


ジュリオが握っていたリモコンをアルフォンソに差し出し、代わりに双眼鏡を受け取った。

私が寝てる間にバルーンの操縦を交代していたようだ。


「右手に大きな島が見えますよね? あそこじゃないですか?」


「右手……。んーー、ああ、あったあった」


「ペリコローソ島か。じゃあ、そこで休憩するか」


クリス様がペリコローソ島での休憩を提案した。


栄えている島らしいし、美味しいものがたくさんあるに違いない。

わあい、地元の美味しいものを堪能するぞー!


「ペリコローソ島なあ……。定期船を出してるくらいだから、うちの領にとって珍しくないんだよな。それより、義父上が言っていた岩山ばかりの大きな島を見てみたいな」


あー、ダメダメ。


うちのアルフォンソはそういう思い付きには厳しいんだからね。

寄り道すんなって怒られるのが落ちだよ。


「それじゃ、そうしましょうか。えーと……、もう少し左寄りに進路を変えた方がいいですね」


アルフォンソが、アゴスト伯爵に頼んで撮影させてもらった海図を確かめながらリモコンを操作した。

A4サイズの紙に印刷したから小さくて見にくそう……って、そんなことより!


「ええーっ!? マルティーノおじさまの無人島に行くのは却下したのに、岩山には行くの? なんだか不公平じゃない?」


私だって無人島に行きたかった!


「チェリーナ……。そんな子どもみたいなこと言わないでよ。ペリコローソ島へ行くよりも、岩山を目指した方が南の島に近いから賛成しただけじゃないか。休憩時間なんてほんの僅かなんだし、一泊するのとは訳が違うよ」


あ、ちゃんと理由があったの?

なんだ、ジュリオを依怙贔屓したのかと思った。


「あら、そうなの。それじゃ、その岩山でいいわ」


そっちの方が近いなら反対するのもおかしいしね。

どっちでもいいよ。


そして私たちは、ペリコローソ島を素通りし、岩山へと進路を変えた。






「アルフォンソ……、ねえ、まだ? まだー?」


暇だよ……。

岩山にはいつ着くの?


「チェリーナ、もうすぐだから。もうちょっと我慢しててよ。ーーまったく、寝てくれてた方がマシだったな」


アルフォンソ、後半のつぶやきもしっかり聞こえたからね!?


ちょっとだけ邪魔しちゃったかもしれないけど、だって暇なんだもん!

景色を眺めるにしたって、どこまでも続く青い海と青い空……以上、って感じだし。


「双眼鏡で俺たちが目指している島を見てみたらどうだ? ほら、あそこに見える」


クリス様が暇を持て余す私に、自分の双眼鏡を貸してくれた。


うーん……、あんまり興味ないけど……。

とりあえず見るだけ見てみるか。


「ーーあっ! 山だ、山が見えるー! クリス様、山ですよ!」


なんかだか富士山みたいな綺麗な形!

ジェネリック富士山かな!?


「ははっ。ああ、山が見えるな」


「……さっきから岩山を目指してるって言ってるんだから、山が見えるのは当たり前だろ」

「本当に……、少しは人の話を聞いてほしいですよね……」


はあー、ジェネリックでも富士山っぽい形だと、ありがたい気がしてくるから不思議だ。

気分が高まるー!


「早く行きましょう!」


「もうすぐ着くよ」


「バルーンがあれば、頂上までひとっ飛びーー、……んっ!?」


私の目に、大海原に浮かぶ木の葉のようなものが飛び込んできた。

もちろん、本物の木の葉なんて見える訳がないから別の何かに決まっている。


ーーあれはッ!?


「舟……! 小舟です!」


「こんなところに? あの島から小舟でここまで来るものか?」


言われてみれば不自然だ。

上空から双眼鏡で見れば最寄りの島が見えるけど、あんなに小さな小舟から島が見えるとは思えない。


「人がいない……? 舟だけ流されてしまったのかしら」


「いや、倒れているんだ! 急げ、アルフォンソ! このまま真っ直ぐだ!」


私と同様に双眼鏡を覗き込んでいたジュリオが、緊迫した声で叫んだ。


「はい!」


アルフォンソがリモコンを操作するのと同時に、背後からの風を感じる。

風魔法で加速しているのだ。


ぐんぐんとスピードをあげて小舟に近づくと、小舟の中の人影が小さいことに気が付いた。


「子ども……? 子どもが数人乗っているわ」


「遊んでいてうっかり流されて帰れなくなったのかもしれないな。間に合うといいが……」


気を失っているだけなら回復薬で助けられる。

どうか、間に合って……!


「おーい! 大丈夫かー!」


ジュリオが声を張り上げた。


すると、小舟の中の子ども達が次々にむくりと体を起こす。

どうやら気を失っていたのではなく、横たわっていただけのようだ。


子ども達は船から顔を出し、きょろきょろと辺りを見回している。


「上だ、上ー! 上を見ろー!」


「こっちよー!」


ジュリオに加勢して、私も手を振りながら呼びかけた。

子ども達はバルーンに乗った私たちに気が付くと、一斉に手を振り返した。


「たすけてー……」

「たすけてえー……」


子ども達の微かな声が耳に届く。

うん、体も動くし、声も出るなら大丈夫だ!


「いま助けるわよー!」


そして私たちは子ども達の小舟に追いつくと、上空からの救出を試みることにした。


「どうやって助ける?」


「以前トブーンで助けようとしたときは、引き上げられなかったよな」


ジュリオの言うように、私が海に落ちた時はトブーンが揺れて引っ張り上げることが出来なかった。

ううーん、どうやって小舟からバルーンに移ればいいのか……。


「小舟にロープを結んで島まで引っ張るか?」


「あっ、そうだ! 縄梯子をかけるのはどうですか? そうすれば船からあがって来られます」


ここから縄梯子を垂らして、子ども達に自力であがって来てもらうの!


「お前……、子どもに無茶を言うなよ。ある程度大きな子はともかく、幼い子は自分の体重を支え切れないだろ。海に落ちたら、助けるのが余計難しくなるぞ」


クリス様が呆れ顔で言った。

あ、あれ?

いいアイデアだと思ったんだけどな。


「僕も子どもには危険だと思うな。やっぱりロープで小舟を引っ張る方が安全だよ」


「俺も2人の意見に賛成」


そうですか……。

いいよいいよ、私は協調性がある方だから。


「わかりました。それなら長いロープが必要ですね。ーーポチッとな!」


私は魔法で一巻きのロープを出すと、小舟の空いているスペースめがけて投げ込もうと構えた。


「そーれ!」


これでよしと。


「ーーあッ、馬鹿!」


え、なんで馬鹿!?






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