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第5話 シェルター化構想


貴族の街と庶民の町を分けるというアルフォンソの考えに、クリス様も賛同して頷いた。


「それはいい考えだ。そうすると、コテージを分割して貸し出すのは、庶民側の方がいいか」


「分割して貸し出す?」


「ああ。なるべく初期費用が安く済むように、コテージの中とテラスを別々に貸し出したらいいんじゃないかと思ってな。もちろん、余裕があるものは丸ごと1つ借りてもらっても構わない」


よく考えたら、屋台で食べ物や飲み物を買う貴族はそう多くないかもしれない。

だったら、分割で貸し出すのは庶民側だけでいいのかも?


「なるほど。安く上がるならみんな大歓迎でしょう」


「それで、他にも話があるのか? さっき、まず1つ目と言っていたと思うが」


あ、そう言えばそうだった。

危うく忘れるところだったわ。


「はい。思いついたことがあるのです。クリス様が防犯のことをだいぶ気にされていたようでしたので」


そう……、新しく街を作るにあたり、クリス様はことのほか防犯面に気を使っている。


それは、2年半ほど前までこの旧ラーゴ男爵領の領都ラルゴが盗賊に占拠されていたからだ。

占拠されていた期間はなんと3年もの長きに渡り、その間、多くの命が失われてしまった。


だからクリス様は、もう二度とそんなことが起こらないように出来る限りの対策を講じようとしているのだ。


「どんなことを思いついたんだ?」


「避難所を作るんですよ」


避難所……?

うーん、災害の時はいいかもしれないけど、それって防犯対策になるの?


チラリと横を見ると、クリス様もいまいち納得していない様子だ。


「避難所なあ……」


「ふふっ、避難所というよりも、街全体に結界を張ると言った方が分かり易いかな」


「ええっ!? 街全体に結界を? どうやって?」


私に過度な期待をされても困るよ!?

私の魔法は基本的に物を出す魔法だから、どこかに結界を張れるわけじゃないからね?


「新しい街にはまだ十字路しか出来ていないよね? それから劇場や店舗なんかと」


「ええ、そうね」


「その十字路の一部を屋根で覆って、入口にゲートを付けるんだ。四方のゲートに結界のレンガを埋め込んでおけば、十字路が巨大な避難所に早変わりするというわけさ。劇場かどこかに食料の備蓄をしておけば、助けが来るまで籠城することも可能だ」


新しい街の中心部分にアーケードを作って、そこをシェルターにするのか!

何かあった時に、大勢の人が逃げ込めるところがあるのは心強い。


エスタンゴロ砦の強化工事にもすでに取り掛かっているというのに、なんで結界のレンガを使うことを思いつかなかったんだろう!


「……いいな」


「すごいわ、アルフォンソ!」


クリス様も私も、アルフォンソを感心して見た。

アルフォンソが私たちの領に来てくれてほんとよかったー!


アルフォンソなしだったら、きっともっと苦労が絶えなかっただろうと心から思うよ。


「よし、それじゃあ、その話は俺からアンドレオに話しておこう」


うん、クリス様から話した方がすんなり通るだろう。

アルフォンソから切り出して、アンドレオに美観がどうのってギャンギャン文句言われたら気の毒だしね。


「はい。よろしくお願いします。それからチェリーナ。貸店舗用にするコテージなんだけど、僕たちが今使っているのと色を分けた方が、お客さん側が分かり易いんじゃないかと思うんだ。壁は白、屋根はこの森林になじむ緑にしたらどうだろう?」


白い壁に緑の屋根か、赤毛でソバカスの女の子が出てくるお話と同じ配色だ!


「あら、いいわね! 清潔感があって、お店にぴったりよ。そうだわ、テラスの外側にも水道を付けましょうか。水道があれば何かと便利だわ」


「そうだね。それじゃあ、空いてる場所にいくつか出してくれるかな? 早速今日から募集を始めてみるよ」


「ええ、わかったわ!」


そして私は、工事中の十字路付近を避けて、湖の周りをぐるりと囲んだ元々の道沿いに10店舗分のコテージを出した。


……なんだか、私の出したコテージだけでも街っぽく見えるようになってきたな。

大勢いる職人さんたちが共同生活しているのもコテージだし、騎士たちもコテージで共同生活してもらっている。


同じ家が整然と並んでいるのは見た目にも綺麗だし、新しい街って感じが出ててなかなかいいね!





そして、アルフォンソの事務所を後にした私とクリス様は、牛のことを相談するため代官の屋敷へとやって来た。

アポなしで突然訪ねてきたので、今は通された部屋で代官が来るのを待っているところだ。


「これはこれはアメティースタ公爵ご夫妻、ようこそおいでくださいました。お呼びいただけましたら私の方から訪ねさせていただきましたのに」


代官は私たちが来たことに恐縮気味の様子だったけど、トブーンがないと私たちの小島に来るのは一苦労だからね。

私たちならサッと寄れるんだから気にしないでください!


「ああ、すぐ済む話だからこっちから寄らせてもらったんだ。領内の村について話を聞かせてほしくてな。本当は自分で視察に行くのが一番いいんだが、何しろ今は忙しくて手が回らない」


視察かあ。

私も領内のあちこちを見て回りたい。

忙しさが一段落したら一緒に行きたいな。


「はい、どういったことでございましょう?」


「領内で、牛を育てている村はあるかな?」


「ええ、もちろん。規模の違いはありますが、どの村でも牛を育てております」


代官はクリス様の質問の意図を計りかねるようにパチパチと瞬きをした。


「一番大きな牧場があるのは?」


「ああ、それならマツザッカ村でございます」


マツザッカ村!?

なんとッ……、これは神の導きとしか思えない!


「クリス様、そこですッ! その村こそが私たちの求めていた、牛を育てるのにふさわしい村!」


「うおっ」


クリス様はいきなり叫んだ私に驚いてビクリと肩を撥ねさせた。


「びっくりした……。なんで見もしないのにその村が俺たちの求める村だと分かったんだ?」


「マツザッカ村! それこそ、坂系の牛発祥の地と同じ名前です! そこで育った牛は、アメティースタ牛じゃなくて、マツザッカ牛という名前を付けてもいいかもしれません」


「へ、へえ……」


クリス様!

もっと私のテンションに付いて来て!

マツザッカ村だよ!?


「チーズもそこで作れるのかしら?」


「ああ、そういえば、マツザッカ村にはチーズ作りの名人がいますよ」


私の興奮ぶりにキョトンとしながらも、代官がお役立ち情報を提供してくれた。

ますますいいじゃない、マツザッカ村!


「そうか。それならやっぱりその村に頼もうか」


「頼むとおっしゃいますと?」


「肉質を柔らかくするために、特別なエサを与えて育ててほしいんだ。代官も以前チェリーナのおべんとーを食べたことがあっただろう?」


そういえば2年半前、代官を救出した時にお弁当を出したことがあったっけ。


「ああ、あの時の! あの時のおべんとーの味は生涯忘れることがないでしょう……」


代官は目をつむってしみじみと言った。


「そういえば、家族は元気か? もう王都に着いたんだろう?」


救出時のお弁当の話から、代官の家族のことを思い出したらしいクリス様が尋ねた。

代官の家族はあと半年ほど仕事の引継ぎがある代官を残し、一足先に王都へ帰って行ったところなのだ。


「はい、おかげ様で元気にしているようです。親戚の多くは王都で暮らしていますので、子ども達は祖父母やいとこ達に会ってはしゃいでいると手紙に書いてありました。都会の暮らしにもすぐになじんだようでホッとしております」


どうやら代官は、もともとは王都育ちのようだ。

任期を終えて帰ることを楽しみにしているらしく顔を綻ばせている。

家族が待っているなら、一日も早く帰りたいよね。


代官のためにも、私たちもしっかり仕事を覚えないといけないな。





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