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第56話 新劇場へ


よく見ようと目を凝らしているうちに、ハヤメールと思しき影は空の彼方へ消えてしまった。


「そういえば、ロマーノ様のところに返事が届いたと言ってたっけ」


たぶん、その手紙に対する返事をいま出したってことだよね。


もしかして、ビビの父親に関する手がかりが見つかったとか……?

だから何度もやり取りをしているのかもしれない。


「本人に聞ければいいんだけど……」


さすがに聞きづらいよ……。

そう親しい訳でもないのに、手紙の内容なんてプライベートなことを聞くのは不躾すぎるもん。


「まあ、何か分かったのなら報告してくれるわよね」


国王陛下の前で自分に任せてほしいと言った以上、報告しないという選択肢はない筈だ。


「ーーここにいたのか」


「あっ、クリス様!? お帰りなさい」


いつの間にか、バルコニーに出るガラス戸のところにクリス様が立っていた。


「ただいま」


「お出迎えもせずごめんなさい! 国王陛下は……?」


せっかく国王陛下を出迎えるため早めに帰ってきたというのに、ぼーっとしてて気づかなかったよ……。


「ああ、向こうのコテージにいる。長いこと滞在するんだから、いちいち出迎えなんてしなくていいよ。バルーンは音もしないし、ずっと見張ってないと気付けないだろ。それに、子ども達が疲れて眠っていたから、静かでちょうど良かったよ」


クリス様は、私の隣の椅子に腰を下ろしながら返事をした。


二人の王子はお昼寝中でしたか。

2歳児組よりは少しお兄ちゃんとはいえ、二人ともまだまだ小さいもんね。


「魔の森の観光はいかがでしたか?」


「うん、今日はあまり奥まで行かなかったから、魔物には出くわさずに済んだよ。二人ともプリマヴェーラ辺境伯に会えて喜んでいたな。それに、エスタンゴロ砦を探検したのも楽しかったみたいだ」


いいなあ、私も魔の森班だったらお父様に会えたのにな。


こっちは本当に大変だったんだから……。

二手に分かれて観光なんて、賛成するんじゃなかったよ。


「楽しくてよかったですね……、ハア……」


「そっちは何かあったのか? クララだな?」


思わずため息が出てしまった私を、クリス様は憐れむように見た。

お察しの通り、クラリッサ姫ですよ……。


「ええ、それはもう大変な目に遭いました。クラリッサ姫が私の手に……ッ! うごうごがモゾモゾしてゾワゾワしたので、ギャーってなって、バッとしてブンブン振り払ったら、最終的には目が回ってバタンですよ」


「ちょっと何言ってるのか分からない」


え、何で分からないの?

超大変だったんですよ!


「だからカレンのドレスを借りて着替えたんです」


「ああ、それはカレンデュラのドレスだったのか。花柄もいいな、似合っている」


「エヘ、そうですか?」


また褒められちゃった!

可愛い系のドレスは持ってなかったけど、クリス様がそう言うならこれから挑戦してみようかな。


「今日は何やら大変な一日だったようだが、クララの面倒を見てくれてありがとな」


「クリス様……。いいんです。クリス様の妹は私の妹なんですから」


私がそう言うと、クリス様は嬉しそうに頬を緩ませた。


「そうか。明日からは別行動することはないと思うが、もうしばらく頼むな」


「はい! お任せください!」


私たちはお互いの顔を見て、どちらからともなく微笑みあった。

クリス様と少し話しただけで、疲れが減った気がするから不思議だよ。






フィオーレ伯爵領へ行った翌日は、街中を軽く見て回ったり、新しくオープンした王都の有名料理店の支店で食事をしたりと、ゆったりしたペースで一日を過ごした。


そしてついに、この日がやって参りましたよ!

今日はずっと前から心待ちにしていた、こけら落とし公演が開幕する日だ。


開演は午後一時半、そして、終演後には出演者も交えての開幕記念パーティが企画されている。

王都の劇場なら、こんな時は夜公演と相場が決まっているんだろうけど、なんせここは田舎だからね。


お客様達が明るいうちに帰れるようにと、しばらくの間は昼公演のみの興行となる予定なのだ。

早く夜公演も出来るように、頑張って街を発展させないとな!


ますます気合が入るってものだけど……、差し当たって今は別の問題に直面しています……。


「カーラ、こんな豪華なドレス、私に似合うかしら?」


私は王妃様からいただいたドレスをずらりと並べ、あまりの豪華さに圧倒されているところなのだ。

改めて見てみると、どれもこれもものすごくお高そう……。


「似合うかどうかは置いておいて、早く着るものを選んでください」


「いや、置いとけないでしょ!?」


それが重要なんじゃない!

ドレスに顔が負けてたら困るよ!


「似合うからと言って普段のドレスを着るわけにはいきません。その場や身分に相応しい装いをしていただかなくては」


「それはそうだけどー」


私だって普段着で行こうとは思ってないけどさあ。

尻込みする気持ちも分かってほしいよ。


「大丈夫です、少しお化粧すれば誤魔化しが利きますから」


「ひどいッ! 誤魔化してもらわなくても似合います!」


まったく失礼しちゃうな!


「その意気です。似合うと思って自信を持って着ればいいんですよ」


「カーラ……! そうだったわ、私にいま必要なのは自信よね。元はいいんだもの!」


「……その意気です」


よしっ!

まずは選択肢を減らそう!


私は早速夜会用のドレスをアイテム袋に回収し、昼間用のドレスだけを残してみた。

次に、秋冬用のドレスも仕舞う。


「候補はこの三着ね」


「半袖はまだ少し早いのでは?」


「そうね、それなら残りはこの二着」


一着は淡い黄色で、もう一着は青と薄い紫を混ぜたようなラベンダーブルーだ。


「黄色は可愛らしい感じで、ラベンダーブルーの方は少し大人っぽいデザインですね」


「黄色は可愛い? それなら黄色い方にするわ。この前、クリス様に可愛いドレスも似合うって褒められたの」


「ああ、カレンデュラ様のドレスですね。確かにあれはよくお似合いでした」


毒舌カーラも認めてる……!

やっぱり今日は黄色で行くことにしよう!






「チェリーナ、支度は出来たか? そろそろ劇場へ向かおう」


「はい、準備出来ました」


「うわあ……、すごいドレスだな。母上が贈ってくれたドレスだよな?」


うっ、その反応!

自信がなくなってきた……。


「似合いませんか?」


「見慣れないだけだよ。普段は簡単なドレスばかりだからな。そのうち豪華なドレスも似合うように……、いや、化粧してないからドレスとのバランスが悪いんじゃないか?」


「本当に……。公爵夫人ともあろう方が、口紅すら持っていないとは私も驚きましたよ」


そうなのです……。

カーラがメイクをしてくれようとしたんだけど、肝心の化粧品を持ってなかったんだよね。

スキンケア系ならあるんだけど……。


「せっかくフィオーレ伯爵領に行ったんだから、何か買ってくればよかったのに。母上はたくさん買い込んだと言っていたぞ」


「お化粧する習慣がなかったので、化粧品を買うという発想がなかったんです……」


魔法で出すことも考えたんだけど、黄色のドレスと赤い髪にはどんな色味を合わせるべきか思いつかず……。


マスカラは黒でいいとしても、アイシャドーやチーク、それに口紅は色味が命と言っても過言ではない。

適当に出してメイクした後、やっぱり色が変だからやり直しなんてことになるよりは、すっぴんの方がマシだと判断したのだ。


「母上に借りて化粧するか?」


「いえ、そんな図々しいことお願いできません。今度買いますので、今日はこのままで」


近いうちにお母様に付き合ってもらって、化粧品を買いに行ってきます……。


「お前がいいなら俺はいいけど。それじゃ、行くか」


「はい」


国王陛下や王妃様は、私の顔なんてそんな見てないだろうしね。

うん、バレないバレない。






腕を組んで隣のコテージへと向かった私たちは、外にまで響きわたる叫び声にギョッとして顔を見合わせることになった。


こ、この声は……、例のあの人ですよね。

ゲッソリした気持ちになりながら玄関の扉を開けると、叫び声は一層大きく聞こえてきた。


「いやあああああああー! クララもいきたいー! クララもいきたいー! うあああああーん!」


うわあ……、大変なところに来ちゃったな。

こんなことなら、現地集合にすればよかったよ……。






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