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第53話 フィオーレ伯爵家の若奥様


「チェリーナ、フィオーレ伯爵家に私のドレスがまだ何着か残っている筈よ。うちで着替えましょう?」


カレンデュラは私が着替えを持っていないことを察して、自分のドレスを着るよう勧めてくれた。

だけど……、私に着れるかな!?


家族の中では一番小さく、いつもおチビちゃん扱いされていたから、あまり自覚がないんだけど……。

私って実は170センチあるんだよね。


まあ、お父様はアレだし、お母様もスラッとして私より背が高いし、そんな二人の子どもに生まれたら大きくなるのは当たり前なんだけどね。

カレンデュラは160センチちょっとで、私よりだいぶ華奢だしなあ。


「カレンのドレス……。チェリーナに似合うかな?」


お兄様!?

いまは似合うか似合わないかは二の次でしょ!


「似合いますよ、失礼な!」


「でも、カレンは可愛いタイプのドレスが多いし」


は?

私が可愛くないとでも!?


「全然余裕です! なんでも着こなしますよ!」


自慢じゃないけど、スタイルは結構お母様似だと思うし!

……胸以外は。


「ふふっ、それじゃあ行きましょう? チェレス様、私とチェリーナは着替えを済ませてから合流しますので、王妃様のご案内をお願いします」


私のせいで予定が狂って申し訳ないですけど、フォローよろしくお願いしますね。

いやあ、付いて来てもらって助かったな!


「いいよ、任せて。この辺りは僕もよく来たし、見どころも分かってるよ。あ、そうだ。チェリーナのその格好も記念に一枚」


お兄様はそういうと、ポケットからサッと取り出した録画機を構えた。


「あっ、ちょっと、止めてください!」


マネージャー通してくれるかな!

肖像権の侵害ですよ!


「もう撮り終わったよ。クリス様に今日の報告をしないといけないし。プッ」


「お兄様、ひどい! 内緒にしておいてください!」


「……それは無理じゃない?」


お兄様がちらりと見た先は……、クラリッサ姫か……。

クラリッサ姫を黙らせるのは至難の業だな。


「さあさあ、言い争っている場合じゃないでしょう。チェリーナ、早く着替えてらっしゃい」


そうだった、王妃様をこれ以上お待たせするわけにはいかない。

お母様に促され、私はカレンデュラと一緒にフィオーレ伯爵家へと向かった。






ガラガラガラ……。


「どうどう!」


久しぶりに馬車に揺られ、10分ほどでフィオーレ伯爵家に到着した。

馬車の音を聞きつけた使用人たちが慌てて外へ出て、あたふたと玄関の両側に並ぼうとしているのが窓から見える。


……これは、王妃様が到着したと思っているね。


「みんな、王妃様はまだいらっしゃらないわ」


御者の手を借りて先に降りたカレンデュラが使用人たちに声をかけた。


「そ、それはよかったです。ご到着はお昼ごろだと伺っていましたので、肝が冷えました」


緊張していたらしい執事が、ほっと胸を撫で下ろしている。


「私のドレス、まだ何着か置いてあったわよね? 着替えをしたいの」


「左様でございますか。お嬢様のお部屋はそのままになっておりますので、お部屋へどうぞ。旦那様と奥様はまだお仕度中でございます」


「ありがとう。チェリーナ、どうしたの? 行きましょう?」


カレンデュラがなかなか馬車から降りてこない私を呼んでいる。


ううっ、大勢の使用人に大注目されているこの状況じゃ降りにくいー!

だけど、急いで戻らないといけないし、いつまでも閉じこもってはいられない。


「……エヘ。みんな、久しぶりね?」


「はっ!? い、一体何が!?」


うん、案の定みんなびっくりしてる。

いやどうも、スマンね……。


「誰か、チェリーナの着替えと髪を整えるのを手伝ってあげて」


「か、かしこまりました。マルチェリーナ様、こちらへどうぞ」


いち早く気を取り直したのは、ベテランの侍女長だ。

さすがの肝っ玉です。


「ーーマルチェリーナ様……? あなたが、あのマルチェリーナ・プリマヴェーラ様……?」


玄関をくぐり、ホールに入ると、若い女性が茫然とした様子でこちらを見ていた。

え、どちら様でしたっけ?


「お義姉様。チェリーナは結婚して、マルチェリーナ・アメティースタ公爵夫人になりました」


お義姉様!

そうか、この人はトゥリパーノお兄様の奥さんだ!


トゥリパーノお兄様の結婚式の時に一度見かけただけだったから、向こうも憶えてなかったみたいだけど、こっちもすっかり忘れてたよ。


「マルチェリーナ様……」


ええ、私がマルチェリーナですが?

何回言うのかな?


「突然お邪魔して申し訳ありません。着替えるために立ち寄らせていただきました」


「はッ……! どうぞどうぞ、ごゆっくりなさってくださいませ! お引き止めして申し訳ございませんでした、さあどうぞ」


なぜかトゥリパーノお兄様の奥さんはパアッと顔を輝かせたかと思うと、最初とは打って変わって上機嫌になっている。


え、何なんだろ……?

ちょっと変わった人なのかな?






「チェリーナ、これはどうかしら? このドレスが一番丈が長いわ」


カレンデュラはクローゼットの扉を開け放つと、数着かかっているドレスの中から一着を取り出した。


「……ちょっと私には可愛すぎない?」


小花柄の淡いグリーンのドレスです……。

胸元や裾に白いレースがあしらわれ、かなり女の子らしいデザインだ。


いつも単色かつシンプルな形のドレスばかりの私にとって、花柄って結構な大冒険だよ……。

髪色がド派手な赤だから、ドレスはなるべく主張のないものを選んでたんだけどなあ。


「あら、チェリーナは何でも似合うわ。お義母さまに似てスラッとしているもの」


「でも、私のこの髪色に花柄のドレスじゃ、うるさくないかしら?」


目がチカチカしない?


「私だってオレンジ色の髪だけど、そんなこと気にしたことなかったわ。チェリーナは変なところを気にしすぎるわよ」


「そうかしら……? 気にしすぎると言えば、さっきのトゥリパーノお兄様の奥様のご様子、なんだかおかしくなかった?」


「そうね、私もちょっと気になったわ。ねえ、マグダ、何か知っている?」


カレンデュラが尋ねると、マグダと呼ばれた侍女はギクリとして顔をこわばらせた。


「私の口からは……」


「あら、私たちの口は堅いわ。信用してちょうだい」


「ですが……」


「教えてくれるわよね?」


カレンデュラに食い下がられ、マグダは諦めたようにため息をついた。


「後で聞いても、知らなかったふりをしてくださいね? 実は……、若奥様にお子様がお出来になったのです」


ええっ、意味深な雰囲気出してた割に、グッドニュースじゃないですか!

なんで言いにくそうにしたの?


「まあっ、嬉しいわ! お義姉様が私たちの結婚式に来られなかったのは、子どもが出来たからだったのね。でも、なぜ知らないふりをしないといけないの?」


「妊娠初期は流れやすいので、安定するまでは周知しないのが普通でございます」


へー、そうなんだ。


「そうなの。わかったわ。それにしても、そのこととチェリーナに何の関係が?」


そうそうそう!

そこがポイントですよ!


「……そのー……」


「大丈夫よ、言ってちょうだい」


「実は……、マルチェリーナ様の話題がご家族の間でよく上がるので……、若奥様は密かに悩まれていたようなのです」


えっと、フィオーレ伯爵家で私の話題になるとトゥリパーノお兄様の奥さんが悩むの?

意味がわかりません。


「どういうこと?」


「私も直接聞いたわけではありませんが……、他の侍女に、”トゥリパーノ様は、本当はマルチェリーナ様と結婚したかったのではないかしら”と打ち明けることもあったとか。もちろん、そんなことはあり得ないと否定しましたが、妊娠中はとかく気持ちが不安定になりがちですので」


なんでそうなった!?

どこをどう勘違いしたらそうなるのか、まったくもって理解不能だよ!


……いやでも、ちょっと待って?

あの奥さん、私を見ていきなり上機嫌になってなかった?


「それでチェリーナ本人を見たら安心したのね」


「カレンー!」


それ言っちゃいますか!?






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