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第3話 新しい試み


なんということだ。

生まれてこの方センスの良さを褒められたことはあっても、文句なんて言われたことないのに!


「みんなすごいって言ってくれてますッ! ねっ、クリス様? トブーンは確かに簡単な作りかもしれませんが、言い換えればそれは無駄が一切ないということでもあります。むしろ究極の美とも言えるのではないでしょうか?」


つまりはミニマリズムということですよ!

ルネッサンス調が主流のフォルトゥーナ王国では異色かもしれないけど。


「……トブーンは便利だ」


クリス様!?

どうして目を逸らすんですか?


「どこへでも行けますし、実家にもすぐに帰れます。私は好きですよ、さっぱりしてて」


クリス様がサッと目を逸らしたのを見て気の毒に思ったのか、ミケーレはやや長めの回答をしてくれるも、美しさについては触れようとしない。

もしかしてもしかすると……、見た目の点ではみんなもアンドレオに同意見なの!?


ベンチ型のシートの上部に2本の棒をクロスさせ、その先に4つのプロペラが付き、さらに前面にはアクリル板の風よけだってついている。

空気抵抗を考慮したアクリル板は丸く湾曲したフォルムだし、どこを取っても完璧だ。


これ以上何をどうしろと?

アクリル板に紋章でも彫ったら満足なの?


「騎士たちにはあれくらい簡素でもよいでしょうが、公爵の身分に相応しいとは言えますまい!」


ええーーーっ!?

そうかなあ?


信じられない!

今まで誰にもそんなこと言われたことがなかった。


「そんな……、魔法具にも身分を考慮する必要があったなんて……。考えたこともありませんでした」


色を金色に変えるくらいのことなら出来るかもしれないけど……。


私の周りの人はみんな実用性重視で、例えばスピードを早くしてほしいとか機能的なリクエストはもらうことがあっても、飾りが足りないなんて言う人はいなかった。


「これからも考えなくていいぞ。お前はお前の出したいものを好きなように出せばいいんだ。お前の魔法具なのに、誰かに強要されるようなものでもないだろ?」


「クリス様!」


やっぱりクリス様は私の良き理解者だ。


いちいち凝ったデザインを考えるなんて、そんなの面倒くさいもんね!

私はこれまでどおり自由に生きるよ!


「アンドレオ。とにかくチェリーナの魔法具を見てみてくれ。その上で、これはこうした方がと思うものがあれば、アンドレオの方で調整してほしい」


「わしの方でとは?」


ほんと、アンドレオの方でってどういうこと?


「たとえばーー。みんな、こっちに来てくれ」


私たちは手招きするクリス様の後ろについて、ぞろぞろとそう広くないキッチンに入っていった。


「これは狭い……。身動きすらままならない」


ちょっと、隙あらば文句を言うのやめてもらっていいですか!?


「まあ、公爵邸の厨房はもっと広い方がいいだろうな。それで、魔法具だが。まずはこの冷蔵の魔法具を見てくれ。これは食品を冷たい状態、または凍らせた状態で保存するものなんだ。地下貯蔵庫をもっと便利にしたものだと思ってくれればいい」


クリス様はそう言って冷蔵庫のドアをパカッと開けた。

ひんやりした冷気がうっすら漂ってくる。


「なるほど。ただの四角い箱ですな……」


アンドレオは用途よりも、どうしても見た目へのこだわりが先に来るようですよ……。


「飾りが必要なら、これを覆う戸棚のような家具を作ればいいだろう? どんな風に覆うかは好きなように拘ってくれていいぞ」


「……なるほど。隠してしまえば良いわけですな。ふーむ、便利さはそのままに、華やかさを加える……。ふむ……、ふむ……」


アンドレオはぶつぶつと呟いていたかと思うと、急にくわっと目を見開いて叫んだ。


「ーー見えたッ!」


びびび、びっくりしたあ!


何が見えたのよ?

怯え気味にキョロキョロ目を動かしてみたけど、特に何かが変わった様子はないようですが……。


「ど、どうした、アンドレオ」


「アメティースタ公爵! このアンドレオ・パッラーディ、必ずや公爵ご夫妻にご満足いただけるお屋敷を設計いたしましょう! もちろん、奥方様の魔法具を利用した最新式の設備を導入いたしますとも」


あ、ああ、そう……。

わかってくれたならよかったよ。


出来れば急に叫んでびっくりさせないでほしかったけど。


「ふーむ、これは水が出るのか……。これは確かに恐ろしく便利だ」


方向性が決まったせいか、その後アンドレオは自分からこれはと思う魔法具を見つけては試してみたり、サイズを計ったりと目まぐるしく動き回った。


時折ダイニングテーブルに広げた設計図のところに戻っては、真剣な表情であれこれ紙に書き加えていたが、今は小島の大きさを測量すると言ってミケーレと共に外へ出て行ったところだ。


ほんと疲れたよー!

この先屋敷が出来るまで付き合いが続くかと思うと、疲労感がいや増すばかりです……。





「ふう……、嵐のようだったな」


「そうですね、聞きしに勝る職人気質でした」


たぶんだけど、あれでも一応私たちの前では精一杯かしこまってたんだよね……。

普段は絶対にもっと傍若無人に違いない。

アンドレオのお弟子さんたちの苦労が偲ばれるよ。


「見た目なんかどうでもいいだろ、と何度も言いそうになったよ。父上がわざわざ寄越してくれた職人なんだから、何とか折り合いをつけてやっていくしかないのに」


なんならずっとこのコテージに住んでもいいと思ってるくらいだけど、さすがに国王陛下のご厚意を無下にするわけにはいかないもんね。


「でも、なんとか私たちの要望を受け入れてもらえてよかったですね。やっぱり、一度便利さを知ってしまうと、なかなか以前の生活には戻れませんから」


水洗トイレやシャワーがない生活なんてもう絶対無理だよ。


「そうだな。だけど、魔法に頼りきりにならないようにしたいとも思ってるんだ」


「えっ?」


どうしてですか?

リクエストがあれば、どーんと受け止めますけど?


「チェリーナの魔法だけを頼りにしていては、健全な領地経営とは言えないだろ? 俺たちの代はそれでいいとしても、子どもたちの代へ何も残せないようじゃ困るからな。魔法なしでも十分な収入を得られる領地に変えて行かなければならない」


それはそうだ。

私の死と共に、子ども達や領民が困窮してしまうようでは困る。


「具体的にどうしたらいいんでしょう……?」


地道に小麦や野菜を育てるとしても、人口の少ないこの領地では大した収入になるとは思えない。


「前から考えてたんだけどな。俺たちが新しく事業を始めるのはもちろんだが、領民にも新しい取り組みをしてもらいたいんだ」


「新しい取り組みですか? どんなことを?」


うーん、なんだろう?

周りに木がいっぱいあるから林業とか?


……でも他の領にも売るほどあるよね。


「牛だよ」


「牛?」


「牛を育ててもらおうと思ってるんだ」


農家から酪農家に仕事を変えてもらうってこと?

なんで唐突にそんなことを思ったの!?


「なんで牛なのか意味が分かりませんけど……」


「チェリーナのおべんとーにステーキのやつがあるだろ? あの柔らかい肉を、アメティースタ公爵領の特産品にしたいと思ってるんだよ」


ああーっ、あれですか!

最高級和牛フィレステーキ弁当のお肉!






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