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第34話 傲慢な医者


突然の怒鳴り声に振り向くと、白衣を着た白髪頭の医者らしき人物がこちらを睨みつけていた。


眉間にはくっきりと深い皺が刻まれ、不機嫌そうに口をへの字に曲げている。

見るからに頑固そうな人物だ。


「お医者様ですか? 重症な順に怪我人の治療をーー」


「小娘がわしに指図する気か! 治療の順番は子どもが優先、その後は女性、男は最後でいい!」


は!?

重症度はまるっと無視ですか?


かすり傷の子どもを治療している間に、重症な男の人が死んだらどうするの?

男の人だからって怪我が治るわけでもないのに、この医者は何を言っているんだろう。


「いいえ、重症者を優先すべきです!」


「黙れ!」


激高した医者が私の方へ一歩足を踏み出してくる。

すると、クリス様が守るようにスッと私の前に立ってくれた。


「黙るのはお前の方だ。俺の妻に無礼な口の利き方をするのは許さない」


「なっ……!」


男の人が出てきたことに怯んだのか、私には高圧的な態度だった医者が言葉を詰まらせている。

相手によって態度を変える人って、ほんと感じ悪いよね!


「チェリーナ、口論している時間がもったいないわ。せめて回復薬の飴を怪我人に配りましょう」


グッドアイデアです、お母様!

この頑固じじいの相手をしている間に、怪我人の容体が急変したら大変だ。


私はうなずくと、アイテム袋から飴タイプのゲンキーナを取り出し、半分の量をお母様の手のひらに乗せた。


「何をするつもりだ! 勝手なことをーー」


「忠告しておきますが、あまり無礼な態度は控えた方がよろしいですよ。後で後悔することになるのは確実にあなたの方ですから」


アルフォンソが含みのある言い方をすると、傲慢な医者はムッとしながらも口を噤んだ。

そしてまじまじと私たちを見回して、遅ればせながら町人とは明らかに違うことに気が付いたようだった。


まったく、遅いよ!

クリス様のロイヤルな雰囲気、見てわからないかな!?


やっと分が悪いと理解した医者は、忌々しそうに小さく舌打ちをすると、何も言わずに馬車の向こう側に姿を消した。


「なんなんだ、あの医者は! この街にはまともな医者はいないのか!?」


クリス様、私も本当にそう思います!

領主であるジョアン侯爵家の呼び出しに応じない時点でまともじゃないとは思ったけど、あれは酷すぎる!


「あの……、私も医者です。もしよろしければ、私がお手伝いを……」

「私も医者です」

「私も」


背後から小声で話しかける医者が次々に現れた。

2、3、4……、さっきの頑固な医者も入れたら5人?


え、こんなに医者がいたの!?

もっと早く出て来てくれてもよかったんですよ!?


「よかった! 重症者から優先的に治療するために、重症度を判別してほしいのよ。直ちに治療が必要な重症者にはこの赤い布を、中くらいの怪我人には黄色い布を結んでちょうだい。軽症者は緑色の布ね。私たちはその間に手分けして回復薬を配ります」


私は魔法で出したリボン状の布切れを医者たちに手渡した。


「えっ、回復薬……?」


説明はあとあと!

もうすでにだいぶ時間をロスしてるんだからね!


「さあ、早く!」


「しょ、承知いたしました!」


「私たちも手分けして飴を配りましょう!」


今回は怪我人の数が多いから、飴の方が効率がいい。

急いで配らないと!





そして、私たちが飴を配り終わったころ、医者たちが選別が終わったと報告をしに来た。


「失礼いたします、お嬢様。ご指示通り選別を行いました。次は何をいたしましょう?」


「次はこの治癒薬を傷口に張り付けてちょうだい。それで、重症者は何人くらいいるの?」


私はアイテム袋から治癒薬を取り出し、医者たち1人1人に手渡した。


「重症者は5人でした。他の者は、命に別状はありません」


「骨折している人はいるかしら?」


例え骨折してても、治療法が見つかりましたのでもう安心ですよ!


「手足の骨折はしていないようでしたが、体幹部の骨が折れているかもしれません。それに、血を吐いていますので、内臓も傷ついていると思われます」


うう、またもや内臓の損傷か……。

カプセルで治療するにしても、治療するスペースが必要だ。


「一部屋でもいいから、近くに治療できる場所はないかしら?」


「あの! お嬢さん、うちの宿を使ってください! この目の前ですから!」


人だかりの中から大きな声がして、そちらに目をやると、恰幅のいいおかみさんがぶんぶんと手を振って合図をしていた。


「ありがとう! そうさせてもらうわ! それじゃ、誰か1人私の手伝いをしてちょうだい。残りのお医者様たちはここに残って重症者以外の怪我人の治療をお願いね」


「では私がお嬢様のお手伝いを」


「おう、俺も怪我人を運ぶのを手伝うぜ!」

「俺も手伝う!」

「これに乗せて運ぼう!」


力のありそうな男性陣が次々に手伝いを申し出てくれて、中にはどこかの扉を外して担架代わりに持ってきてくれる人まで現れた。


さっきの頑固じじいのせいで、この街の人に悪い印象を持ちそうになったけど、いい人もいっぱいいて安心したよ!


「みんな、ありがとう! それじゃ早速ーー」


「チェリーナ!」


「あ、マルティーノおじさま」


人ごみをかき分けて現れたのはマルティーノおじさまだった。


「遅くなって悪かったな。俺にも何か手伝わせてくれ」


「ちょうどよかったです。マルティーノおじさまにぴったりの仕事がありますよ。こちらの5人は重症なので、さっきのカプセルで治療しようと思うんですが、ここじゃちょっとアレなので、そこの宿に連れて行くところだったんです」


「そうか。任せろ!」


マルティーノおじさまはそう言うと、横たわる男の人をお姫様抱っこで軽々と抱き上げてさっさと歩き始めた。

うん……、やっぱりすごい力です。


街の男の人たちはさすがにそういう訳にはいかず、扉を使って二人一組で怪我人を運んでくれるようだ。

残りの怪我人の搬送は、この人たちに任せておけば大丈夫だろう。


私たちは、マルティーノおじさまの後を追って宿へと向かった。





宿に足を踏み入れると、受付前のスペースにカプセルがババンと鎮座しているのが目に飛び込んできた。


デ、デカいな!?

さっきは侯爵家の広いホールに出したからあまり大きさを感じてなかったけど、こんなにスペースを使うなら何台も出せないね。


「おお、チェリーナ。ちょうどさっきのミッチーナを持ってきてたから、早速治療を始めてるぞ」


「助かります、マルティーノおじさま」


『治療中……、あと3秒で完了です。3、2、1……完治しました』


早くも1人は完治したようだ。

残りは4人か。

この分なら全員助けられそうだね、よかった!



ーーザワッ、ザワザワザワ……!



急に外が騒がしくなったみたいだけど、どうしたんだろう?


「何かあったの?」


私はちょうど宿に怪我人を運び入れてきた人たちに尋ねた。


「まだ馬車の中に人が閉じ込められてるらしいぜ。子どものような声が聞こえたとかなんとか」


「ええっ!?」


「なにッ! どこだ!? 後のことは頼む!」


子どもが閉じ込められていると聞いたマルティーノおじさまは、血相を変えて飛び出していった。


「チェリーナ、ここは私たちに任せて行ってあげなさい。ミッチーナの操作は私がやるわ」


「はい!」


いままで重機なんて出したことないけど……!

絵に描けるかどうか不安だけど、とにかくすぐに助けに行くからね!





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