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第32話 救う手立て


どうしよう、どうやって助ければいいの?


「サリヴァンナは、階段のどの辺りから落ちたのかしら……」


お母様が階段を見上げてつぶやいた。

天井が高いだけあって、階段の一番上はかなりの高さがある。


「一番上から……。見ていた者の話では、子どもたちがサリーに甘えたくてあちこち引っ張ったらしい。そのはずみで足を踏み外したそうだ」


「そう……。それじゃ、骨は折れていると思った方がいいわね。チェリーナ、ゲンキーナで骨折は治るのかしら?」


骨折……。

私の知るかぎり、今までゲンキーナで骨折が治ったという話は聞いたことがない。


おそらく、ゲンキーナでは外傷の治療はできないのだろう。

ゲンキーナができるのは体力の回復がメインで、他に効果があるとすれば鎮痛剤的なものではないだろうか。


治癒薬の方がまだ可能性があると思うけど、それだって直接的な傷がない皮膚に張り付けたとして、どこまで効き目が浸透するのかは誰にもわからない。


「骨折は、いままで治療したことがありません……。ううっ、サリヴァンナおばさま……!」


ここまで来たのに、何もできないなんて……。

何か、何か考えないと……!


だけど、焦れば焦るほど考えが纏まらなくなり、涙がぽたぽたと零れ落ちるばかりだった。


「あなた……」


蒼白な顔で目を閉じていたサリヴァンナおばさまが、薄く目を開いた。


「サリー! 俺はここにいるぞ!」


「子どもたちを……、お願いします……。私の代わりに……愛して……あげて……」


「サリー! やめろ! そんな別れの言葉みたいなことを言わないでくれ……ッ!」


マルティーノおじさまは跪いてサリヴァンナおばさまの手を握り、大きな体をかがめて顔を近づけた。


「あなた……」


「サリー、愛している! 死ぬな、死ぬんじゃない! 俺を置いていかないでくれ!」


どうしよう……!

どうすればいい?

どうしたらサリヴァンナおばさまを助けられるの?


ガクガクと震える私は、何もできずにただその場に立ち尽くした。


「チェリーナ!」


「えっ……、クリス様……?」


振り向くと、そこには血相を変えて走り寄ってくるクリス様とアルフォンソの姿があった。


「ラヴィエータから連絡をもらって駆け付けたんだ。容体はどうなんだ?」


「それが……、どうやって治療したらいいのか……! わからないっ! ううっ、うわーん!」


私は自分の無力さに打ちのめされて、あふれる涙を止めることができなかった。


「落ち着けっ! 落ち着いて助ける方法を考えるんだ。いまサリヴァンナ先生を助けられるのはチェリーナしかいない!」


クリス様はそう言うと、私をぐいっと自分の胸に引き寄せて抱きしめてくれた。


「わ、私しか……」


「そうだぞ。あれを見ろ」


クリス様に言われて横を向くと、ジョアン侯爵夫妻の傍でサリヴァンナおばさまとマルティーノおじさまの子どもたちが抱き合って震えているのが目に入った。


「あの子たちは今、母親が死んでしまうんじゃないかと恐怖に震えている。助けてやりたいだろう?」


そうだ……、今サリヴァンナおばさまが亡くなってしまったら、あの子たちは生涯自分を責め続けることになってしまう。


「助けたい……!」


「お前なら出来る! 自分の力を信じろ!」


自分の力を……。


私に何ができるかわからないけど、絶対にサリヴァンナおばさまを助ける……!

そう心に決めると、私は必至に思考を巡らせた。


「おそらく骨折と……、それに内臓を損傷しているかも……」


出産もしているし、サリヴァンナおばさまの体のダメージは計り知れない。

せめて、どこをどんな風に怪我しているのか分かれば……。


……ん?

そういえば、前世のお父さんが人間ドックでトンネルみたいなやつに入るって話してたことがあったっけ。

狭いところが苦手だから憂鬱だって言ってたな。


あれは……、何ていう機械だった?


「あーっ、思い出したっ! MRIですよ、MRI!」


「えむあーるあい?」


CTだったかな?

まあ名前は何でもいいか。


とにかく、機械の中に入って、悪いところを見つけてもらうことにすれば!

ついでに治してくれたらなおいいじゃないの!


「よしっ、これはいける!」


早速ペンタブで描いてみよう!


えーと、MRIって自分で四つん這いになってトンネルに入っていくのかな?

怪我してる身でそれは無理だから、トンネル状は止めて、楕円形のカプセルの横から上にパカッと蓋が開くスタイルにしよう。


病人や怪我人をそこに寝かせてスイッチを入れると、全身をスキャニングして悪いところを報告、そして治療を行うと。


私は手早くカプセルの絵を描きながら考えを纏めた。


「えーと、操作ボタンはどうしよう……」


あんまりたくさん機能を付けて、使い方が難しくなったらいけないよね。


よし、ここはシンプルに、”開閉ボタン。カプセルの蓋の開閉を行う”、”スキャニングボタン。怪我、病気をスキャンして報告する”、”治療開始ボタン。スキャニング後に続けて押すと、報告のあった箇所の治療を始める”の3つで十分だ。


「出来たっ! ーーポチッとな!」


ズシーン!


「うう……」


カプセルの重みで振動があったらしく、サリヴァンナおばさまは小さくうめき声をあげた。


「サリヴァンナおばさま、大丈夫ですか? もう少しの辛抱です! マルティーノおじさま、このカプセルの中にサリヴァンナおばさまを寝かせてください」


「あ、ああ……。何なんだ、これは?」


「怪我や病気を治療するマッシーンです!」


どうですか、この美しいフォルム!

最近は見た目にもこだわってるんだから!


私は誇らしげに胸をそらした。


「まっしーんて何だ?」


そこはどうでもいいんですよ!


「ささっ、お早く! サリヴァンナおばさまが苦しんでいます!」


「ああ、そうだな。サリー、痛いだろうが、少しの間我慢してくれ」


「ええ……、ああっ! ううっ!」


サリヴァンナおばさまは痛みに顔をゆがめながら、やっとの思いでカプセルに収まった。


「それじゃ、行きますよ! スキャニング開始、スイッチー、オーン!」


『スキャニングを開始します…………。骨盤の複雑骨折。第9および第10肋骨の完全骨折。子宮破裂。出血性ショック。打撲。擦過傷。ーー以上です。続けて治療を行いますか?』


酷い……。

これほどの怪我だったなんて……。

血だまりを見て怯んでる場合じゃなかった。


『ーー続けて治療を行いますか?』


はッ、そうだ、早く治療しないと!


「もちろんよ! 治療開始、スイッチオーン!」


『治療を開始します。治療中……、治療中……、治療中……』


頑張ってる頑張ってる。

なんかこのカプセル、しゃべるせいかちょっとカワイイかもしれない。


『治療中……、治療中……、治療中……、あと3秒で完了です。3、2、1……完治しました』


おおー、完治しましただって!

やった、やったよ!


「オープン・ザ・カプセルー!」


私がカプセルの蓋を開くと、そわそわと見守っていたマルティーノおじさまはサリヴァンナおばさまの頬に手を当てて名前を呼んだ。


「サリー!」


すると、サリヴァンナおばさまはパチリと目を開き、自分の力でゆっくりと体を起こした。


「あなた……。もうどこも痛くないわ……」


「サリー、よかった……!」


涙を流して抱き合う二人の元へ、子どもたちやジョアン侯爵夫妻がわっと集まってくる。


「おかあさまー!」

「おお、サリー!」

「おかあしゃまー、うわあーーー」


助けられて、本当によかった……。


みんなの流している涙が、悲しみの涙ではなく喜びの涙だということに、私はほっと胸を撫で下ろしていた。





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