第27話 録画機の活用法
だけど、そんなにガッカリすることないよ、キキエーラ!
こんな時こそ良い魔女の出番です!
「ドレスなら私のを着るといいわ。屋敷が出来上がったら招待するから、その時はぜひ晩餐会に来てちょうだい」
「本当ですかっ!? マルチェリーナ様、ありがとうございます!」
「いいのよ!」
心から嬉しそうに破顔するキキエーラを見ていると、私まで嬉しくなっちゃうな!
「キキエーラに貸すなら、まずは自分がドレスを作れよ。自分だって晩餐会用のドレスなんて持ってないだろう。王宮のパーティにも出たがらなかったくらいだし、今まで作る機会なんてなかったよな」
そうでしたっけ?
今着ているようなのじゃダメなの?
「これじゃダメなんですか?」
「晩餐会の主催者が、そんな簡素なデイドレスを着てたらダメに決まってるだろ。ドレスコードを考えろ」
ドレスコード……。
こんな田舎なのに、そんなしきたり守る必要あるのかな?
私が普段着ているのは、デイドレスというと大袈裟な響きだけど、要はくるぶしが見えるくらいの長さのワンピースだ。
これでも一応、既婚女性に相応しい装いということを考慮してスカート丈を長くしたんだけど……。
「誰も気にしないと思いますし……」
「普段からマナーが身についてないと、何かの時に恥をかくのは自分なんだぞ? 臣籍降下したからといって、父上や母上と縁が切れたわけじゃないんだからな」
そうでした……。
国王陛下や王妃様はもちろんのこと、クリス様の兄妹とだって今後も付き合っていかないといけないもんね。
「わかりました……」
機会があったらそのうち作りたいと思います……。
今まではまだ学生だからといって夜のパーティは逃げてきたけど、今後はどうしても断れないパーティもあるかもしれない。
やっぱり、いざという時のために何着かは持っておくべきみたいだ。
その後もしばらくおしゃべりをしていた私たちは、ラヴィエータが食事の支度が出来たと知らせに来たことで外の薄暗さに気が付いた。
慌てて帰って来たものの、すっかり日が落ちてしまっている。
遅くなるって言ってこなかったのにうっかりしてたな……。
「すっかり遅くなっちゃいましたね」
「そうだな。チェレスたちはもう夕食は済ませたかな」
いろいろ話したいこともあるし、どうせなら一緒に食べたかったけど。
「おかえり。遅かったね」
「お兄様! ただいま戻りました」
私たちのコテージの玄関に立ったところで、中から扉を開けてくれたのはお兄様だった。
なんでこっちにいるのかな?
「ああ、今日はあちこち飛び回ってたからな。エスタンゴロ砦にも行ったし」
「エスタンゴロ砦に?」
まさか私たちがプリマヴェーラ辺境伯領に行っていたとは思わなかったらしく、お兄様は驚いた顔をした。
「ついでにちょっと魔の森を見て回るだけのつもりだったのに、魔獣がいて驚いたよ。冒険者が戦っていて危ないところだったんだ」
「でもお父様とクリス様が助けたんですよ」
最初に攻撃したのはクリス様だったしね、ちゃんとアピールしておきますよ!
「クリス様が!?」
「……まあ。殺せなかったけど」
そうそう最初から上手くは行かないと思うよ。
なにしろ、魔獣を見るのも戦うのも今日が初めてだったんだから。
「へえー! なんだか意外だなあ。クリス様が魔獣と戦ってるところなんて想像つかないな」
エスタンゴロ砦の騎士たちや冒険者たちとは全然タイプが違うもんねぇ。
「ちゃんと水の槍が魔獣のお腹に命中しましたよ」
「お腹? 戦うなら心臓を狙わないと。それはそうと、以前に比べて、実力のない冒険者が魔の森の奥まで行ってしまうケースが増えてるって聞いたよ。チェリーナの治癒薬を当てにしてるんじゃないかな」
「えっ? そうなんですか?」
エスタンゴロ砦に治癒薬があったとしても、その前に殺される危険性は考えないの?
今日みたいに、劣勢になった時にたまたまお父様が現れる確率なんてそう高くないよ?
「若い冒険者には、あまり無茶なことをしてほしくないと思ってるんだけどね……。対策がないんだよ」
うっ、なんだかちょっと製造責任を感じます……。
「じゃあ治療費を取るとか?」
「うーん、本当に取るかどうかはともかく、脅し文句くらいにはーー」
「クリス様、チェリーナ、お帰りなさい。こっちへ来ないの? 食事の用意が出来ているわよ」
私たちが長いこと廊下で話し込んだままだったので、カレンデュラまで迎えに出てきてくれた。
「ただいま、カレン! 今日の夕食は何かしら? おなかがペコペコよ。カレンたちは食事は済んだの?」
「いいえ。二人が帰ってくるのを待っていたのよ。カーラとサーラ、それに他の使用人たちも暗くなる前に帰ったわ」
そうだよね……、カーラたちはこの小島に住んでいないから、暗くなる前に帰らないと危ないしね。
この島に住み込みの使用人も、何人かは必要かもしれないな。
「そうだったの。待たせてごめんなさいね」
「いいのよ。さあ、夕食をいただきましょう」
私たちがテーブルへ着くと、カレンデュラはアイテム袋にしまっておいてくれた夕食を並べてくれた。
今日は牛肉の煮込みに、付け合わせのマッシュポテトと色とりどりの茹で野菜、野菜スープ、ナッツ入りのパンと白パンというメニューだ。
この煮込みはデミグラスソースのような味で、口に入れるとお肉がほろりと柔らかく崩れて美味しいんだよね。
「美味しそう! 飲み物は何にしましょうか?」
空のワイングラスが並んでいるということはワインかな?
「僕たちは赤ワインでいいよね、カレン?」
「はい」
「じゃあ俺も赤ワインで」
「みんなは赤ワインね。私はぶどうジュースにするわ」
せめて色だけでもみんなに合わせよう。
アイテム袋から取り出してと。
「よし、揃ったな。じゃあ食事を始めよう」
クリス様の合図で食事が始まった。
「うーん、美味しい!」
「お肉が柔らかいわね」
「ここの料理人は腕がいいなあ」
お兄様の言う通り、もともとは代官の屋敷で働いていたこの料理人はとても腕がいい。
この国の料理は、ステーキのようにただ焼いただけみたいなシンプルなものが多いにもかかわらず、毎回様々な工夫を凝らした料理を出してくれる。
だから食事の時間がとっても楽しみなんだよね!
「そうだ、お兄様。アルフォンソのいとこが今日移住してくれたんですよ」
「アルフォンソにいとこがいたの?」
「私も知らなかったんですけど、エスタの街にいとこがいたんです。キキエーラっていうんですけど、すごく面白い子なんですよ。ちょっとおしゃべりですけど物知りで、その子、お父様の物語を書いたんですって! 絶対読ませてもらわないと」
忘れないうちに早速明日借りに行こうかな!
「ええー、父上の物語!? 僕も読みたいよ」
「私も読みたいわ」
「……俺も読む」
そうでしょう?
みんな読みたいよね!
内容は読んでみないと分からないけど、この題材なら出版したら売れるんじゃないの?
「そうだ! 録画機で撮影して、プリンターを使って印刷したらどうかしら? そうしたら一度にたくさん作れるし、みんなが読めるわ」
全部のページを撮影するのは少し手間がかかるかもしれないけど、手書きで写すよりは断然早いよね。
見開きごとに撮影して真ん中で折って、端をホチキス止めして製本テープを張れば、本っぽくなる気がする。
表紙に厚紙を使えばもっとそれっぽくなりそう!
「ふーん、そんな使い方もできるのか。録画機は何かと便利だな」
「チェリーナ、じゃあさ、僕たちが帰るまでにその本を作ってよ。そうだ、父上と母上へのお土産にしよう」
は?
なにそれ?
「お兄様、私のアイデアなのにずるい! お父様とお母様には私が贈ります!」
いいとこ取りしようったってそうは行かないんだからね!
まったくお兄様は油断も隙も無い!