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第26話 夢見るシンデレラ


「ははは、ワインで元気になるとは現金なやつだな」


そういうお父様だってワインは大好きだって分かってますよ?

お父様にも今日案内してくれたお礼をしないとね!


「ーーポチッとな! はい、これはお父様の分です。お父様の分は全種類用意しました」


「おお、ありがとう。ボトルのワインも美味いが、紙パックのほうが手軽でちょっと一口飲みたい時に重宝するんだよな」


ちょっと一口……?

紙パックのワインも、500mlはあるんだけど……。


まあ、紙パックの方はワインオープナーもグラスもいらないから、いつでもどこでもすぐ飲めるもんね。

気に入ってくれてるようでよかったです。


「チェリーナ、そろそろ帰ろうか。明るいうちの方が、キキエーラがアメティースタ公爵領までの景色を楽しめるし」


おおっ、クリス様がキキエーラに気を使ってる!?

結構気に入ってるのかもね?


「そうですね、じゃあそろそろ……。あっ、お父様! 求人広告ですけど、エスタンゴロ砦の跳ね橋付近にも何枚か張っていいですか? あそこなら冒険者が必ず通りますよね」


現役の冒険者はあんまり興味ないかもしれないけど、知り合いに宣伝してくれるかもしれないし。


「ああ、好きなだけ張っていいぞ。後で誰かに張らせよう」


「ありがとうございます! じゃあ、これ、よろしくお願いします」


ここだけで10枚は張りすぎかもしれないけど、ちょっと多めに置いて行こう。


「どれどれ。……"あなたもアメティースタ公爵領で僕と握手!" ……クリスと握手するのか?」


お父様が書いてある内容を見て怪訝そうな顔をする。


改めて指摘されて気づいたけど、この場合、”僕”はクリス様を指してることになっちゃうのか。

私でよければいくらでも握手するけど、クリス様はしないだろうな。


「いえ、なんとなく思いついただけで。大歓迎しますということを伝えたかったんです」


「そうか。早く移住者が見つかるといいな」


「はい! またすぐ遊びに……、じゃない。面接をしに来ますね! お父様からもいつでも訪ねてきてください」


「そうだな。チェレスが戻ってきたら今度は俺達が訪ねることにするよ。気をつけて帰るんだぞ」


うう、お父様……。

お父様と過ごす時間は、いつもあっという間に終わってしまう。

もうお別れしないといけないなんて悲しくなっちゃうよ。


「さあもう行くぞ。このままじゃ日が暮れる」


私とお父様が別れを惜しんでいる最中だというのに、クリス様はさっさと椅子から立ち上がって外へ行ってしまった。

もうー、そんなに急いで帰らなくてもいいと思います!





そして私たちは、バルーンをゆっくりと飛ばし小1時間程かけてアメティースタ公爵領へと戻って来た。

魔の森の上空にいた時とは打って変わって、今度はキキエーラもリラックスして景色とおしゃべりを楽しんでいる。


中でも美しい湖が特に気に入ったようで、勝手に大仰な名前をあれこれ考えていたほどだ。

プリマヴェーラ辺境伯領にも小さな湖はあるけど、ここまで大きな湖はないもんね。


「さあ、着いたわ! あのコテージがアルフォンソの事務所よ」


「わあー、可愛いおうちがたくさん並んでますね。なぜどれも同じなんですか?」


確かに初めて見たら、なんで同じ家ばっかりと思うかもしれない。


「これは私が魔法で出したコテージだからよ。いまは新しい街を作っているところだから、大勢いる職人さんや騎士たちの住む家が必要なの」


「まっ、魔法でこんなにたくさんの家をっ!? マルチェリーナ様、すごいです! お父上は王国の英雄で、その愛娘は稀代の魔法使いだなんて……! 空を飛ぶ乗り物も、なんでも入る袋も、手紙を運んでくれる魔法具も、どれも本当に素晴らしいものばかりです! マルチェリーナ様の魔法は、なんという魔法なのですか?」


私の魔法は、ペンタブ魔法というんですよ!

……と言っても通じないでしょうから、対外的には創造魔法で通してるけどね。


「これは創造魔法と言うのよ」


「創造魔法……! ああ、なんだか名前からして素敵です! もし私が創造魔法を使えたらと想像するだけで1日中楽しめそう……!」


……ダジャレかな?


キキエーラの方ではダジャレを言ったつもりはないようで、うっとりと目を閉じているけど。


「騒々しいと思ったらやっぱり着いてたんだ? どうして中に入ってこないのさ?」


こっちもダジャレ?

アルフォンソ、結構前から話を聞いてましたね?


「アルフォンソ! 久しぶりね!」


「キキ。相変わらず元気そうだね。クリス様、チェリーナ、キキを連れてきてくださって、どうもありがとうございました」


アルフォンソは改めて私たちにお礼を言った。


「いや、大したことじゃない」


「いいえ、本当に助かりました! 自分1人で来ようと思ったら、大荷物を背負って乗合馬車を乗り継がなければならないところだったんです。どうもありがとうございました!」


エスタの街とアメティースタ公爵領は、直線距離では結構近いんだけど直接繋がる道がない。

だから、馬車で来るとすればかなり遠回りになってしまうのだ。


「いいのよ。ところで、キキエーラはどこに住むつもりなの?」


アルフォンソのところは新婚だからねえ。

新婚家庭にキキエーラ……、うん、止めた方が無難だ。


「ああ、僕の事務所で寝泊りしてもらうつもりなんだ。寝室が2部屋もあるのに誰も使ってないからね」


「そうなの。じゃあ荷物は寝室で渡すわね」


「はいっ、ありがとうございます!」


私たちはコテージの中に入りパチンと明かりをつけながら、キキエーラに2つの寝室を案内した。


「キキエーラはどっちの部屋がいいかしら?」


私がキキエーラに尋ねると、アルフォンソが横から返事をする。


「キキには奥の部屋がいいんじゃない? 手前の部屋は居間を通らないと浴室やトイレに行けないけど、奥の部屋なら廊下からそのまま行けるよ。このコテージは来客が多いから、奥の方が使い勝手がいいと思う」


そうか、そういうことも考えないといけないんだな。

さすがアルフォンソ、いろいろ気が回るなあ。


「それじゃあアルフォンソの言うとおり、奥の部屋にします」


うん、私もそれがいいと思うよ!

寝室の広さはどっちも同じだしね!


「僕はこの事務所の右隣のコテージに住んでるから、何かあったら訪ねて来て。今日は僕のコテージで一緒に夕食を食べよう」


「ありがとう、アルフォンソ!」


ラヴィエータは料理が上手だから楽しみにしててね!


「ラヴィエータの手料理は久しぶりだわ! 今夜は何を作ってくれるのかしら?」


「お前は自分のコテージに帰るんだぞ? チェレスたちが来てることを忘れてないよな?」


はっ、てっきり自分もお呼ばれしたつもりになっていたけど、私たちにもお客様がいるんだった……!


「そうでした。じゃあ、歓迎会はまた今度ね」


「私のために歓迎会を開いてくださるんですか!? わあっ、私、とっても楽しみです! 公爵様の晩餐会に招かれるなんて、一生に一度あるかないかのことですもの! 孫の代まで自慢できます!」


ば、晩餐会!?

話が大きくなってまいりましたよ……。


「そ、それはしばらくは無理だな。俺達の屋敷もまだ出来上がっていないから、晩餐会を開くのは難しいんだ。晩餐会というほど大げさなものじゃなく、少人数の食事会になるだろうな」


「キキ、そんなずうずうしいことを言うものじゃないよ。だいたい貴族様の晩餐会にいける様なドレス、キキは持ってないだろう?」


アルフォンソがたしなめると、キキエーラはハッとした表情になり、次にしょんぼりと肩を落とした。


「ドレス……。そうよね、公爵様の晩餐会に着ていけるようなドレスなんて、私が持っているはずがなかったわ……」


晩餐会に着ていくドレスがないとか、まるでシンデレラのようなセリフじゃないですか……。

アルフォンソがいじわるな継母に見えて来るから不思議だ。





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