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第24話 魔獣との闘い


私はお父様からリモコンを受け取ると、代わりに双眼鏡を手渡した。

両方持ってると操縦できないからね!


さあ、行くよー!


「なんだこれは? ここから覗くのか? チェリーナ、この赤いピカピカしてるのは何なんだ?」


双眼鏡を覗き込んだお父様は点滅が気になったらしいけど、拡大して見えることは気にならないのかな?


「その点滅は生命体感知センサーです。簡単に言うと、生き物に反応します」


「生き物。人間も魔物も?」


「そうです」


「へえー、これはすご……、あっ! いたぞ! やはり戦闘中だったな」


私が見た時は木の影に隠れて人の姿は見えなかったけど、近づいたことで見えるようになったらしい。


「義父上、俺にもちょっと貸してください」


「ああ。あの辺りに大猿の魔獣と、冒険者が2、3人いるようだ。……あれっ? どこにいった?」


お父様は双眼鏡をクリス様に渡し、肉眼で戦闘地点を確かめようとして、今まで見えていたものが急に見えなくなったことに困惑していた。


「お父様、その双眼鏡は、遠くのものが近くにいるように見えるのです。今の倍率は10倍ですから、100メートル程先にいるように見えたとしたら、実際には1000メートル先にいることになります」


「そうなのか。1000メートル先というと、あの辺りか? うーん、まったく見えんな」


いや、1000メートルっていうのはたとえ話ですよ?


「あ、見えた。手を伸ばせば掴めそうだということは、5、6メートル程先か? そうすると、実際には5、60メートル離れている?」


「5、60メートル……。あっ、見えました!」


目を凝らして50メートル先の辺りを見てみると、木々の間からチラチラと動くものが見えた。


あれが大猿の魔獣……。


両方のこぶしを地面について四足になっているにもかかわらず、人間の冒険者と比較すると何倍も大きい。


遠目でも満身創痍の冒険者たちとは対照的に、硬そうな濃いグレーの毛皮に守られた大猿は切り傷一つ負っていないようだった。


「怪我人がいるようだぞ。倒れ込んでいる者が1人と、戦闘中の者が2人いる。あッ、もう1人もやられて倒れ込んだ! チェリーナ、急げ!」


「は、はいっ!」


「危ないッ! ーーウォータースピア!」


黙って見ていられなくなったらしいクリス様は、双眼鏡から目を離し、狙いを定めてから水魔法を放った。



ヒュンッ…………、ズドン!


ギャオオオオオオオオオオオォォォォォーーーーー!



さっきよりもかなり近くで、怒り狂う魔獣の咆哮が聞こえる。

もう私の目にもはっきりと魔獣の全貌を捕らえることができた。


「命中したのに……、まだ生きている……」


クリス様は魔獣が倒れないことに狼狽して呟いた。


攻撃されたことで私たちの存在に気が付いた魔獣は、こちらを真っ赤な目で睨み付け、鋭い牙を剥き出しにして威嚇している。


お腹に水の槍が突き刺さっているにもかかわらず、魔獣はまるで痛みを感じていないかのように後ろ足で立ち上がり、恐ろしい形相で手を振り上げて怒り狂っているのだ。


「クリス、ウォータースピア1本で魔獣を倒すのは無理だ。こうやって、心臓か頭を狙って立て続けに攻撃するんだよ。見てろ」


お父様はそう言うと、立て続けに呪文を唱えた。


「ファイアジャベリン、ファイアジャベリン、ファイアジャベリン」


ヒュッ……、ドスドスドスッ…………!

……ドサッ。


呪文と共に現れた炎の槍は、ごうごうと燃え盛りながら次々と魔獣の心臓に突き刺さっていった。

魔獣はお父様の攻撃に、声をあげる間もなくその場に倒れ込んだ。


ピクリとも動かないところを見ると、さすがにもう絶命したよね……。

火が一向に消える気配がないんだけど……、火消し君スーパーを出動させるべきかな……?


「ウォーターボール」


バチャン!

ジュウウウウーーー……。


あまりの火の勢いの強さに延焼が心配になったところへ、クリス様がすかさず大きな水の玉を出して消火してくれた。


呆然としていた冒険者たちは水しぶきを浴びて我に返り、上を見上げてお父様の姿を見つけると、一様にホッとした顔になった。


「チェーザレ様ー!」


冒険者の1人が、すがるようにお父様の名前を呼んだ。


「怪我は大丈夫かー?」


「私はなんとか歩けますがー、2人は大怪我ですー!」


大怪我か……。

助けに行こうにも、バルーンが降り立てるほど広いスペースなんてどこにも見当たらない。


「困ったな……、どうやって助けるか」


「飴タイプのゲンキーナと、ラップをここから投げ落としますか?」


「うーん……、そうだな。それくらいしか出来ることはなさそうだ。チェリーナ、頼むよ」


「はい。アイテム袋にたくさん入ってますので大丈夫ですよ。どうぞ」


私はラップの箱と飴をザラッとお父様の手に載せた。

飴は個包装にはなってるけど、大袋入りじゃないから、さすがにこのまま落としたら拾う方が見つけられなくなりそうだ。

えっと、ハンカチハンカチ。


私がポケットを探っていると、キキエーラが自分のハンカチを広げて差し出してくれた。


「これを使ってください」


「ありがとう。助かるわ」


お父様の手からキキエーラのハンカチにせっせと飴を移し、きつく結んだあと、再度お父様に手渡す。


「よし、これがあればすぐに小康状態になる。しばらく休めば、自分たちで砦へ戻ってこれるだろう」


「そうですね。使い方は分かるかしら?」


「ああ、それは大丈夫だ。うちの騎士だけでなく、冒険者たちも結構ラップの世話になってるからな。飴は、見れば舐めるものだとわかるだろう」


そうだったんだ。

治癒薬はエスタンゴロ砦にも常備してあるもんね。

お父様の性格上、大怪我をした人を見捨てるなんて出来ないから、みんなで使うことにしているんだろうな。


お父様は用意した回復薬と治癒薬を抱えると、籠から顔を出して下にいる冒険者に声をかけた。


「おーい! 回復薬と治癒薬を落とすから受け取れー」


「わかりましたー! ありがとうございますー!」


そしてお父様は、冒険者たちにぶつからないよう慎重に薬を落とした。

会話をしていた冒険者が、近くに落ちた薬を拾い上げるのが見える。

よかった、ちゃんと下に届いた。


「治療したらしばらく休めよー」


「そうしますー! チェーザレ様ー、本当にありがとうございましたー!」


お父様は感謝する冒険者に手を振ると、こちらに顔を向けた。


「さ、戻るか」


「はい! お父様、かっこよかったです!」


やっぱり私のお父様は世界一のお父様だ!

私は上機嫌でリモコンを操縦し、エスタンゴロ砦へ向かって飛行を再開した。


「……実戦とは、こうも違うものなんだな……」


心なしか、クリス様は消沈した様子だった。

もしかして、一撃で魔獣を倒せなかったことを気にしてるのかな。


「授業と実戦が大違いなのは当たり前だ。授業ではとどめを刺す気でやらないからな」


お父様、サラッと恐ろしいことを言わないでください!

授業中に殺す気でやりあってたら大問題です!


「それはまあ……」


「場数をこなせば、どこをどう攻撃すれば敵にダメージを与えられるか分かるようになるぞ。なんなら、うちで修行ーー」


「お父様! クリス様はそういうのは間に合ってます! ねっ、クリス様?」


クリス様は温室育ちの深窓の令息なんだから、そういう血なまぐさいことはやらなくていいんですよ!


「俺も強くなりたい」


「毎日毎日仕事が山のようにあるんですからね! 修行なんてしてる場合じゃありません!」


「それはそうだけど……」


そんな不満そうな顔してもダメです!

どうしてもというなら、まずは領地経営を軌道に乗せてから趣味に走ってくださいね!





「ふうー、やれやれ。大変な目に遭ったわねえ」


やっとのことでエスタンゴロ砦へ戻ることが出来た私たちは、砦の中で一休みすることにした。


「お前は別に大変じゃなかっただろ。生きるか死ぬかの大変な目に遭ってたのは冒険者たちだ」


それはそうですけど!

あんな間近で戦闘シーンを見るだけでも気疲れするんですよ!



「おー、そこにいるのはお嬢じゃねえか! こんなところで会うとは偶然だなあ!」


私たちが食堂でホッと一息ついているところへ、わざとらしい声が聞こえてきた。

この声は……、もしかして……。






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