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第20話 いざ、エスタの街へ


昼食を食べ終え、いよいよ私たちはエスタの街へ向かうことになった。

私とクリス様は一緒に、先導するお父様は1人でトブーンに乗っている。


「……確実に何かを誤魔化してたよな?」


「えっ、何の話ですか?」


「さっきのプリマヴェーラ辺境伯の様子。あきらかに挙動不審だっただろ」


ええー?

お父様の話を大人しく聞いていたと思ったら……、そんな風に考えてたの!?


「挙動不審って、お父様が回りくどい話し方をしてたからですか? 確かにそれは珍しかったですけど」


いつもはズバッと単刀直入だもんね。


「あれは絶対何か隠してるぞ」


「そうですか?」


気のせいじゃないの?

私のお父様が隠し事なんて。


「裏通りに行ってみれば何を隠しているのか分かる」


「ええッ! ダメですよ、お父様が危険だからダメって言ってるんですから!」


私は行きませんからね?


「お前は気にならないのか?」


「口では言い尽くせないほど危険なところなんて行きたくないですよ」


「だから、それは絶対嘘だって」


そんなことないもん、私はお父様を信じてるし!


もう無視だ、無視。

ツーン!


「あっ、下りるみたいです。クリス様、勝手な行動はしないでくださいね? 危険ですから!」


「ハイハイ、わかったわかった」


ハイは1回で結構!


ほんとに分かったのかな?

お父様より、クリス様の言葉のほうが疑わしいよ!





「わあー、ここがエスタの街!」


「チェリーナ、迷子にならないようにしっかり付いて来るんだぞ?」


私が物珍しさにキョロキョロと左右を見回していると、横に並んだお父様が念を押してきた。


「わかりました! それにしても、武器屋さんがいっぱいありますねえ」


「ここは冒険者の街だからな。それにこっち側はエスタンゴロ砦が近いから、このあたりは特に武器屋が並んでいるんだよ。もう少し街の中心に進むと、普通の料理屋や商店もあるぞ」


へえー、こうもたくさん武器屋さんがあると、ちょっと怖いくらい迫力があるな。

マヴェーラの街とは全然違う街並みだ。


「とりあえずアルベルティーニ商会エスタの街店に行ってみますか。そこに求人募集の張り紙を張ってもらえるかもしれませんし」


「ああ、張り紙ならどこでも好きなところに張っていいぞ」


店主の許可はいらないの?

まあ、お父様に文句をいえる度胸のある人はいないと思うけど。


「おや、チェーザレ様ではございませんか。お隣のお美しい女性は、お嬢様ですね? よく似ていらっしゃいます」


お父様は声を掛けてきた人のほうに視線を向けると、見る見るうちに苦虫を噛み潰したような顔になった。


「…………ディレット」


ディレットと呼ばれた口ひげを生やした50代くらいの男の人は、中肉中背で冒険者の街にはそぐわないような洒落た服を着ている。

お金持ちそうだし、怪しい感じはしないけど……?


「はい、ディレットですが、どうかされましたか?」


「……」


お父様!?

返事もしないでどうしたんですか?

相手の人も怪訝そうに見てますよ?


仕方がないから、ここは自分で挨拶するか。


「こんにちは! ディレットさんと言ったかしら? 私はマルチェ」


「俺が紹介するッ! チェリーナ、お前はしゃべるんじゃない、しゃべるんじゃないぞ!?」


「ええっ?」


なんでですか?


「ディレット、俺の愛する娘のマルチェリーナと、娘婿のクリスティアーノ殿下……、いや、クリスティアーノ様……、いや、アメティースタ公爵……」


お父様、ここでクリス様の呼び方を悩み始めないでください!


「義父上、義理とはいえ親子なのですから、俺のことはクリスとお呼びください。俺はマルチェリーナの夫のクリスティアーノ・アメティースタだ」


クリス様はお父様に助け舟を出す形で、ディレットに自分の名前を名乗った。

すると、その名を聞いたディレットはパアッと明るく顔を輝かせた。


「おお、これはこれはアメティースタ公爵様ご夫妻に直接お目にかかれるとは! チェーザレ様、この前お願いしていた件ですが、私からご説明させていただいても?」


「……」


「チェーザレ様?」


お父様、ほんとどうしちゃったの!?


「もちろん話してちょうだい。お願いって何かしら?」


「わあーーーッ! チェリーナ、あれを見ろ。アルベルティーニ商会だ、アルベルティーニ商会エスタの街店があるぞ!」


私は突然ぐいっと背中を押されて、強制的にその場から連れ出された。


「ちょっ、お父様!」


「なるほど。チェリーナに聞かれたくない話があるんだな……」


後ろを振り向くと、クリス様がこちらを見て合点がいったように頷いている。


「あの、チェーザレ様! お嬢様の前だということは心得ておりますので! チェーザレ様っ!」


必死に呼び止めるディレットの声を無視して、お父様は歩くスピードを緩めない。


「クリス! 俺達は先にアルベルティーニ商会に行っているぞ! 後でディレットに送ってもらえ! いつかクリスにも俺の気持ちが分かるときが来る。さらばだッ!」


え……、クリス様を置いてっちゃうの?

そんな!


「クリス様ー!」


「大丈夫だ、後から行く」


クリス様は気にする様子もなく、ひらひらと手を振っている。


もう、こんなことするなんて、本当にお父様らしくない!

いったい何なのよー!





「はあはあはあっ、おとうさま、どう、したん、ですかっ!」


うう、走り出しそうな勢いで歩かされたから息が切れる……っ!


「別に……。ディレットがクリスと2人で話をしたいと言っていたのを思い出したんだ」


お父様は私と目を合わせようとはせず、ぼそぼそと小声で返事をした。


本当ですか!?

あの人、必死に呼び止めてましたよね?


「危険な街にクリス様を1人で置いてくるなんて」


「大丈夫、いまは安全だ。夕方を過ぎてからが最も危険な時間帯なんだよ。そんなことより、さあ着いたぞ。早速娘を呼ぼう。その子の名前は?」


ここがアルベルティーニ商会エスタの街店?

駆け込むような勢いで突然領主が現れたから、お店の人がびっくりして見てるじゃないですか!


「はあっ……、キキエーラです」


「よし。おーい、キキエーラはいるかー? 迎えに来たぞ!」


店に入ってお父様が声をかけると、奥から慌てて店主と思われる人物がやってきた。


「これはこれはチェーザレ様。ようこそいらっしゃいませ」


「ああ、アルマンゾか。キキエーラはいるかな? 俺の娘がキキエーラを迎えに来たんだよ。アメティースタ公爵領へ行くんだってな?」


どうやらこの人がキキエーラの父親のようだ。


「おお、アルフォンソ……! まさか公爵夫人に迎えを頼むなんて!」


アルマンゾが気の毒なくらい真っ青になってしまった。

あのー、そんなに青ざめないでください。


「あら、気にしないで! ついでですもの。ちょうど移民を募集するために来るところだったのよ」


「そうだぞ。幼馴染なんだから、ちょっとした頼みごとくらいお互いにしあうのは普通のことだ」


私とお父様が慰めると、アルマンゾは少し平静を取り戻したようだった。


「そう言っていただけると……、ご足労いただきまして誠に恐縮です。私の娘は少しーー」


「お待たせいたしましたっ! ああ、私のためにチェーザレ様やマルチェリーナ様が迎えに来てくださるなんて夢みたい! チェーザレ様とマルチェリーナ様は本当にそっくりなんですね? みんなが言っていた通りです。私、小さい頃からずっとマルチェリーナ様やチェレスティーノ様にお会いできたらと願っていたんです。アルフォンソやアルベルトのことが本当に羨ましくて! ところで、アメティースタ公爵様はどちらですか? 大変お美しい方だと伺っております!」


く、口を挟む隙が……微塵もないッ!





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