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第1話 甘い生活


半醒半睡の心地よいまどろみの中、私はどこからか良い匂いが漂ってくるのを感じていた。

食欲を刺激されながら、ごろんと寝返りを打つ。


たぶんまだ外は暗いだろうし、もう少し寝てても大丈夫な筈……。


ーーシャッ。


「チェリーナ。朝だぞ」


無情にも、カーテンを開ける音と共に私を呼ぶ声が聞こえてくる。


「んん……、もう朝……?」


横になってから、まだほんの1時間くらいしか経ってない気がするのに……。

ここのところあちこちで立て続けに結婚式があったせいで、十分な睡眠時間が取れていないのだ。


「起きろよ」


「もう……、おきて……ま……すん……、ぐう……」


「あっ、こらっ。寝るな! お前の好きなチーズオムレツを持ってきてやったぞ」


ん……?

チーズオムレツですと……?


好物の名前を聞いた私はパッチリと目が覚めた。


「あ、クリス様。おはようございます」


「おはよう。しかしお前は寝起きが悪いな」


えー、そう?

普通だと思いますけど。


それより、クリス様が寝起きがいい方がびっくりだよ。

いかにも低血圧そうな見た目なのに。


「えへへ。あっ、チーズオムレツだ!」


とりあえず、へらりと笑って誤魔化して、クリス様が持っているトレイへ視線を移した。

トレイの上には、楕円形に美しく成形されたチーズオムレツ、カットフルーツ、ロールパン、紅茶が所狭しと載せられている。


「この前料理人が作っているのを見てたら簡単そうだったから作ってみた。それにしてもあの厨房はいろいろ便利だなあ」


「えっ、クリス様が作ったんですか?」


嘘でしょ?

クリス様ってそんな器用だったの!?


「ああ。今日は使用人たちが休みなんだ。早いところもっと使用人を増やさないとなあ。やることが山積みだよ。そのまま食べるか?」


「あ、もう起きますから、そこのテーブルでいただきましょう」


クリス様がベッドにトレイを置こうとするのを制止して、私はテーブルを指さした。


「わかった」


万が一ベッドで紅茶をひっくり返したら大惨事だからね!

後始末してくれる人がいないのに、そんな時に限ってやらかしてしまうのが私だから用心するに越したことはない。


「わあー、おいしそう! クリス様にこんな才能があったなんて驚きました」


「まだ美味いかどうかわからないだろ」


クリス様は照れながらもちょっと嬉しそうだ。


私は早速フォークを手に取り、一口大にチーズオムレツを切り分けた。

フォークで割った断面からとろりと流れ出たチーズが食欲をそそる。


「いただきまーす! ーーうーん、おいしい!」


私が感想を言うと、クリス様もホッとしたように食べ始めた。


「ーーうん、初めてにしては上出来かな」


「今までに食べたチーズオムレツの中でも最高においしいです! 焼き加減もちょうど私の好みです」


クリス様が作ってくれたという付加価値があるせいか、本当にとってもおいしい!


「お前は柔らかめが好きだからな。成功したのは、たぶんあの調理器具のおかげじゃないかな? 火加減の調節が簡単だから、薪ストーブで作るよりコツがいらないんだと思う」


「へえー」


薪ストーブで作るのって大変なんだー。

今まで思いつかなかったけど、プリマヴェーラ家のキッチンも最新式の設備にしてあげればよかったな。


トイレや浴室は変えてあるけど、キッチンは盲点だった。

今度帰ったら忘れずに改装してあげようっと。


「チェリーナが魔法で出したコテージだけど、せっかくあの厨房が付いているんだから料理屋の店舗として貸し出したらどうかな?」


「はい、いいんじゃないでしょうか」


需要があるのかわからないけど、クリス様がそうしたいなら別に止めません。


私的にはホテルとしての利用を考えていたんだけど、言われてみればお客さんはわざわざホテルで料理を作ったりしないかもしれない。

その土地の料理を食べるのも旅の楽しみだしね。


そうすると、誰にも使われずにもったいないことになる。


「安く商売を始めたい人のために、コテージの中と、外側のテラスで別々に営業できるようにしたらどうだろう」


「あっ、いいですね! 安く始められるのはいいことだと思います」


うんうん、テラスで営業するとなると屋台形式になるけど、椅子とテーブルを設置すればお客さんもゆったりくつろげるし、トイレに行きたくなったらコテージの中のトイレを借りられる。

これはなかなかいいアイデアだと思うな!


「劇場ももうすぐ完成するしーー」


近頃私たちは、街づくりについてこうしてよく話し合うようになった。


少し前までは、怒涛の結婚ラッシュで多忙を極めていたので、時間に余裕がなかったのだ。

お兄様とカレンデュラ、ルイーザとジュリオ、アルフォンソとラヴィエータ、パヴァロ君とマリア、そしてマルティーナとダニエル……。


いやあ、本当に大変だったよ……。

私たちの結婚もラッシュに一役買っているわけだけど……。


結婚式は男性側ゆかりの土地で行うのが慣わしだから、ほとんどはプリマヴェーラ辺境伯領で行われたんだけど、婿入りする場合は女性側ゆかりの土地で結婚式をするので、ルイーザたちはアゴスト伯爵領で結婚式を挙げた。


それは行くだけでよかったから、私たちは楽だったんだけどね。

地味に一番大変だったのは、その後のマルティーナとダニエルの結婚式だ。


ダニエルの家族が結婚式に参加できるように、アゴスト伯爵領からプリマヴェーラ辺境伯領への移動のお手伝いをしたかと思うと、次はジョアン侯爵領へ行ってジョアン侯爵家の人々を連れてくる。

馬車では移動に何日もかかるから仕方なかったんだけど……、本当に疲れました。


「ーーだから次はいよいよ公爵邸の建設だな」


「えっ、はい……。もう公爵邸の建設が始まるんですね……」


嬉しいニュースの筈なのに、私はなんとなくしょんぼりしてしまった。


「どうしたんだよ?」


「いえ……、このコテージでの新婚生活ももう終わりかと思うと、少し寂しくて」


私たちは今、ラーゴ湖の中にある小島に魔法でコテージを出して、そこに2人だけで暮らしている。

日中来る通いの使用人が何人かいるだけなので、こうして2人きりで過ごす時間が長く、私はそれに居心地の良さを感じていたのだ。


「そうだな……。俺も寂しい」


やっぱり、なんだかんだ言って私たちも新婚なので、お互いに2人きりでいたいのが本音のようだ。


「もう少しだけ延ばしても」


「いや……、アンドレオがうるさくて敵わないんだよ。俺の顔を見るたびに公爵邸の設計の話をしてくるんだ」


例のじいちゃんかい……。

今の王宮を設計した、稀代の天才建築士と謳われるアンドレオ・パッラーディ。


王宮を設計したのはかれこれ40年位前の話だそうで、年齢を理由にそろそろ引退をしようと考えていたそうだ。

ところが、国王陛下のたっての願いで、アメティースタ公爵領でその腕を振るってくれることになったんだけど……。


真っ白な長い髪と長い髭、鋭い目つき、そして真一文字に引き結んだ口元。

一見して分かる通り、超絶頑固だともっぱらの評判です……。



ドンドンドンドンドンッ!


突然、玄関扉を激しく叩く音が鳴り響き、静かな朝のひと時を打ち破った。



「たのもーーーーッ!」


え……、道場破り……?





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