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第16話 うってつけの物件


そしてやって来ました、代官おすすめの宿……。


「こ、ここかしら……?」


「たぶんな……」


大通り沿いにある筈の宿は鬱蒼とした木々に隠され、うっかり素通りしてしまいそうな場所にあった。

ラヴィエータが気付かなければ、本当に素通りしていたと思うよ……。


「何年も人が住んでなければ仕方がありませんよ。少し手入れをすれば、きっと綺麗になります」


えぇ……、心からそう思ってる……?

私には幽霊屋敷にしか見えないんだけど……。


生い茂った木の向こうに少しだけ見える家が、不気味な雰囲気を醸し出しているんだよね。

この手前の木さえなければもう少し明るくなるのに。


ーーよし、切るか!


「クリス様、ラヴィエータ。この木はない方がいいわよね? 切り倒しましょう!」


「えっ!?」


私はアイテム袋から斧の魔法具を取り出すと、大きく振りかぶった。


「危ないわよー! どいたどいたー!」


ガツン!


ラヴィエータ、念のためにもうちょっと離れた方がいいんじゃないかな?

私がそう思っていると、棒立ちになっているラヴィエータの腕をクリス様が引っ張って後ろに下がらせた。


メリメリメリッ……ドッシーン……!


うんうん、相変わらずよく切れるな!

1本切っただけでも、だいぶ見晴らしがよくなって明るい雰囲気になった。


「ええっ……! たったの一撃で!?」


あれ、ラヴィエータは斧の魔法具を見たことがないのか。


「これは力がない人でも一撃で木を切り倒せる魔法具なの」


「す、すごいです……! これがあれば、薪割りもずいぶん楽になりますね」


薪割り?

その発想はなかったけど、まあ楽になるんじゃないかな!


「なななな、何事ですかっ!?」


あれっ、宿から人が出てきた?

あーっ、もしかして代官が寄越してくれた使用人たち!?


「ごめんなさい! 人がいるとは思わなくて、木を切ってしまったわ。大きな音がして驚いたでしょう?」


「えっ、ここにあった木を!?」


3人の女性たちが、切り倒された木と私が手にしている斧を交互に見て唖然としている。


これ、魔法具だから!

私が怪力なんじゃないからね?


「このままここにあっても邪魔だな。もう少し小さく切ってくれ。後で誰かが薪として使うだろう」


「そうですね」


クリス様の言うように、ここにあったら宿に入るのに邪魔になる。

とりあえず枝を落としてと。


「あ、あの!」


私がサクサクと枝を落としていると、使用人の1人から声がかかった。


「えっ? なにかしら?」


「せっかくですから、幹の部分は板にした方が……。宿の修繕で使うかもしれませんし」


「あら、そうね! じゃあそうするわ」


私が向きを変えて縦に木を切ろうとすると、またしても制止の声がかかる。


「ああっ! 先に乾かしませんと!」


「乾かす?」


「生木は水分が多いので、乾かさなければ加工できません。反りやひび割れが出来てしまいます」


ええー、そうなの?

ここにあったら邪魔だけど、そういうことなら仕方がない。


「あら……、じゃあしばらくはこのままにするしかないわね」


「後で誰かに手伝ってもらって移動させますので、どうぞそのままになさってください」


さすがに乾くまで待ってるわけにはいかなし、ここはお言葉に甘えさせてもらおう。


「そう? 悪いわね。よかったらこの斧を使ってちょうだい。力がなくても木を切り倒せる魔法具なの」


「ままま、魔法具……!」


斧を受け取った使用人は、魔法具と聞いて緊張してしまったのか、恭しく両手に捧げ持ったままカチンと固まってしまった。


もしもし?

そんなに緊張しなくても、ただのよく切れる斧と思えばいいからね?


「ところで、中の様子はどうだったかしら?」


「は、はいっ。まだ1階部分を見ただけですが、掃除をすれば使えそうでした」


おおー、第一印象は幽霊屋敷だったけど、中は意外と綺麗なんだな。


「よかったわ! 厨房と浴室に魔法具を置いて行きたいの。先にそこを掃除してもらえるかしら?」


「かしこまりました」


「あっ、私もお手伝いいたします」


ラヴィエータ……、よく働くいい子だ……!

料理も得意だし、アルフォンソはいい奥さんをもらったよね。


「じゃあ私もーー」


「お前は掃除の手伝いよりも、魔法具を設置する場所を見て、そこに合うものを出しておいた方が効率がいいんじゃないか? …………掃除は無理だろ」


そっか、効率よく作業しないといけないもんね!


「わかりました! さあっ、みなさん中へ入りましょう!」





厨房と浴室用のお役立ち魔法具各種を用意した後、他のみんなが手分けして掃除をしてくれている間に、私とクリス様は上の階を見て回ることにした。


「ふーん。多少埃っぽいが、ベッドはそのまま使えそうだな」


枕や布団は干さないとダメだろうけど、干す作業は子ども達にも手伝ってもらえるだろう。


「ちょうどいいところがあってよかったですね。これでノーラにも働いてもらえます」


「そうだな」


ーーギシッ……。


あれ……?

気のせいかな、私たちは動いてないのに床が鳴ったような?


まままま、まさか……ッ!

非業の死を遂げた、元経営者一家の霊が出るんじゃッ!


ーーギシッ……、ギシッ……。


ひいー!

空耳じゃないよ、確実に上から聞こえた!

3階の床を誰かが歩いてる!


「くくくく、クリス様ッ! ゆ、ゆうれい……!」


私は恐ろしさのあまり、クリス様にガバッと抱き着いた。


「うわっ、急に飛びかかるなよ。転ばせる気か」


のんきですね!?


「そんなこと言ってる場合じゃありません! ゆうれいが、ゆうれいが……!」


「幽霊なんている訳ないだろ。俺たちの他に何人もこの宿にいることを忘れたのかよ?」


そ、そういえばそうか。

ラヴィエータと代官のところの使用人が3人来てるもんね。


いま全員1階で掃除してる筈だけど、3階の床が鳴っても別におかしくないよね。

……って、おかしいわ!


「みんなで厨房と浴室を掃除してくれてる筈ですッ! 上から音が聞こえるなんて、ぜったいおかしいっ!」


「……そう言われればおかしいな。よし、見に行ってみるか」


クリス様!?

幽霊がいるかもしれないんですよ?

どんな度胸?


「そそそそ、そんな! 取り殺されてしまうかも……ッ!」


「そんな筈ないだろ。怖いならここにいろよ」


やだッ!

1人で待ってるほうが怖いもん!


私はクリス様に抱き着いた腕にぎゅーっと力を込めた。


「クリス様! 置いて行かないでください!」


「痛い痛い痛い。お前、意外と力あるよな……」


何かおふだとか、聖水とか、幽霊に効きそうなものは……?


「そうだっ! ラヴィエータは光魔法が使えます!」


「だからなんなんだ? 光魔法は幽霊退治ができるのか?」


知らないけど!

なんかそんな感じかなって!


「わからないー!」


「だからお前はここにいろって」


「いやですー!」


ううう、怖すぎて涙が出てきた。


「はあ……、仕方がないな。じゃあ目をつむって俺の後ろにくっついてろ」


見えないと余計怖いよ!

でも、クリス様の意思は固そうだ。

ここで1人になるのが嫌なら、付いて行くしかない……。


私はクリス様の背後にピトッとくっついた。


「よし、行くぞ。……しかし歩きにくいな」


文句言わないでください!

うお、階段を踏み外しそう!


私はクリス様の背中にしがみつきながら苦労して階段を上った。


「この部屋かな? 開けるぞ」


クリス様は2階に着くなり、さっきいた部屋の真上と思われる部屋のドアを開け放った。


あっ、そんな!

まだ心の準備がッ!



ギギギギギィーーーー……。



「キャーーーーッ!」





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