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第13話 深刻な人手不足


ハーフサイズのバニラアイスをみんなに配り終え、ひとくち口に入れてみると、食べなれたいつも通りのおいしさが口の中に広がる。


そうだ!

ゴリゴリ君と一緒に食べたら、クリームソーダ味になるんじゃない?


私はそう思い立ち、スプーンでバニラアイスをすくってゴリゴリ君の上に乗せてみた。

……うん、やっぱりおいしい!


「一緒に食べても美味いのか?」


「美味しいですよ。試してみてください」


クリス様もゴリゴリ君の端の方にバニラアイスを乗せてひとくち頬張る。


「……ふーん、まあ悪くはないな」


そうでしょう?

でも、ソーダ部分を魔法を使わずに再現できるかが課題に残るな。


「奥様ッ!」


「ひえっ!」


びっくりしたっ!

カルローク、君は淡々とした理性的なキャラじゃなかったのかい!?


「こちらの"あいすくりーむ"、ぜひとも私の店で扱わせていただけないでしょうか!」


「気に入ってくれた? 美味しいわよね。もちろんあなたのお店で提供してくれて構わないわ」


やっぱり材料費を考えると、高級店での取り扱いになるのはしょうがないもんね。

私に異存はありません。


「ありがとうございます! それで、こちらはどのように作るのでしょうか?」


ほーら、やっぱり聞かれた!

思ったとおりだ!


今度は質問を予想してたから答えもバッチリだよ。


「作り方はとても簡単よ。牛乳と卵とお砂糖とバニラビーンズをよく混ぜて、冷凍庫で凍らせるの。凍らせる途中で何度かかき混ぜると、より滑らかに仕上がるのよ」


うん、100点満点の答え!

完璧だ!


「ばにらびーんず、とは何でしょうか?」


「えっ?」


そこ気になっちゃう感じですか!?

えーっ、何って聞かれても……、ビーンズってくらいだから豆なんじゃない?


「香りのいい……、豆、なのかしら……。なければないでいいのよ、香り付けだから!」


「はあ、さようで……。それから、各材料の分量はどれくらいでしょうか?」


カルローク!

何から何まで教えてもらおうなんて甘いと思うな!

プロの料理人なら、自分で試行錯誤してものにしていかないと。


「それは自分でいろいろ試してみてちょうだい。これも修行の一環よ」


「誤魔化した」

「わからないんだな……」


アルフォンソ、クリス様、小声でバラすのは止めてください!


しかし、カルロークはハッとした表情で私を真っ直ぐに見つめ、決意を込めた様子でこぶしをぎゅっと握り締めた。


「確かに、何の努力もせずに教えていただくばかりでは、料理人の名折れ。見ていてください、奥様。かならずやこの"あいすくりーむ"を超える味を作り出して見せます!」


あ、そう。

それはよかった、がんばってください。


「期待しているわ!」





その後、賃貸についての細々とした話を詰めて、私たちはアルフォンソの事務所を後にした。

次の目的地へと歩きながらクリス様が腕組みをしてうーんと唸る。


「アルフォンソの事務所も早く人を増やさないと。今日は朝から新規の入居希望者が2組も来てくれたし、アルフォンソは接客ばかりしているわけにはいかないからな。どこも人手不足だ……。なんとかしたいが、この町はそもそも男手が足りてないんだよな……」


クリス様の言う通り、ラルゴの町は働ける年齢の男性の数が少ない。

盗賊に占領されていた間、反抗して殺されてしまったり、飢えで亡くなったりして、相当な被害者が出てしまったせいなんだけど……。


アメティースタ公爵領になってからチラホラと転入してくる人が増えてきたものの、劇場を建てるにあたっては、領内で人手を集めることが出来ずに、プリマヴェーラ辺境伯領や王都から人を集めてもらわなくてはならないほどだったのだ。


「女性を雇ってはどうでしょう? 事務や接客のような仕事は、男性よりも女性のほうが向いているくらいですし」


「女性を? まあ、事務や接客なら力仕事じゃないし、女性でも問題はなさそうだが」


「早速募集をかけてみましょう!」


アルフォンソの事務所や、ラルゴの町のお店なんかに張り紙でも貼ろう。


”急募! 初心者歓迎。営業事務。女性が活躍している職場です! 時給、勤務時間応相談”でいいかな?

お給料の相場ってどれくらいなんだろうか。


「おや、マルチェリーナお嬢様。お久しぶりでございます」


「えっ?」


どこからか私の名前を呼ぶ声が聞こえる。

どこだろ?


私はぐるりと辺りを見回した。


「後ろです、ノーラですよ」


「ノーラ!」


後ろを振り向くと、両手に子どもを引き連れたノーラが満面の笑みで立っている。


ノーラはカーラの母親で、カーラたちと一緒にアメティースタ公爵領へ来てくれた。

カーラが仕事をしている間、子どもたちの面倒を見るためだ。


「まあまあ、すっかり大人になって」


元々はノーラもプリマヴェーラ辺境伯家の侍女だったのだが、大工だった旦那さんが大怪我をして、介護が必要な体になったため退職せざるを得なくなった。


怪我が元で歩けなくなった旦那さんはずいぶん気落ちして、ほとんど寝たきりのようになってしまったそうだ。

その後、カーラの子ども達を見ることなく亡くなられたと聞いている。


「その子たちは、カーラとミケーレの子ども達ね?」


子どもがてんこ盛りだ。

ノーラの両脇にいる女の子は双子で、さらに背中にも男の子をおんぶしている。


「はい。もうー、ヤンチャでちっともじっとしていないんですよ」


出来ることならノーラに侍女の仕事に復帰してもらいたいのは山々だけど、こんなに子どもがいてはどうにもならない。


「大変そうねえ」


「子どもの面倒を見るのは本当に大変ですよ。お嬢様もそのうち……、あらっ、失礼いたしました。もう奥様になられたのでしたね」


遅ればせながら私の隣にいるクリス様の存在に気が付いたノーラは、クリス様に向き直り膝を折って挨拶をした。

周りのみんなも呼びなれないでしょうけど、私もまだまだ「奥様」と言われてもピンとこないんだよねぇ。


「確か、カーラの母親だったな」


クリス様がプリマヴェーラ辺境伯家に来た時には、ノーラはもう退職した後だったので、2人はほとんど顔を合わせたことがない。


「はい。カーラの母のノーラと申します。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」


「いや、構わない。もうこちらの生活には慣れたか?」


「お蔭様でだんだん慣れてまいりました。子ども達も大きな湖が気に入ったようでーー」


ノーラが言った湖という言葉に反応した双子が、ノーラの腕を引っ張って騒ぎ始める。


「みじゅうみー!」

「ねえー、まだあー? ちゅまんないー」


「あら、湖に行くところだったの?」


どうやらノーラたちは湖に遊びに行くところだったようだ。

私たちのおしゃべりが長くて、子ども達がしびれを切らせてしまったらしい。


「はい。ここから少し歩いたところに砂浜があるのですが、そこで砂遊びをするのが日課になっていまして」


おお!

そこはまさしく、海水浴場として目を付けていた場所ですね!





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