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第12話 夏の庶民のおやつ代表


「おい……」


クリス様も心配しないでください!


「どうぞどうぞ!」


「はあ……、では失礼いたします」


テーブルは使用中だから……、ソファの方でいっか。


「そこのソファに座ってね。じゃあ早速始めましょう。あなたのお名前は? 商売の経験はあるのかしら?」


私が向かいに座りながら席を勧めると、クリス様も私の隣に腰を下ろした。


「は、はい。私はラートと申します。自分で商売を起こした経験はありませんが、現在小さな商会で働いておりまして、できれば独立したいと考えているところで……」


ラートと名乗った青年は、直立不動で私たちに事情を説明している。

あの、座ってもいいからね?


「座って話しましょう? 希望は屋台の方でよかったかしら?」


「は、はい。では失礼して……。手持ちの資金があまりないものですから、出来るだけ安く始めたいと思っております」


「わかるわ。私たちも、なるべく安く商売を始められるようにと思って、屋台スペースを別で貸し出すことを考えたのよ。出来る限りの協力はするから安心して相談してちょうだい」


なんなら売り物を何にするかの相談にも乗れるし!


「ありがとうございます、お嬢様!」


いやあ、そんなに感謝されると照れるな!


「奥様」


今まで黙っていたクリス様がやっと口を開いたと思ったら……、そこですか?


「えっ……?」


「お嬢様ではなく、奥様だ。チェリーナは俺の妻だからな」


「チェリーナ……? もしや、マルチェリーナ・アメティースタ公爵夫人……? すると、あなた様は……」


クリス様の正体を察したラートは、青ざめた顔で私たちを交互に見ている。


「アメティースタ公爵だな」


「ももも、申し訳ございません。とんだ失礼をッ!」


ラートはガバリとひれ伏すような勢いで頭を下げた。


え、とんだ失礼?

何したの?


「頭をあげろ。普通に話してくれ。俺達は気にしない」


「とんでもございません! 私のようなものの商売の話などでっ、公爵様の大切なお時間を割いていただくわけには……!」


まあ、私たちは確かに忙しいけど、これも仕事の一環なんだから必要以上に遠慮しないでほしいな。


「いいのよ、あなたの商売の成功は、回りまわって私たちのためにもなるんですもの。みんなで一丸となってこの領を盛り立てていきましょう!」


「お、奥様……! 私のためにそこまで……! はいっ、私も死ぬ気でがんばります!」


いや、死ななくていいから。

適度にがんばってください。


「それで、何を売るつもりなの?」


「ええ、この辺りで働く職人さん向けに、飲み物を売れないかと思っております」


飲み物か……。

うーん、どうかな。


温かいお茶を売るとすれば、お湯を沸かす必要があるよね。

炭を使って火を起こすなら、お湯を沸かすより肉でも焼いた方が売れる気がする。

かといってジューススタンドだと、冷蔵庫なしじゃぬるくなるし……。


そうだ、冷蔵庫もレンタル出来るようにしてみたらどうだろう?


「クリス様、いいことを思いつきました! 屋台を契約した人のために、冷蔵庫やホットプレートの貸し出しを始めたらどうでしょう?」


「ああ、商売の幅が広がるかもしれないな。飲み物を売るにしても、つめたく冷えていた方が売れるだろう」


いや、待てよ?

せっかく冷蔵庫を貸し出すなら、ただ飲み物を冷やすだけじゃ捻りがないな。


「そうだわ、アイスキャンディを売ればいいのよ!」


そうだ、そうだ。

我ながらグッドアイデアだ。


アイスクリームは材料を揃えるのにどうしてもある程度の費用がかかるけど、果汁を凍らせるだけなら安く作ることができる。

きっと職人さん達に売れると思うな!


「アイスキャンディとは?」


「アイスクリームよりも安く作れてさっぱりした冷たいおやつ、ですかね?」


実際食べてもらうのが早いか。

私たちの分だけ出すわけにいかないから、王都のお客さん達にも味見してもらおう。


うーん、どんなのがいいかな?

やっぱりここは定番の!


「ーーポチッとな! はいどうぞ、食べてみてください」


私は早速箱のふたを開けて、中の一つをクリス様に手渡し、次にラートに手渡した。


「アルフォンソ! よかったら、そちらの皆さんもいかがかしら?」


「ああ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」


アルフォンソはそういってアイスキャンディを取りに来てくれた。


「これはとっても人気のある定番のアイスキャンディなんですよ。中にはカキ氷が入っていて、その周りを食感の違うアイスキャンディが覆っているんです。その名も!」


「その名も?」


ふふふ、とくと聞いてください!



「ゴリゴリ君です!」



どうですか、インパクトのあるこの名前!


「ゴリゴリ君……」

「ゴリゴリ君……」

「ゴリゴリ君……」


ほーら、つぶやきたくなっちゃうでしょ?


「その名前じゃないとダメなのか……?」


「クリス様、ひとくち食べてみれば名前の意味がわかります!」


私はそういって袋をあけ、ゴリゴリ君にかじりついて見せた。

うーん、久しぶりに食べるとおいしーい!


「……確かにゴリゴリするかも。うん、なかなかいいんじゃないかな? 一回聞いたら忘れたくても忘れられない名前だし」


アルフォンソは分かってくれたのね!

さすが変な先入観に囚われず、売れそうな商品を見抜く目は確かだ。


「おいしいです。確かにこれは売れると思いますが、簡単に作れるのでしょうか?」


ラートも味は気に入ってくれたようだけど、簡単かどうかは……。


「さあ? そこは自分でがんばってみてちょうだい」


作り方なんて私に聞かれても分からないしねえ。


「チェリーナ……。自分でがんばれって、それはあんまりだぞ」


「そうだよ。ここまで面倒見て、最後の最後に突き放すなんて」


うう……、クリス様とアルフォンソに責められてしまった。

でも、出し惜しみしてるわけじゃなくて、本当に作り方がわからない。


「あのー、この水色がなんなのか分かりませんが、仮にオレンジなどの果汁で作るとしたら……。まずは単純に果汁を凍らせて、その後削りますよね。そして、予め型に薄く果汁を張って凍らせておいたものに削った果汁を詰めて、再度凍らせれば出来そうな気がします」


えええええ!?

すごい、この人何者!?


え、この人誰だったっけ?

さっきはジャンニとカルロークって名乗ってたよね。


しゃべってた方がジャンニって言ってたと思うから、この人はカルローク?


「カルロークは支店が出来たら、その店の料理長になる予定なのです。店を決める前に、実際に自分の目で見てみたいとの要望があったので、私と一緒に訪ねて参りました」


やっぱりカルロークであってた。

この人が料理長になるのかあ。


ちょうど詳しい人がいて助かっちゃったな!


「そうなの。ありがとう、助かったわ」


「いいえ、こちらこそ、面白いものをごちそうになり大変良い経験になりました。あの、つかぬことをお伺いいたしますがーー」


つかぬこと?


「何かしら?」


「先ほどお話の中にあった、"あいすくりーむ"というのは、どのようなものでしょうか?」


「とてもおいしいわよ。よかったら食べてみる?」


ゴリゴリ君の後じゃお腹を壊すかな……?


「ぜひともお願いいたします!」


「わかったわ。冷たいものをあまり食べ過ぎるとお腹を壊してしまうから、小さめのサイズにするわね。ーーポチッとな!」


後で材料は何かと聞かれそうな気がするから、一番シンプルなバニラアイスにしてみました!

バニラなら私でも説明できるからね!





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