巨乳派
「火の精霊よ。我にその体を分け与えたまえ。『灯』」
アーリンさんの指先に小さな火の玉が浮かぶ。
「ひ、火の精霊よ。我に体を分け与えたまえ。『灯』」
僕の指先からは何か煙のようなものがポスッと出ただけで終わってしまった。
「どうしてなのかしら」
「才能ないんですかね……」
馬車の広い荷台に座りながら道中、魔術の手ほどきを受けている。荷台はかなり広く、幌も高くてゆったりだ。どうみても外から見る広さとは違う。
コレット大森林へは、草原を馬車で歩いて2日ほどかかるため、快適なようにアーリンさんが空間魔術で中を拡張してくれた。布団を三つ敷いても余裕なくらい広い。便利な魔術だ。屋敷とハーティさんの大剣を魔石に収納したのも原理が同じ魔術らしい。大剣が入った魔石はハーティさんの首にネックレスになってぶら下がっている。
二人の戦いで半壊したはずの屋敷は僕が気絶している間に直っていた。あれも魔術の力らしい。なんと便利なのか魔術。早く僕も使いたいのに……
「基本詠唱をすれば、言葉を覚えたての幼児でも簡単な魔術を使えるはずなのだけど」
「幼児以下ですか……」
とても落ち込む。
「魔術には向き不向きがあるわ。治癒魔術が得意なもの、土木魔術が得意なもの、様々なの。けど『灯』みたいな基本魔術は誰でも使えるものなのよ」
「じゃあ相当ダメじゃないですか僕……」
「カッコいいからいいんじゃないかしら?」
「やっぱりジンノは武術を覚える方が向いてるんだろうな!!!私が教えてやるぞ!!!手取り足取り!!!」
そういってハーティさんは薄い胸を張った。その声はアーリンさんが用意した腕輪の魔石の効果で抑えられている。こうして普通の音量できくと、とても澄んでいて可愛い声だ。
「発情してるわね旦那様」
「だからいちいち指摘しないでください……。武術ですか……僕、久しくまともな運動をしてないので不安なんですが……」
「大丈夫だ!!!基本の身体強化ぐらいなら、すぐできるようになるさ!!!魔術なんて退屈なものと違って、武術は楽しいぞ!!!」
「じゃあお願いします」
「よし!!!まずはヘソの下に意識を集中するようにしてだな!!!」
こうして今度は身体強化の魔力操作を習ってみた。
そして1時間ほど試したあとハーティさんは笑顔で言った。
「才能がないな!!!」
「そんなハッキリと……」
うんともすんともだった。まず体内に流れる魔力を認識することから始めたのだが、全く要領がつかめず終わった。
「えっと、僕って一応、魔力は持ってるんですよね?」
「ええ。目覚めた時は体から漏れ出して光るほどだったし、魔力量的にはなかなかのものだと思うわ」
「じゃあ何がいけないんでしょう……」
「まぁ本来魔術にしろ武術にしろ、生まれて五年以内に訓練を始めるものだから。もうコツを掴むには遅いんのかもしれないわね」
「手遅れだな!」
「もうちょっとオブラートに包んでくれてもいいのに……」
―――その時、外でユニコーンが大きく嘶いた。
そして遅れて聞こえてきたのは、いくつかの大型犬のような吠え声。それが瞬く間に近づいてきて、どうやらユニコーン達に襲いかかったらしい。争っている声がする!
「え!?これ何かに襲われてますよね?」
「ああそうね。」
「そんな悠長な!」
慌てて荷台から乗り出すと、そこには大きな犬みたいな魔物が二頭、すでに撃退されてひっくり返っていた。それを見下ろした二頭のユニコーンはどこか満足気だ。
「え?瞬殺?」
「ここらでAランクのユニコーンを倒せる魔物なんていないわよ。」
すごいなユニコーン。えっと、確かこの世界の魔物は強さによってランク分けされてるんだったな。ランクはSから始まってA、B、C、D、E、Fまであったはずだから……上から二番目に強いのか。御者もなしに歩くし大人しいしすごい。役立たずは僕だけだ。
「あら?これウルファウスじゃない」
僕の頭の上から外を覗いたアーリンさんが言った。おっぱいが僕の背中にむぎゅっと当たってる。何カップだろうか。
「Iカップよ」
「心を読まないでください。ウルファウス?」
「100cmよ」
「自己申告もいりません。ウルファウスって?」
「通じるってことはあなたの世界とこっちの世界の単位は揃ってるのね。あなたの翻訳機能のせいで発音や綴りの違いはわからないけれど。ちょっと違いを知りたいから揉んでみてくれない?」
「何の違いを調べるんですか。ウルファウスってなんですか?」
「ジンノは巨乳派なのかしら?」
「ウルファウスって何ですか?」
「Bランクの魔物よ。ここらじゃ見ない強い魔物だけど、コレット大森林から流れてきたのかもしれないわね」
「より強い魔物の気性が荒くなったから逃げてきたんだろうな!」
「異常事態というのは本当のようね。ねぇジンノは巨乳派なの?」
「巨乳派だと私は困るぞジンノ!!!」
ウルファウスは気絶しているようだ。もふもふしてて触りがいがありそう。気になったので荷台から降りて、おそるおそる触ってみた。
「やわらかい……きもちいい」
毛並みがなんとも言えない。ウルファウスという名前はウルフと響きが似ているが、狼よりは断然犬の方が近い。ゴールデンレトリバーをそのまま二倍くらいの大きさにしたような姿をしていた。
「ゴールデンレトリバー好きなんだよな……あぁ、飼えないかなぁ……」
撫でながらそう呟くと―――うっすらと僕の手が光り始めた。
「え?え?え?」
「あれ?ジンノ、何の魔術を使っているのかしら?」
「いや何も使ってませんよ!?うわっ!」
光はカッと一気に大きくなり、視界が一瞬真っ白になった。僕は思わず目を瞑って飛びのき尻餅をついてしまった。
「いって……なんだ……?一体何が……」
おそるおそる目を開くと、光は消えていたがチカチカとしてよく見えなかった。それでも目を凝らすようにしていると段々慣れてきて、そこには―――
ウルファウスの顔が至近距離にあった。
「ぎゃあ!!!起きてる!!!」
殺される!!!!!そうおもった瞬間ウルファウスの口が大きく開き僕の顔をベロベロと舐めた。
『わふっわふっ』
嬉しそうに尻尾をブンブン振りながら顔を舐め回してくる。
「わ!ちょ!え!?か、か、かか、かかかかかか可愛いいいい!」
思わずもふっと抱きつくと、ウルファウスは一層喜んで舐め回してきた。
「ずるいぞジンノ!私にも舐めさせろ!」
「だめです!え、アーリンさん、僕何の魔術を使ったんですか!?」
「ジンノは巨乳派なの?」
「いつまで言ってるんですか!」
◆
僕はどうやら、使役魔術という、魔物を飼いならす魔術は使うことができるようだった。
理由は不明だ。
ウルファウスは索敵能力が高く頭がいいので、飼いならすと役にたつだろうとのこと。なので他の一頭も同様に使役した。
詠唱もいらず、撫でて「飼いたい……」と心の声を漏らすだけで使役魔術は使うことができた。
しかも―――
『ごしゅじんさまー!!!!!
たのむ!!!
俺を!!!
撫でてくれー!!!!
好きだー!!!』
『おれも!おれも!おれも!おれも!おれも!』
ウルファウスの言葉を理解することができた。
「ジンノが魔物の言葉を理解できるんじゃないかっていう仮説、やっぱり当たってたのね」
今まで大人しすぎて声を聞いたことがなかったのでわからなかったが、僕はユニコーン達とも会話することできた。
◆
こうして僕の意外な能力が判明し、ものすごく可愛いペットが二頭増えたことで、コレット大森林への道中はより楽しいものになった。
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犬可愛い……。僕はペット禁止のアパート暮らしなので、その欲望を書いてしまいました。
執筆活動を始めたばかりなので、ご感想ご指摘くだされば嬉しいです。どんなものでも嬉しいです。
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あと↓も連載開始しました
「時間よ止まれ!〜性なるオスの欲望のままに〜」
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こちらには作者の欲望をそのままぶつけていきます