寝ているうちにお楽しみ
目覚めると目の前には昨夜アーリンさんが寝ていた寝室の天井があった。
ぼんやりと覚醒していき、状況を把握して行く。
死んだかと思った。
◆
爆炎、黒雷、それらが嵐のように舞い、そのことごとくをハーティさんの大剣が斬り伏せていく。
拮抗しているようだったが、確実に2人を疲弊させていたようで、しびれを切らしたアーリンさんが先に仕掛けた。
「無詠唱じゃきりがないわね。」
ハーティさんの空中からの振り下ろしを紙一重で避けた後、アーリンさんは漆黒のドレスの胸元から、薄紫に怪しく光る小さな石を取り出し、それを砕いて投げつけた。
「『獄鎖』」
その破片は瞬く間に太い鎖に変化して、ハーティさんに躍り掛かる――――
「事前詠唱か!」
空中で絡め取られたハーティさんは、身動きが取れない。
その間、アーリンさんは何か唱え始めた。
「私は炎。私は怒り。燃やして頂戴何もかも。腹が立って仕方がないの。だって皆ひどいんだもの。聞いてくれるわよね?『獄火』」
すると深紅の光が球体となって現れ、周りの空気を飲み込んでみるみるうちに大きくなっていった。
あれは隕石だ。いや、太陽だ。人知を超えた圧力が大地を震わせている。
あんなものぶつけたら―――
「本気じゃないかヴォルトレット!久々に聞いたぞその可愛い独自詠唱!だが私もその男を譲るつもりはない!後出しのようで申し訳ないが、倫理も良心も元から無かったかのようにこの胸で欲望が暴れてるんだ!ハァッ!」
気合一喝で鎖は吹き飛び、直後ハーティさんの体が真っ白な光を放った―――
「私は破壊!とにかく破壊!粉々にしてくれ全部全部全部全部全部全部全部全部全部!あああああああああ『超破壊斬り』!」
ハーティさんからも同等の破壊的な圧力が放たれる。
ちょっとちょっと2人とも熱くなりすぎだって!
「「死ね!」」
「待ってください!」
気づけば僕は飛び出していた――――
◆
そして今はベッドの上。
確実に死んだと思った。そしてコンビニに出勤して廃棄こっそり持ち帰って退勤して次の日また出勤して廃棄持ち帰ってという地味すぎる走馬灯も見た。
―――こんな美女ふたりが僕の取り合いになるなんて光景見れたしもういっか死んでもああでもこんなバトル漫画みたいな戦い男に生まれたからには僕も一回はして見たかったな―――
なんて思いながら意識を失ったはずだ。
何が起きたんだろうか。
とりあえず起きるか。
「「ジンノ!」」
体を起こした瞬間、椅子に座っていた2人が気づき飛びかかってきた。
「よかった!ほんとに申し訳ないことをしたジンノ!」
「死んではないのはわかったけど、丸一日目覚めないからもしかしてとか思っちゃったわ」
もう離すまいとものすごい力で両側から顔を擦り付けるように抱きしめてくる。
「く、くるしいです」
「ああすまん!」
「ごめんなさい」
そう言って2人は少しだけ力を緩める。だけど顔は至近距離のままだ。……離しはしないんですね。アーリンさんの爆乳とハーティさんの柔肌の感触が最高です。
「僕、死んだと思ったんですけど……」
「ジンノが間に飛び込んでくるのに気づいて、慌てて2人とも術を止めたんだ!」
「びっくりしたわ」
そうだったのか……。いやでも2人が無事でよかった
あれ?
「なんか、僕の体、時々、光ってません……?」
わずかだが、僕の光が呼吸に合わせて光を放っているように見えた。しかも、なんとなく力が溢れてくるような全能感。
「ああ、私たちが術を無理やり止めたせいで、行き場を失った魔力が空っぽの器であったジンノに流れ込んでしまったみたい。それのせいか、ジンノに魔力が宿ったのよ」
「こんなことあるんだな!」
え、魔力が宿った?ゼロだった僕に?てことはもしかして!
「僕にも魔術が使えますか!?」
「ああ、その状態なら使えるだろうな。武術でも魔術でも選んだ方を」
「お、おおう…!」
ものすごくテンションがあがる。昨日の2人の争いを見て、年甲斐もなく心躍っていたのだ。これこれ!これこそ異世界!
「最高です!」
「可愛いわね。濡れるわ」
「ああ!わかるぞヴォルトレット!見てるだけで軽く果てた!」
美女二人が共感し合う。ぎ、逆セクハラが二倍になってしまった……。……あれ?そういえば。
「仲直りしたんですか?」
そういうと、2人は少し落ち込んだ様子を見せる。
「ああ。喧嘩なんてしてる場合じゃないわ。ジンノにとんでもない迷惑をかけてしまったもの。生きていてくれたからいいけど」
「申し訳ない!」
「よかったです。喧嘩するところなんてみたくないですからね」
「反省する。これからは仲良くジンノを分け合うことにするわ」
「これからよろしくな!」
ん?なんだ?
「今音速で話が進んだように聞こえたんですが」
「ハーティも嫁にもらってくれないかしら?」
いつもの無表情でとんでもないことを言うアーリンさん。
「昨日は思わず嫉妬にくるってしまったけど、ジンノの寝顔を2人で見守っていたら濡れ…じゃなくて、こんな尊い存在を独り占めするなんてありえないと、再度同じ結論に至ったの」
「神を独り占めする信者なんていないだろう!」
胸を張って快活に言うハーティさん。
「まぁジンノの意思も尊重する。だからその気になったらで構わないわ。私はハーティがジンノに求婚するのを止めはしないってこと。あと、これは自惚なんだけど」
そう言ってアーリンさんは僕の顔を両手で挟んで自分の方に向けた。近いです!色っぽい唇が!
「私のこと、ジンノは、美しいと思ってくれてるのよね?」
「は、はい……」
「単にあなたの世界とこっちの世界の価値観が違っただけだとしても、こんなに素晴らしいことは無いと思うの。それで、ジンノは、ハーティのこと、可愛いと思うのかしら?」
今度はアーリンさんが僕の顔をハーティさんに向けた。
間近で見るハーティさんは本当にかわいい。ボブカットの銀髪は輝くようで、目が大きく透き通るようで、小さくて形のいい唇はわずかに赤みを指していてとても綺麗だ。
「か、かわいいです」
「最高だ!」
そう言ってハーティさんは抱きついてきた。
「この世界には私やハーティのような、強いばっかりで孤独な女がたくさんいるわ。ジンノの美しい顔に愛されたいと思うなら、私には止められない。もちろん、ジンノを死んでも幸せにするという覚悟のある女に限るけど」
「絶対に幸せにするぞ!」
「この子の根性は私も認めてるわ。だから、ちょっと真剣に考えてあげてちょうだい」
2人の本気に少したじろいでしまう。ハーティさんみたいな美少女を奥さんにできたらそれは幸せだけど―――
僕の心の奥には、何かつっかえるものがあった。
「ハーティさんをお嫁さんにすることは、できません」
できるだけハッキリと、僕は言った。
「そりゃ嬉しいんですけど、僕はアーリンさんと結婚するって決めた時に、この人以外はいらないって本気で思ったんです。そのつもりでアーリンさんに結婚しようって伝えました。会ってすぐですけど、本気でした。他の気持ちが入り込む隙間もないくらい」
この気持ちが嘘になってしまうかしれない、という恐怖もある。なんせ初めて人と恋をしてるのだから、自信もないし、色々な恐怖が拭えない。僕が2人を愛したら、それが罪になるんじゃないか、それが巡り巡って僕への罰となって、この幸せを失ってしまうんじゃないかという漠然とした恐怖。
「だから、ハーティさんも同じように大事にする自信がありません。僕の器の小ささがいけないんですが……本当にすみません」
ハーティさんを傷つけてしまうだろう。こんなブ男が一丁前に何を言ってるんだか。
怒るだろうなハーティさん―――
「何て!!!!!いい男なんだ!!!」
静音魔法が全く効いてないんじゃないかと思うほどバカでかい声が響き、寝室の窓が全部割れた。
「惚れ直した!!!!絶対に諦めないぞ!!!私はこの恋を!!!絶対に諦めない!!」
「え、いや諦めないっていわれましても……」
「諦めないさ!!!ハーティ・ヘッジホッグ、この処女膜に誓って!!!」
「何に誓ってるんですか!」
なんか知らないけど余計ボルテージをあげてしまった……!ベッドに立ち高らかに宣言するハーティさんに慌て、アーリンさんに助けを求める。
「ちょっとアーリンさん……あれ?」
いない。
「ヴォルトレットなら多分だけど下着を替えにいったぞ!ジンノが「この人以外はいらない」って言ったあたりで!」
またそれか!いつになったら慣れるんだ……
「しかし昨夜はあんなに大胆なことをしたのに全く慣れないんだから、ヴォルトレットのジンノへの愛は相当だな!」
ん?昨夜?
「大胆なことって……?」
「いや、あまりの寝顔の可愛さに我慢できなくなって「これを機に色々慣れておくわ」とか言いだして、それはもうヴォルトレットは乱れていたぞ!ジンノは全く起きなかったしな!」
ちょっと!何したんですか!?
「二人で何してるんですか!」
「安心してくれ!私はまだ妻になっていないということもあって、弁えたからな!」
あ、ハーティさんはマトモだったのか……
「ちゃんと見るだけにして一人で済ませたからな!」
「弁えてないじゃないですか!」
威力が倍になった逆セクハラに頭を抱えながらも―――これからの生活が楽しくなりそうな予感に少し僕はワクワクしていた。
◆
そのあと話し合い、コレット大森林への調査は3人で向かうことになった。
僕の魔術の鍛錬をしながらだ。
旅、ってほど気楽なものじゃないが(仕事だし)楽しみだな。
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自分的に可愛いキャラが思いついてしまうと、早くそのキャラと展開させたくてストーリーが急になってしまいますね……。可愛いハーティ……。
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あと↓も連載開始しました
「時間よ止まれ!〜性なるオスの欲望のままに〜」
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こちらには作者の欲望をそのままぶつけていきます