無理心中
「ま、待ってぐだざ……ぅごほっ……ゔぇ……!」
「ジ、ジンノ……ジンノ!」
ハーティの声が近づいてくるのだけが聞こえる。姿は見えない。
疲労と痛みで視界は霞み、涙でいっぱいだった。
「待ちなさいハーティ」
アーリンのいつもの温度が無い声がハーティを制した。
そして何かが詠唱され、僕の体が青く優しく光る。
治癒魔術ーーーではない。両手は後ろ手に強制的に組まされ動かなくなり、ギリギリと見えない縄に締め付けられ、傷に響く。
「いっ……いだだだだだっ……!」
「ヴォ、ヴォルトレット!傷を!」
「捕縛するのが先よ。意味なく暴れられても面倒だわ」
彼女が再び詠唱をすると、今度は強く体が光り、血流が早まっていくのを感じる。
怪我をしていた部分が熱くなって行き、痛みが心地よく引いていくのがわかる。
落ち着いてきたことで涙が止まり、視界が少しクリアになった。
うつ伏せのまま見上げると、ハッキリとしていく景色に、アーリンの姿が浮かび上がっていく。
「いくわよハーティ」
「……!……わかった!」
さして興味もなさそうなアーリンに、ハーティが反論もせずついていく。
その冷たさに心が折れそうになる。
しかしーーー
「待ってください!アーリン!」
「……」
僕の声を背中に、2人は遠のいていく。
「アーリン!ハーティ!話を……!」
僕の声は届いていない。
届いていないように見える。
だがーーー
「待てって言ってるだろ!」
「……!」
ーーー届いていないわけがない。
刹那の間だけ、歩みが止まった。
「僕も連れてってください」
「……無理よ。というか無駄だわ」
「無駄で、いいって言ってるんだ」
無駄でいいーーー理屈じゃない。
「アンナ教には、誰も勝てないんでしょう?こっちの常識がわからない僕にも、それはわかりました。でも」
それでも。
「一緒に死ぬことはできます」
「……!適当言わないで!」
ーーーそれは、彼女らしからぬ大きな声。
「死にたい人間が、どこにいるのよ。これは、別世界の人間とは無関係の、こっちの争いなのよ。こっちに来ることが無ければ、巻き込まれることのなかった、私の戦争なのよ。それでどうして死ねるってーーー」
「別世界じゃありません」
無関係じゃーーーない。
「あなたたちの戦争は、僕の戦争です」
「……!じゃあ聞くけどーーー」
2人は振り向かない。顔は見えない。
振り向けないんだ。わかってる。それだけ2人は誇り高く、それでいて、ずっと孤独だった。
「惚れた男を、死なせたいって思う女がどこにいると思うの?私たちはあなたに生きて欲しいのよ」
「嘘をつくな!」
そんな、軽い愛じゃないだろう。
生まれてずっと虐げられて、やっと掴んだ感情は、そんなしおらしいものじゃないだろう。
僕だってそうなんだ。
「死んでも独占したいって、2人とも思ってる。あなたが死んで、僕が他の女性と結ばれたらなんて思うと、いてもたってもいられないんだろう。それでも、僕のためにって、自分に言い聞かせてるんでしょう……?」
「自惚れないで」
「じゃあなぜーーー」
自惚れさせてもらう。
こんな不細工な僕だけど、
こっちの世界じゃ色男なんだろう?
「2人とも泣いてるんですか」
2人とも、ずっと泣いてる。
抱きしめてーーーあげなければ。
「うぁっ……うっ、ぐぅぅうう!」
自由の効かなくなった体に力を込め、立ち上がろうとすると激しく痛んだ。
関係ない、絶対に、抱きしめる。
「ほ、惚れた男に、一緒に死のうと言われて、嬉しいんでしょう……?それなら、一緒に死ねばいいじゃないか!僕は!」
かけられた魔術はビクともしない。痛い。関係ない。
やっとのことで膝立ちになる。
抗おうとすると、それだけギリギリと、体が痛む。
関係ない。
絶対に立ち上がり、今すぐ、彼女たちを抱きしめる。彼女たちをーーー
「あなたたちに救われーーー!?」
ーーービックリした。
唇を、奪われた。
強く、長く、唇を押し付けられた後、ゆっくりと、ゆっくりと離れたアーリンは、綺麗に泣いていた。
後ろで立ちすくむハーティも、同じくらい可愛く涙を流していた。
「ーーーありがとうジンノ」
ーーーこうして僕らは、世界を相手に、死ぬことを決めた。
別作品、連載始めました。
https://ncode.syosetu.com/n4917fg/1/
【時間よ止まれ!】
以前書か進めていたものの書き直しです。
こちらもぜひ!




