違和感の正体
久々の更新です。
僕たちが行く道の両脇に、猫人たちがずらりと並んでいた。老若男女問わず並んでいた。着ているは布切れと服の間の物。他の人族の国と比べ発達が遅れているらしい。
猫人は殺気、嫌悪、怒り、悲憤、激憤、敵意、拒絶、侮蔑、非難、拒絶、嘲弄、あらゆるドス黒いモノをその顔に浮かべ僕らを睨みつける。
そんな顔が、数百、数千。
そんな中を、アーリンとハーティは涼しい顔をして歩いていた。
「―――この先に行け」
彼らの急襲を蹴散らした後、1人の若い猫人の女性が奥から現れ言った。
そして僕らを先導するわけでもなく、案内するでもなく、僕らは彼らの殺意の道を行かされた。
―――意思疎通など必要ない。
そう言われているのだ。言葉もなく。
20分ほど歩くと、大樹が現れた。
直径何十メートルの巨木をくりぬかれた入り口から、彼らの文化レベルの割には上等だと思われる赤い絨毯が奥へと真っ直ぐに敷かれている。
壁の松明に薄暗く照らされた部屋の奥へと進むと、王座が現れ、そこに年老いた猫人が座っていた。
「我らに手を貸すというのか?」
老人の喉の奥で枯れ枝が揺れた。違う、これは声だ。かすれ切り、乾き切った声。
「随分と話が早いじゃない。」
「貴様らの容姿を見ればわかる。その美しい容姿を見ればな。奴らに虐げられたのだろう?強き人よ。」
美しい容姿―――という言葉にアーリンの声が不機嫌になる。見れば眉根が僅かにつり上がっていた。
「皮肉、というわけでもないようね」
猫人の容姿は僕が見るからには美しい。つまりは、こちらの世界全体の価値観ではひどく醜い、ということになる。
だから今この老人が言った、美しい、は猫人の誇りに由来する彼ら独自の価値観によるものだ。
「あなたが察する通りだわ。手を組みたいの」
「よかろう」
「助かるわ」
交渉も対立も何もなく話は決まった。すると老人は先ほどまでの古木のような表情を一変させ、口の右端を大きく歪ませて笑った。
「素晴らしい志だ。歓迎しよう」
「歓迎―――どうせするなら、あの襲撃は何だったのかしら?」
「小手調べ、いや戯れに等しい。弱きものとは話もない」
老人はゆっくりと腰を上げ、僕の脇を抜けて外へ出た。そして背をゆっくりと伸ばした後、若々しい大声を出した。
「皆よ!ご覧あれ!」
ビリビリと肌が震えるほどの声。あの老人と同一人物だとは思えない。
「ここにいるのは、同志である!人族ではあるが、あの愚かしきアンナの者共へ我らと共に矛を向けてくれるという!」
瞬間、僕らがいる巨木を叩き折るような声が上がった。大勢の猫人が、腕を振り上げ、叫ぶ。
前の世界の平和な現代日本では無縁だった、一族の誇りというものを肌で感じた。
これから戦争が起こるのだ。たくさんの血が流れ、それでもその矜持を守るため、彼らは向かっていくのだろう。
その戦いに、僕は参加することはできない。足手まといだと、言われてしまった。
他人に期待しないように生きてきたというのに、こちらの世界に来て、僕は随分期待してしまっていた。しかし、僕は荷物でしかない、枷でしかない。アーリンと肩を並べることが、僕にはできない。
そんな絶望に飲まれていた僕の耳には、彼らの怒号は響かなかった。どうでもいい。
きっと彼女は涼しい顔をして、敵を倒してしまうのだろう。いつものように。そして、帰ってくる。
僕はそれを、どんな顔で迎えるのだろうか。
彼らの盛り上がりとは無縁に、そんなことばかり考える僕の思考を、続く老人の言葉が遮った。
「彼女たちは、我らと共に死んでくれるというのだ!」
死んでくれる?敵を倒すとか、そういうことではなくて?
「さぁ戦いの始まりだ!アンナ共に我らの血を浴びせよう!我らの屍で奴らの都を埋め尽くしてやろう!我らの死で、奴らの歴史を汚してやるのだ!」
一際大きな歓声があがり、演説は終了した。
―――なんだこの気持ち悪さは。
死ぬ気で向かい勝利する、とかそういう意味で言っているのではない。死ぬことが決定事項であるかのような演説だった。
「盛り上がってるところ悪いけど、明日にでも戦い始めたいわ。いいかしら?」
帰ってきた老人にアーリンは言う。
「ああ、構わない。それでは先陣は任せよう。我らは後から征く」
「い、一緒に戦うんじゃないんですか……?」
感じる違和感に、思わず疑問を投げかけた。
そしてその瞬間、信じたいことに老人の顔は―――怯えた。
先ほどの勇猛な演説の影も形もなく、ハッキリと怯えた。
そして僕は気づいてしまった。
彼らが、アンナ教に勝つ気がないこと、それどころか、戦うつもりすらないということに。
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