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ブサイクはイケメンで美女はブス

始めました。


感想くださると励みになります。

 


 目がさめるとそこは檻の中だった。


 なんだここは?


 人の牢屋というよりは、動物用の、粗末な檻。


 それが、部屋中に所狭しと並べられていて、その中の1つに僕はいた。


 おかしい、僕はたしかに、さっきまで、いつものコンビニでバイトをしていた。


 ここはどこだ。


 遠くで歓声と怒号が飛び交っているのが聞こえる。






 とんでもなくブサイクに生まれ約30年、人の何倍も苦労してきた。


 あだ名は、小学生の時も中学生の時も高校生の時も、卒業して就職してもずっと


『かんのくん』


 このヤバさが伝わるだろうか。


 超絶ブサイクで、黙っていても悪目立ちするのにもかかわらず、誰もがそれに触れられない。

 だからあだ名は何のひねりもなく、かんのくん。


 そしてさらにヤバイのは、


 僕の苗字が『じんの』であること。


 神野翔平。じんの、だ。


 誰もが名前を間違えて読み、そのまま覚え、間違えに気づかないまま学生生活を終えたのだ。


 訂正すればよかった、だけの話かもしれない。でもそれは無理な話だ。


 目は常に腫れ上がったような一重、巨大な団子鼻。厚ぼったくてひび割れた唇。太っていて毛深い体。年中詰まり気味で荒い鼻息。誰もが僕のことを見るとき嫌悪感を隠せなかった。


 そんな視線に四六時中晒された結果、僕はいつしかまともに人の顔を見て話せなくなっていた。


 友達もできず、もちろん恋人もできず、経験もないまま、だからといって大人のお店に行く勇気もなく。


 それでいて人生をやめる勇気もなかった。





「かんのさん、今日早上がりさせてもらえませんか?」


 20時頃、バイトの崎山さんが言ってきた。


 崎山さんが抜けると朝の5時まで僕1人になるためだいぶきつい。このコンビニは納品などが多く、この時間からが忙しい。


「ママが風邪気味で……早く帰ってあげたいんです。」


 そう言って上目遣いをしてくる崎山さん。こういった頼み方を彼女がしてくるときは、だいたい事情が決まっている。ママが風邪気味で……なんてのは大嘘だ。


「い、いいよ……。し、仕方ないもんね。」


「ほんと!?ありがとう!」


 そう言うやいなや崎山さんはバッグヤードへ行って、すぐに仕事着から私服に着替えて出て行った。


 遠くで車が動く音が聞こえる。崎山さんが大学生の彼氏の車に乗ったのだろう。


 まともに人の目を見て話せなくなってから、こうやっていいように人に使われることが多くなった。


 それに対してムカつくこともなくなった。

 就職した会社には馴染めずすぐ退社して、それからバイト暮らし。誰からも好かれず、親との折り合いも付かず家を出てから10年弱。


 それでもこうして生きていける。


 びっくりするほどつまらない人生だが、もう、なんか、これでいいや。


 そんなことを思いながら、タバコでも吸おうかと思って、出口へ向かう。


 一本吸ったら品出しから片付けるか……。


 そう思って自動ドアをくぐった瞬間。


 そこは檻の中だった。









 なにがどうなってるんだ。


 目の前には物々しい鉄格子がある。手を触れてみると、硬くて冷たい。どうあがいても出られそうにない。


 そう思いながら呆然と外を見ていると、薄暗闇の中、金色の瞳と目があった。


「うわぁ!」


 飛びのいて尻餅をついてしまった。


「うるさい。ニャ。」


 うっとおしそうに話す彼女の目は、猫のような瞳をしていた。


「何を騒いでる。今更ジタバタしても仕方ない。ニャ。」


 猫のような声に、猫のような耳?猫のような尻尾……人じゃない!?


「なっ…バケモノ!?」


「失礼!ニャ!」


「ご、ごめんなさい!」


 その猫耳娘は立ち上がって叫ぶ。

 粗末な布に巻かれた胸がぶるんっと揺れた。


「なんだ猫人を見たことがないのか…?都のボンボンなのか?貴族がなんでこんな奴隷オークションにいる。ニャ。よく見りゃ変な格好して……。」


 コンビニの制服を物珍しそうに見て、その視線が俺の顔に移ったとき、彼女は言葉を止め、静止した。


「あ、あの……。」


「だ、男娼かなんか。ニャ?」


「だんしょう?」


 聞きなれない単語だ。


「あ、いや。事情を話したくないならいい。ニャ。大声出して悪かった」


「え?あ、いや、僕こそ失礼なことを。」


 急にしおらしくなってしまった。顔を赤くして正座し、太腿をもじもじとさせている。


「あの……、ここはなんなんですか?」


 見回してみると、同じような檻に、それぞれ人間が1人づつ閉じ込めらめている。


 いや、ただの人間ばかりではない。


 鱗に覆われたトカゲ人間。大きな口をした狼人間。背中から鳥の羽をはやした人間 。

 なんと恐ろしい光景なのか。


 皆、一様に諦めた瞳をしている。

 騒ぐこちらの様子を気にする様子もない。


 ただただこれから起こることを待っているだけのような、そんな表情だ。


「さ、さっきも言ったが、奴隷オークション。ニャ。」


「奴隷オークション?」


「な、なんで知らない。ニャ。お前攫われてここにきたのか?」


「いや……、わからない。気づいたらここに。」


 何もかもわけがわからない……。不安で胸がいっぱいになっていく。


「あの……どうして……どうして僕はここにいるんですか……!?」


 ガシャン!と大きな音がなった。


「君の言う通り僕は攫われたのかな……!?だとしたらどうして僕が!」


「ま、待って!ニャ!」


 興奮した俺は鉄格子に掴みかかって声を荒げてしまっていた。

 彼女を怖がらせてしまったかもしれない。


「ご、ごめん。」


「そんなに見つめないで欲しい。ニャ。」


「はい?」


 猫娘はさっきよりも一層頬を染めている。

 よく見ればボロ切れを身にまとっただけで、裸同然だ。僕の視線が嫌だったのだろうか。


「あ、ごめん、ジロジロ見てるつもりはなかったんだ。」


「そ、そう。気をつけて。ニャ。ドキドキするから。」


 ドキドキ?


 体調でも悪いのか……?


「……大丈夫?」


「ふにゃ!?」


 鉄格子の間から手を伸ばし、頭を撫でた。


「具合悪い……?」


「ふ、ふにゃ!ふ、にゃぁ……」


 あ。


 しまった。


 ウチの実家で昔飼ってた猫を撫でるようにしてしまった。猫耳がフワフワでつい手が伸びたのだ。


 ……しかし、耳が本当に気持ちいいな。悪いとは思いつつも、撫でるのをやめられない。


「……かわいい。」


「ニャァ!!!???」


 思わず言葉にしてしまった。


「おー……よしよし。かわいいねぇ。」


「か、かわいい!?にゃ、ちょっと……やめ……ふにゃぁぁぁぁぁぁぁ」


 見つめながらなで続けると、彼女は崩れ落ちるように床にぺたんとなってしまった。


「え!?どうしたの!?」


 猫耳娘はトロンとした表情をしたまま動かなくなってしまった。


「あの……?」


「男娼……恐ろしい。ニャ……。はぅぅっ」


 訳のわからないことを言いながら、頬を赤らめ、体をビクつかせている。布の間から張りのある浅黒い太ももがのぞいていて視線に困った。ど、どうしちゃったんだ……。



「奴隷が足りないってな一体どういうことだぁ!?」


 突然、部屋中に響き渡る大きさで怒号が聞こえてきた。みると部屋の入り口の方で屈強な大男が、ガリガリの禿げ上がった小男を掴み上げていた。


「ゆ、輸送の段階で、逃げ出されちまったみてぇで……さきほど檻を確認したらもぬけの殻でした……!」


「あれだけ見張りはキチンとしろっつったろ!?どこだその檻は!」


「あ、あれです。」


 締め上げられたまま小男がこちらを指差した。


「……いるじゃねぇか。」


「あ、あれ?ギャッ!」


 大男は小男を投げ捨てるとこちらにずんずん進んできて、俺の顔を近くで見ると目を見開いて固まった。


「おい……こんな上物、今回の商品リストにあったか……?」


「え……?上物?その檻にいるのはただのゴブリンハーフで……え!?」


 小男もこちらへ這ってきて、俺を見るなり固まってしまった。


「……こりゃいい。おい、次の競りにこいつを出すぞ?」


「次?次は鳥族の男の予定ですが……、」


「バカか!そんなんはどうでもいい!オークションも中だるみしてきた所だしよ、こいつを出せば一気に会場が盛り上がるぞ?」


 すぐさま鍵が開けられ、縛り上げられる。


「ちょ……なんなんですか!?やめてくださ……」


「ちっ!動くんじゃねぇ!」


 バキッ!


「がっ!?」


 頬をしたたかに殴られた。


 めちゃくちゃ痛い……!


 なんだこいつら、僕を家畜かなんかみたいに思ってるのか……!?


 抵抗する意思も消え失せ、為すがまま、僕は部屋から連れ出された。


「あ……名前を、名前を教えてほし……ニャ。」


 息も絶え絶えの猫耳娘が何か言ったようだけど、聴き取れなかった。






 そうして僕が連れ出された先はステージだった。すり鉢状の会場に、所狭しと、人が座っている。中世の商人のような格好をしたもの、貴族のようなもの、さっきの大男のレプリカのような野蛮そうな男。野蛮そうな男たちは揃ってステージにヤジを飛ばしている。


「はやく奴隷の顔を見せろぉ!」


「こっちは北の大陸からはるばる来てんだぞ!?しょうもない商品ばっか見せやがって!」


「なんだ次は男かよ!?」


「いい加減もっとまともな女奴隷を出せ!暴れてやろうかぁ!?」


 とんでもない熱気で、それだけで倒れてしまいそうになる。

 少しだけ、僕は自分の置かれた恐ろしい状況を理解した。


 どうやらこれは奴隷の競売で、僕は今その商品になっている。


 フードから自分の顔が見えないように周りを見ると、誰もが殺気に満ちた顔をしている。


 まずい。


 ここで僕のブサイクな顔が晒されたら、どんな非難を浴びるかわからない。

 こんなブ男を誰が買うんだと。


 ヤジから察するに、今回の競売にはいい商品がなく、客は全員苛立っているようだった。


 こんなときに僕が出たら……最悪殺されちゃうんじゃないか?


「次もしょうもない奴隷だったら、俺様が直々にこの手で処分してやろぉかぁ!?」


 ほら言ってる!僕の何倍も体のでっかい男が!やばい、やばい、やばい!


「ご安心ください!」


 司会らしき、ひょろっとした優男が大きな声で宣言した。


「次の商品はとびきりの上物です!」


 そういって優男は僕のフードに手をかける。後ろ手で縛られている僕はなすすべもなく顔を晒す。


 その瞬間、会場が嘘のように静まり返った。


 え?


 何この空気?


 やっぱり、引いてる?


 そりゃそうだよ、だって僕はブサイクな『かんのくん』だよ?


 こんな大勢を静まり返らせるほどの……。


 そんな僕の心中をよそに、優男が、会場の反応に満足げな表情を浮かべた後、叫んだ。


「さぁ、ご覧の通り、今回の商品は、花が恥じて顔をそらし、女どもが裸足で揃って逃げるような、()()()()()()()!」


 ……はい?


 なんて言いました?


 美男子?


 ……だれが?


 優男のその声に、会場は歓声をあげ、競売がスタートした。


「20万ギリー!」


「こっちは30万だ!」


「なんだあの美しい男は……!?」


「あれを男娼にしたらいくら稼げるかわからんぞ!?」


「大貴族の夫人に売れば大儲けだ!」


「ご、50万!」


「ちょっと旦那……!予算オーバーですぜ……!?」


「あの美しい男がいればすぐ取り戻せる!問題ない!」


 飛び交う数字はものすごいスピードで上がって行く。





 まったく事情をつかめないまま、競売は大盛り上がりにうちに終わった。


 僕を270万ギリーという聞き覚えのない単位で落札したのは、1人の美しい女性だった。



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