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1990年から  作者: 海空ひかる
1/1

ひまわり

お久しぶりです、本当にお久しぶりです。

受験勉強の息抜きに書いてます。

これからの展開、結末などなど、何も考えていません。

ただ自分がバンドブームを愛しているので書いてます。

続きはいつになるかわかりません、何かいい結末が浮かんだら書きます。

 ここは20XX年の地下施設。薄暗い施設の奥に、琥珀色の固まりが置いてある。よく見ると琥珀のようなものの中には一人の少女と虫が、安らかな表情をしてとどまっていた。

 今、その琥珀のようなものがどろりどろりと溶けていき、施設の床を黄色く染める。少女の体には不思議と琥珀が付着しておらず、美しい風貌は崩されることがない。虫たちは琥珀の中で蠢き、やがて死んでいく。

 少女は生まれたての小鹿のような、おぼつかない足取りで外へ向かう階段を登った。

 外の空気に触れ、安心したのか、少女はそのまま路上に倒れこんでしまった。起き上がる気力もない。そのまま太陽光と人々の視線を浴びながら、気を失っていた。少女にとっては何もかもが二十数年ぶりのことだった。


 少女は二十数年前、強制的に研究所につれていかれ、研究材料として扱われていた。当時、少女はバンドブームの渦中にいた。大好きなインディーズレーベル、そのライブ。好きなバンドがデビューする、寂しさとうれしさ。昔から好きなバンドの中には、もはやメンバーと友達の関係になっていることもあった。ただしそれ以上はない。

 その日、やはり少女はライブハウスに来ていた。少女にとってライブハウスは現実からの防空壕だった。少女にとって学校は戦場だった。入学当初、家の事情で学校に行けなかったため、完全に乗り遅れ、クラスメイトと大きな壁を感じていた。なにか目だったことをすれば、それが悪い子とではなくても必ずと言っていいほど笑いものにされる。学校で、少女の頭の中では常にクラスメイトの笑い声が響いていた。怖い、怖い、私は悪くない。そんなときに逃げ込むのがライブハウスだった。ここでは私の学校での立場を知る人もいない。勝ち負けもない。権力もない。みんな一緒に音楽を楽しむのだ。少女があまりにライブハウスに入り浸るため、巷のバンドマンの間では「迷い込んだ猫のたま」「たまちゃん」と呼ばれ、ライブハウスの店長も少し困っていた。しかしライブハウスにとってはいい客寄せだ。

 今日のライブは少女が昔から追いかけ続けていたバンドだ。メンバーとも顔見知りである。小さなライブハウスでは始まる前、フロアに普通にメンバーがいる。そこを狙って話かけにいくのだ。

「どーも!」

 少女は慣れた様子でメンバーのいる場に飛び込んだ。

「おーたまちゃん。今日も来たのか。」

「これ、差し入れの駄菓子。どうぞ」

 メンバーへの差し入れは基本である。さらになつかしの駄菓子系は、以外とみんな喜んでくれる。

「おーいっつもありがとね。あ、そうだたまちゃん、この前言ってたカセットってこれ?」

「あ!そうこれ。一度聞いて見たかったの。ありがとう!なかなか売ってなくってさ、いつ返せばいいかな?」

 物の貸し借りをすると、次回も会う口実がつくれる上に、メンバーと共通の趣味を持ち、さらに仲良くなれることもある。

「こんど会うときでいいよ。」

「そろそろリハだってー」

「おう、じゃあ、またあとで」

「うん。あとでー」

 少女の計画は完璧だ。学校だけがすべてでないことを少女は知っていた。ライブハウスで気の合う人を探したほうが、少女にとっては幸せだった。

 バンドのライブが始まった。少女は幸せだった。これさえあればもう、何もいらなかった。この喜びを、バンドのかっこよさを、次の世代へ伝えなければ。石を転がし続けなければ。


 その数週間後、彼女に研究の話がきた。少女に選択の余地はなかった。翌日、ライブハウスに顔を出すこともなく、少女は施設に収容された。学校では彼女がいなくなったせいで、彼女の次に地味な子が笑いものの対象になった。ライブハウスでは、軽い事件になっていた。たまちゃんが消息を絶ったらしい。たまちゃんが消えた。たまちゃん、、たまちゃん・・・・・・。

 少女がカセットを借りたバンドのメンバーもとても心配していた。たまちゃんのいないライブハウスは、どこか寂しげになっていった。

少女はそのころ実態のわからない謎の琥珀の中。じめじめとした地下施設で一人寂しく泣くこともできず、返せなかったCDを思っていた。


 少女は目覚めた。結局誰も助けてくれなかった。一人で立ち上がり、曖昧な記憶を頼りにいつも通っていたライブハウスへの道のりを辿った。ほてほてと歩いた。ほてほて、ほてほて

 ライブハウスはショッピングモールに変わっていた。そこにはなにもなかった。少女はまたほてほてと歩き出した。ゾンビのように、ほてほてと。

 

 少女とすれ違い、足を止めた人がいた。その人はすぐに振り返り、とっさに彼女の腕をつかんだ。

「たまちゃん?」

 おじさんは目を丸くしている。

「誰ですかあなた」

 老け込んだおじさん。誰かに似ている。この人は・・・・・・あの人だ。あのバンドのメンバーだ。


 おじさんとカフェに入った。おじさんは混乱していたが、少女にも何が何だかわからなかった。無理もない、少女にとってはタイムスリップしたようなものなのだ。過去に戻れない、一方通行のタイムスリップ。

 おじさんからいろんなことを聞いた。

 バンドブームは終わり、レコードやカセットもCDというものになったこと。ライブチケットのために徹夜したり、雑誌の細かい字をたどったりしなくてよくなったこと。当時のバンドマンはみんなおじさんになり、音楽を続けている人は少数で、家庭を持っている人も多いということ。カセットを貸してくれたメンバーが最近亡くなったこと、みんなの憧れだったカリスマミュージシャンが亡くなったこと。

 ほかにもいろいろあった。少女の頭は爆発しそうだった。

 ただ一つ、変わっていないこともあった。

 当時メジャーだった彼女の大好きなバンドだ。もちろんメンバーはみんな老けた。しかし、メンバーもそのままで、やっている曲も音も変わっていない。

 いいこともあれば悪いこともある。少女はいろいろ気にかかることがあったが、やはり自分がなぜ今生きているのかが知りたかった。なぜ私はあの物体の中にいたのか。なぜ、今このタイミングで解き放たれたのか。私を研究材料にしようと決めたのは誰なのか、そしてそれがなぜなのか。この研究の目的はなんなのか。私は生きていていいのか。なぜなのか、なぜなのか…。

 少女はおじさんと一緒に地下に行ってみることにした。おじさんの名は賢一といった。少女は昔のセーラー服のままの姿だ。ここが東京ということは把握できた。しかし、歩行者天国も音楽も無く、個性のない若者が個性のある者のふりをして通り過ぎていく。音楽のない都会の風景はあまりに孤独で、喪失感に襲われた。空を見上げる。高い建物が連なり、空は狭く小さく切り取られている。空気は濁っていてどこかから異臭が漂う。信号が緑になれば人の波が押し寄せ、賢一と少女は波にさらわれ離れ離れになりそうになる。外国人が果物屋の前でメロンを食べている。広すぎる商店街の向こうにはまたもや高くそびえたつビル。ビル、ビル、ビル。ここは地獄だった。街頭に括り付けられた拡声器が強い口調で何かを叫ぶ。そんなもの聞こえないかのように人々は流れる。その流れは永遠に止まることがない。まさに海だ。ここは、地獄の海だ。コンクリートと人工的な植物と肉塊の海だ。その存在は一定で途絶えることがない。

 地下があるはずの場所についた。しかし、地下へ通じる階段はどこにも見当たらない。賢一が地下の上にある店の店員に地下のことを聞いたが、そんなものはないという。しかし、遠い昔は地下があり、夜はよく不良のたまり場になっていたという。

 少女と賢一は狭い都会の中で途方に暮れた。日も暮れ始めていた。少女は自分の命が残り短いような気がして焦っていた。結局その日は賢一の家に行くことになった。

 電車を少し乗り継いで、賢一の家に着いた。一人暮らし、寂しいアパートだ。中は閑散としているようで物が散乱していて、少女が知っていたころの賢一とは程遠い生活だった。しかし、ギターや音響機器など、それらしいものもあった。賢一は家に着くなり靴を投げ出して押し入れへ直行すると、なにやらがさごそと荷物をあさり始めた。

「あった!あったよ」

賢一が持ってきたのは、バンドブーム当時の雑誌やビデオなどの品。少女はすかさず雑誌をめくる。

 少女にとっては昨日のようなことだった。むしろ、雑誌がこんなに日焼けして寄れているのが不思議なくらいだった。何も変わらない、いつもの雑誌。しかし賢一は懐かしい懐かしいと感動し、すっかり夢中になっている。

「このバンド、今は?」

少女は自分が気になっていたバンドの記事を見つけ、賢一に聞いた。

「ああ、そのバンド、このあと売れたんだけどね、ちょっとした事件起こしてからすっかり消えたよ。いまはどうしてんのかなあ」

「そう…。」

その後も少女は賢一に質問攻め、賢一は頭をフル回転させてなるだけわかりやすいように答えた。少女は徐々に時代の流れを理解し、いろいろな変化に複雑な気持ちになった。少女の好きなバンドマンが舞台作家になっていたり俳優になっていたり、作家になっていたり…。しかし、彼らは常に何かを表現している。それだけはバンドブームが過ぎても変わらなかった。賢一に彼らの現在の写真を見せられた少女は、絶句したり納得したり信じなかったり、いろいろな反応をした。それらを見ているうちに少女は、ますます自分の容姿が変わっていないことを不思議に感じ、自己同一性は崩壊しつつあった。少女はいつの間にか眠った。

 気づいたら昼だった。賢一は仕事に行ったのか、部屋におらず、机にはカップ麺が置いてあった。カップ麺の作り方は昔から変わらない。少女にとってはありがたいことだ。

 ご飯を食べているうちに、少女は昨夜見た夢の内容を思い出した。

 少女は研究室の隅に座っている。広い部屋の中央に置かれた机の周りを、知らないおじさんたちとお父さんが囲んで何か議論しているようだ。そのうちに少女は球体関節人形のように台車に乗せてどこかに運ばれ、黄色い物体を目にする。その物体をよく見ると、きらきら光る眼球がたくさん詰まっていて、少女は発狂することもできず息をのむ。黄色い物体は解け始めた。眼球はコロコロと黄色い物体の上に積り、しぼんでいった。

「また失敗だ!くそ!」

お父さんはしぼんだ眼球を踏みつぶし、汚い液体を飛び散らせる。

「やはりお前の肉体が必要だ」

お父さんは少女の腕をつかみ、引き寄せた。

「お前の体をお父さんにくれないか?」

「いやだ」

「わかるか?この研究は人間の将来に関わるんだ。物質をそのままの状態で保存して遠い未来に残す。仮に人間で成功したとしよう。その人間は過去と未来が存在することを証明し、今が本当に実在することを証明できる。それにより、人間は、この世界は自分一人の幻想などではなく、人間という集合体からなる世界なのだと認識して、世界はよりよくなるのだ。な、わかるか?」

「わかんないよそんなの。ここから出して」

少女は腕を振り払い逃げようとした。しかし、父は大人だ、すぐ捕まってしまった。今度は殴られ、少女は動けなくなる。

 そこで目を覚ました。少女は思い出しているうちに、これは夢ではなく、過去の記憶だということに気付いた。しかし、もしこれが現実でも夢でも、一緒なのだ。人間はみな過去を多少捏造して人に語らう。それは昨晩見た面白い夢の話を少しもって友達に語るのと同じことだ。何が違うというのだ?脳髄の中に閉じ込められた物語をひとに物語る。それは自分の作った作り話でも、本当の話と言って語れば信じてくれる人もいる。ましてや自分がその記憶を現実だと言い聞かせればその記憶は自分のものになる。他人の過去なんて知らない。自分しか知らない。それは夢も現実も同じだ。…寒い。

 







読んでいただき本当にありがとうございました。


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