閑話・王子の観察② アルフレッド視点
とうとうゲーム開始の時期になってしまった。
ディックとはあの後もお互いが覚えてる内容を話して対策をとることにした。
一番危険な場所はマーケットだ。
できればミリーにはあそこにいってほしくない。
でもミリーは買い物が好きだからマーケットにも興味を持っている。
何時かは俺たちの目を盗んでマーケットに行って主人公と恋に落ちてしまうのだろうか・・・。
そんなことを言ったらディックに殴られてしまった。
「リアはお前の為に隣国の言葉を勉強しだしたんだぞ?
そこまで頑張った奴がポッと出の男を気にするわけがない」
ディックに言葉に嬉しくなる。
ミリーは俺が初対面の時に適当に言った婚約者は隣国の言葉をしゃべれる人が理想と言ったのを信じて学び始めたとディックに聞いた。
どんな女性が理想かとあの時にいた令嬢の誰かに言われて適当に答えた内容を真剣に考えてくれていたとは本当に驚いた。
「ごめん。ありがとう」
呟く俺にディックはポンポンと頭をなでる。
入学式が始まって最初に問題が起きたのはドーラだった。
ゲームでは明るくて元気なパン屋の看板娘の少女だった。
実際に会った彼女はゲームの面影と全く違う表情と性格の少女だ。
記憶持ちの影響でここまで変わるのかと驚いた。
ドーラの言っている事はゲームの内容のはずだが、俺にはわからないことばかりだった。
彼女は生前の言葉で言うならば電波少女だろう。
とてもじゃないが、言ってる事は支離滅裂で危険であると判断せざるを得なかった。
王子としての俺が彼女を退学にさせ修道女に送ろうとするのはやりすぎかとは思ったが、学院長を含め反対をする者はいなかった。
それだけ皆が彼女の事を異常だと思ったのだろう。
だが、この結論が決まった日、ドーラは消えてしまった。
誰かが手引きをしたとしか思えないが、それが誰なのかはわからなかった。
その後もドーラの行方を捜したが未だに見つかっていない。
学院行事の他にドーラの件、加えてゲームイベントの対策とやることが一杯の俺は学院生活でミリーと一緒にいることがほとんどなかった為に不仲説の噂がでてしまった。
どうも婚約候補者だった令嬢の1人の嫌がらせらしい。
不仲ならまだ自分が婚約者になれるとでも思っているのかご丁寧に父にまで報告したらしい。
父も母も兄も日の曜日にはミリーと過ごしている事を知っているから気にしてないないが、これくらいの処理は自分でしろと小言をもらった。
これのおかげでミリーと昼を共にできるからよかったと言えばよかったと言える。
が、俺は1つ気になっていることがある。
最近、ミリーの嗜好が若干変わってる。
最初に気が付いたのは入学式前に一緒に過ごしたお茶の時。
甘党のミリーは砂糖はお茶によって2,3個入れてたのに最近はなしか1個だ。
以前は平気で食べていた激甘ケーキも最近は進んで食べようとはしなくなった。
最初はその程度の違和感。
ダイエットでもしてるのかなくらいにしか思わなかった。
だけど他にもあれ?と感じる違和感程度がこの後もいくつか気づいてしまった。
ミリーは記憶持ち?
でももし記憶持ちなら俺の事をどう思うのだろうか。
悪役王子は嫌だと主人公に恋をしてしまう?
でも、ミリーは俺達が言わなくてもマーケットに行こうとする気配がない。
学院でも主人公達を見たりはしているが、近づこうとはしていない。
主人公の妹のカローラとは接触したみたいだが、主人公の話は聞いたことがない。
それとも俺には言わないだけで実はあっていたるする?
考えれば考える程嫌な方向にしか考えがまとまらない。
そして俺自身もミリーが記憶持ちなのが嫌なのか、それとも記憶持ちでも関係ないと思っているのか自分の気持ちでさえ判断がつかないでいる。
何度か思い切って聞こうと思ったが、結局聞けず仕舞い。
答えを聞くのが怖いとか俺って意外に情けなかったようだ。
考えても答えは出ないのなら気晴らしにミリーとデートしよう!!
そう考えた俺はイベントが発生しない平民街の商店街へ行くことにした。
楽しげに笑うミリーに心癒されながら見ていると最近流行ってるアイスの上にアートを描くお店に視線を止めている。
食べたいのかなと思って聞くもいらないと言われてしまったが、しばらく考え込んでから心ここに非ずと言う表情になっている。
呼びかけても応答がなく、何度目かでようやく気が付いたとばかりに俺を見る。
その後は笑顔で何もなかったように答え、表情もいつもに戻った。
やはり、ミリーは記憶持ち?
何かを思い出し様な表情だったんだけど、でもここでのイベントはないはず・・・。
一瞬浮かんだ疑問も今は忘れようと奥底に追いやり、楽しい時間を過ごした。
だが、俺は迂闊すぎた。
平民街へ荷物が届く時間帯は荷車がすごい勢いで通り過ぎるという事を失念していた。
おかげでミリーとは逸れ、俺は人の波に飲まれながらもなんとか道の端に退避した。
ミリーは大丈夫かと探せば反対側の目立つお店の前に立っているのが見えた。
俺達はデートであっても1人で歩くことは許されないので、護衛が見えない位置に立っているのは知っている。
ミリーとは離れてしまったが、彼女の護衛がいるのだから問題ないだろうと俺は人の流れが落ち着くのを待つことにしたが、その時とんでもないものが視界に入った。
ミリーが路地裏に引っ張られている!?
慌てたが人の波は未だにひどく向こう側に行くこともできない。
「落ち着いてください。アルフレッド様。
アメリア様なら彼女の護衛がついていくのが見えました。
それにこちらにも気配があります。
お気を付け下さい」
さり気無く耳元で囁かれた言葉に俺はわずかに頷く。
確かに微かに殺気を感じる。
何が狙いなのだろうか。
ミリーの事も気になるが、今は近くにいる殺気を放つものをどうにかしないとまずい。
俺は敢えて無防備に誰かを探すふりをしてキョロキョロして相手の油断を誘う。
しばらくしたら案の定、俺の腕を引っ張る者がいた。




