宇宙旅行エレベータープラン
「大きな手だね」
「あんたよりわな」
大きな手が私の頭を撫でてくれる。じんわりと体温を感じて思わずにやけてしまった。
「顔が大変なことになってんぞ」
「あなた様限定ですぞ」
「気持ち悪」
「酷いよ」
ぎゅうぎゅうと私は彼に甘えてみるが、彼はテレビに夢中だ。最近はやりの宇宙旅行エレベータープランが話題になっている。透明なエレベーターで宇宙まで行くのだ。地球から少し離れたとこに娯楽惑星の開発もただいま盛んらしく見学ツアーもある。
「ダーリンが造った場所も紹介されるかな」
「俺の担当は惑星だったからな。娯楽施設じゃない」
彼は少し不機嫌気味に言った。娯楽施設に隠れて紹介されない、惑星の外側の層、緑の楽園。緑の楽園は彼が携わった施設だ。木々が生い茂り、程よい丘があり、川があるとても素敵な場所なのだ。しかし世間は娯楽施設の偽物の植物を褒め称えた。素晴らしと、画期的だと、だから緑の楽園はいつも見えない。
「娯楽施設が悪いというわけじゃない。あれも幸せの一部だ」
「楽しそうだものね。見てあれ星釣り体験コーナーだって、楽しそう」
光り輝く粒たちを子供や大人が釣り針で引っかけようとしている。粒は体を震わせながら移動し、光を点滅させるその姿は無邪気に笑う子供に似ていた。
「あの光の粒はあの空間ではああやって動くが、持って帰ればただのビー玉だ」
「そうなんだ、でもビー玉も好きよ。昔集めていたな。宝物だったの、キラキラして宝石のようだったから。今の子はどうなんだろう」
あんなきらきらした夢のような空間にいたら、ビー玉の価値も下がってしまうのだろうか。
「そんなもん人それぞれだろ」
テレビ画面は高級ホテル施設紹介になっていた。夢のようなひと時を、大切なご家族と。そんなよくあるキャッチコピーが流れる。
「私はダーリンがいるだけで夢のようなひと時をおくれるよ」
「顔がキモイことになってる」
「酷い!でも好き」
そうかそうかと受け流す彼。視線は変わりなくテレビ画面。
「こんな顔でも世間様にはファンがいっぱいなんだよ」
「ゲテモノ好きだな」
「ゲテモノじゃないよ」
見てみてと、最近の雑誌を見せると一面に私の姿。
「とうとう犯罪者に」
「どう見たらそうなるの、ワールドツアーのときの写真がピックアップされたの」
「そういえば、最近会ってなかったな」
「ツアー中は忙しいって言ってたじゃん」
テレビは明日の天気を提示してCMにかわった。どうやら明日の天気はトビウオの群れが各地で宇宙へと飛び立つため、強い風が吹くらしい。気を付けないと。
「ねえ、ダーリン私達も宇宙に行こうよ。魚だって明日は行くのよ、きっと重力のない場所で熱い愛を伝え合うのよ」
「繁殖活動だから魚はしかたなくだろ」
「そんなことないー」
彼の溜息が隣から聞こえた。私の脳内ではオスとメスの魚が宇宙で素敵なキスをしているというのに。
「あんたは酷く我が儘だ。そのくせすぐに飽きっぽい。自分の趣味を人に押し付けるし。思い通りにならないとすぐぐずる」
「そうだけど」
「そうやって人を振り回すうえに、人の話を聞かないから友達がいない。コミュニケーションの基礎がなってない。頭の中はお花畑の外見だけ大きくなった子どもだ」
これは彼の本音だろうか、確かに私はそうだ。ここまでストレートに言われるとむねにこう、来るもんがある。
「まわりにいた奴らだってそんなもんだったろ。俺はそんなあんたをちっさいころから見てきた」
「うん」
「あんたは馬鹿だ、でもそんなあんたが好きだ。可哀想なあんたが好きだ」
「うん」
「泣くなよ」
「ならつれってって、宇宙エスカレータに乗ろうよ」
彼は小さくうなずいた。
「足元から少しずつ離れてく地球に手を振るの。行ってきますって。雲のシャワーの中ではぎゅっと抱きしめてね」
「やってやるよ」
「宇宙に出たら、私のファーストキスをあげる」
彼の背にもたれながら、呟く。ひそひそと秘密のように。呼吸で上下する彼の肩をかんじながら。
「そして、緑の楽園につれってってね。あなたの前だと私はわたしでいれる気がするの」
「いいぜハニー。きっとそんなお前に俺がしちまったんだからな」
娯楽施設の表面をやさしく包むように、楽園はそばにいる。宇宙には重くなりすぎた愛が無重力地帯へと逃げ込んでいる。もしかして、そんなこぼれた愛が宇宙を輝かしく見せてるかもしれない。どうなんだろうね、ダーリン。少し胸が苦しいよ。