とても重要なお知らせ
カナンと初めて出会った夜、切りかかられた後、目を醒ました聖教会内の居住スペース。その一角にある質素なダイニングキッチン。
「どうぞ」
「ありがと」
小さく音を立てて鉄の目の前に置かれたシンプルな白磁のカップ。カナンの淹れてくれた紅茶から湯気が立ち、良い香りが香る。
聖マリア女学院は聖女の受け入れも万全な、完全寮制の超お嬢様学校である。
何故カナンが聖マリア女学院から鉄の通う杉並公立高校へとわざわざ転校しなければならなかったのかは未だに謎だ。聞く度にカナンの転校を決定したと張本人だと言う結木に「まぁ、ちょっとありまして」とはぐらかされるだけだ。カナンはその理由を全く知らないらしい。
転校と同時に聖マリアの寮を出たカナンは、現在この聖教会で生活をしている。そのため鉄がこの聖教会へ足を運ぶ度にお茶を出してくれるのは、常にこの教会の主である結木神父ではなくカナンだ。
「フゥ」
毎度思う事ではあるが、カナンの淹れたお茶は美味しい。そこらのスーパーで売っている量産ティーパックの紅茶だと言うのに、彼女が淹れると味が違う。これがいわゆるコクと言うのだろうか。
カナン曰く、お湯を注いだ後に蓋をして暫し蒸らすだけで違うと言うことだが、自分で試してみても彼女の淹れるお茶の味には遠く及ばなかった。
(同じメーカーのティーパックを使ったのに……。これも聖女効果かな)
一口飲んだ鉄の口から思わず漏れたほっと一息に、四人掛けのテーブルの向かいに座っていた結木が目を細めた。
「……なんですか?」
「いやー、カナンの淹れるお茶はいつ飲んでも美味しいですね。ねぇ、江川君?」
「「……」」
(見られてたか……)
何となくこの人にだけは見られたくなかったが、見られてしまっていたなら仕方がない。この神父に対して聞こえないふりが出来るほど、鉄は肝が据わってはいなかった。
「……ソウデスネ」
目を逸らしつつそう言った鉄がカップに口を付けるのを、結木は満足そうな、いや正確には勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
(ゼッテーこの人は神父なんて職業の人間じゃないっ)
恨めしげに結木をねめつけてみたが、もちろんそんな鉄の視線さえも結木は楽しんでいる。
「フフフ、ありがとうございます。鉄くんの口に合って良かったです」
無性に苛ついたが、椅子に腰を下ろしたカナンに無垢にもお礼を言われてしまえば、鉄のそんな感情はどこかへと吹き飛んでしまう。これこそ聖女効果である。
「いゃ、こちらこそ、いつもアリガトウゴザイマス」
相変わらず目の前では結木が柔和で黒い笑みを浮かべていたが、鉄は今回に関してはあえて無視しておくことにした。
カップから口を離してカナンが訊ねる。
「琢磨、それで今日はどんな話があって私たちを呼んだんですか?」
「あぁ、そうでした。今日、二人を呼んだのは他でもありません。とても重要なお知らせがあります」
そう言ってカップをソーサーの上に置いた結木の表情が一瞬にして変わった。眼鏡の奥で瞳が鋭く怜悧な光を放つ。
「実は、――新たなシンズの出現が啓示されました」




