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act2-2

長崎県

佐世保

September 21.2021



 あつみ型多目的輸送艦《あつみ》が接岸した海上自衛軍佐世保基地の平瀬埠頭の係船桟橋には陸上自衛軍の車輛が集結していた。雨が降りしきる中、隊員達が駆け回り、次々に水陸機動団の装甲車輛が《あつみ》のランプドアから積み込まれていく。


 最近就役したばかりの最新のあつみ型多目的輸送艦は満載排水量四万トンに達する航空護衛艦に次ぐ海自でも最大級クラスの大型艦で、全通型の飛行甲板とウェルドックを備えることで高い航空機運用能力と輸送揚陸能力を併せ持っている。一個普通科大隊戦闘団とその装備を輸送可能で、LCAC(エルキャック)と呼ばれるホバークラフト型エアクッション揚陸艇二隻を搭載していた。


 また同じ掃海隊群第一輸送隊のおおすみ型輸送艦《くにさき》も蛇島埠頭において水陸機動団の装備を積み込んでいた。


 あつみ型の前級であるおおすみ型輸送艦は満載排水量一万四千トンで、一個普通科中隊戦闘群を輸送でき、第一輸送隊の有するおおすみ型輸送艦三隻の全力であつみ型多目的輸送艦一隻分となる。全通甲板を採用しているが、発着スポットと駐機スポットは艦尾に一か所ずつだけで、航空機整備能力も持っていない。LCACを二隻搭載可能だった。


 輸送隊は護衛艦隊隷下から、水陸両用作戦の支援任務が与えられた掃海隊群隷下に編成替えされていた。そのため《あつみ》は通常、MCH‐101掃海・輸送ヘリコプターを搭載することになっている。それに加え、陸自のヘリコプター部隊が飛行甲板には並んでいて、すでに羽を休めていた。


 呉基地からやってきた二隻の大型輸送艦と、佐世保基地に集まった相浦駐屯地及び崎辺駐屯地、玖珠駐屯地等の水陸機動団の部隊で佐世保基地はごった返し、未だに佐世保基地には警察車両に先導された自衛軍の車輛が次々に流れ込んでいて、基地内だけでなく、周辺も騒然としていた。


 その佐世保基地をフェンスで隔てた駐車場には大勢の市民が押し寄せ、プラカードや横断幕を掲げて抗議活動を行っている。


「自衛軍反対!」


「戦争反対!」


「軍による琉球への圧政反対!」


「和平に軍はいらない!」


「自衛軍派兵反対!」


「人殺しは帰れ!」


 シュプレヒコールは時間を追うごとに激しさを増し、その規模も増えつつあった。整列し、艦内への搭乗を控えた隊員達はその罵声を浴び続けていた。


「なんだよあのどんちゃん騒ぎみたいなのは。太鼓なんか鳴らしてお祭り気分かよ」


「普通、ここは頑張って来いよとか、無事に帰ってきて、だろ」


「俺達は嫌われ者でいいのさ。その方が死んでも悲しむ人が少なくて済む」


 達観したように隊員達は思い思いの事を呟いていた。一人が基地内で見かけた自衛官募集のポスターを見て笑った。


「こんなアニメキャラみたいなの見て入隊してきた奴ら、今頃後悔してんだろうな」


 何人かがくっくと笑った。余裕そうな表情をしている隊員達を撮影していたテレビ局のカメラマンは戦争に向かうに当たって悲壮な表情を浮かべた若者達の絵が撮れず、苛立ちの表情を浮かべ、リポーターは、彼ら若者がゲーム感覚で戦場に向かっていると勝手に嘆いて感想を公共の電波に乗せた。


 地方協力本部が用意したカーテンを閉め切ったバス型の人員輸送車で基地内に入った隊員家族達はマスコミを気にしながら見送りしなくてはならなかった。


「子供たちを頼む」


「どうかお気をつけて」


 乳飲み子を抱えた妻は、不安な表情は見せまいと、輸送艦に向かっていく海上自衛官の夫の背中を見送った。


「生きて帰ろうや」


「そうだな。死んでもいい理由より、生き残らなくちゃならない理由の方が大事だ」


 軽口をたたき合いながら艦の舷梯を登る隊員の足取りは口調とは裏腹に重かった。


 佐世保湾内には海上保安庁の警備艇や海自の警備部隊が展開していてマスコミや抗議団体の船を近づけまいとしていた。破壊工作や自爆攻撃を想定して海自の警備部隊も実弾を装備し、護衛艦内の見張り員も防弾カポックを身に着け、12.7mm機銃を構えている。


 過去には護衛艦や輸送艦に漁船が激突する海難事故が起きたことがあったが、護衛艦側の監視が不十分だったことも一因であった。それは事故であったが、米艦《コール》襲撃事件のような自爆攻撃であれば、護衛艦側は最悪撃沈されていた可能性もあった。


 見張りを怠ることは有事では事故では済まされない。見張り員達はすでに戦闘態勢だった。


「こういう時、独身だと気が楽だな」


 艦に乗り込んでくる隊員達を見下ろしていた、水陸機動団の中でも水陸両用車を運用する機甲科部隊である戦闘上陸大隊に所属し、水陸両用車の車長を務める綿貫曹長は、同じ水陸両用車の銃手を務める小井出三曹に声をかけた。


「車長は離婚でしょう?」


 小井出は苦笑しながら聞いた。


「まだ保険の名義は別れた女房だからなぁ……死んだ方が感謝されるかも」


 水陸機動団立ち上げに伴って度重なる過酷な渡米訓練を終えて家に帰った綿貫を待っていたのは、離婚届けを持った妻だった。小柄で自分には不釣り合いな美人の女に泣きながら離婚を迫られれば、部隊では鬼の陸曹と言われた綿貫の必死の土下座も意味を為さなかった。強がってはいても今も、この見送りに来てはいないかと心の中では探してしまう。


「縁起でもない……巻き込まないでくださいね」


「言うようになったな、お前も」


「自分はまだ未婚なんです。結婚はしたいと思っていますから」


 しれっと言った小井出は、見送る家族が来ている隊員達のことを少し羨ましくも思っていた。小井出の両親はすでに他界している。兄弟も自衛官となった小井出に見送りに来る家族は居ない。


「隊員達は皆、不安がっているだろう」


「初の実戦ですから。皆強がっています」


 小井出は、自分はそうとでもないと言いたげな顔で語る。


米海兵隊(マリンコ)仕込みの今までの訓練が通用すると良いのですが」


「訓練は実戦のごとく、実戦は訓練のごとくだ。俺達は厳しい訓練をやってきた。成すべきことを成すだけだよ」


 水陸機動団は米海兵隊を参考に、年に何度も渡米し、時には沖縄に転地訓練でやってくる実戦仕込みの精強のアメリカ海兵隊から技術を吸収してきた。


「そうですね。あとは隊員達の士気を上げないと……」


「脱柵した者がいないのは皆の団結をさらに高めただろう」


 脱柵という自衛軍用語は、柵で囲まれた駐屯地から無断で出ることを言う。つまり部隊から逃げ出す職務離脱者のことだ。幸いにして精強の水陸機動団からは脱柵は無かった。


「ですが、方面からはすでに二、三出たとか。予備自にも出頭拒否者が」


「逆にそれしか出ていないんだと前向きに考えよう。とにかく我々は戦える」


 どこまでも綿貫は前向きだった。


 一時間後、《あつみ》と《くにさき》は水陸機動団第1水陸機動連隊と戦闘上陸大隊一個中隊を載せ、隊員家族の見送りを受けながら、佐世保基地を出港した。




 海上自衛軍徳島航空基地。


 徳島県の官民共用の徳島飛行場のエプロン地区には、全長約四十四メートルにもなる航空自衛軍の大型戦術輸送機であるC‐2輸送機八機と、そのC‐2を凌ぐ大きさの全長約五十三メートルの大型戦術輸送機、C‐17J輸送機四機が並び、その後部ランプドアを開け放って、陸上自衛軍の装輪装甲車両を搭載しようとしていた。


 16式機動戦闘車を始めとし、日本版ストライカー装甲車ともいえる18式装輪装甲車等、輸送機での空輸を想定した機動性の高い装輪装甲車で機械化され、普通科連隊を基幹とする諸職種連合部隊でパッケージ化された善通寺の第15即応機動連隊は防衛出動下令によって沖縄方面へと展開しようとしていた。


 18式装輪装甲車は16式機動戦闘車と車体コンポーネントの一部を共有しており、整備性と運用コストに優れている他、16式機動戦闘車等とネットワーク情報システムによって各種情報を共有する能力を持っており、高度な連携と支援が可能となっていた。また装備する12.7mm重機関銃M2または40mm自動擲弾銃Mk19はRWSリモートウェポンシステムにより車内からディスプレイとジョイスティックを使って操作可能で、銃手の危険性が軽減されている。


 また18式装輪装甲車には指揮通信車型や施設支援車型、偵察観測車型、迫撃砲搭載車、装甲救護車、化学防護車等、多くの派生が存在しており、急速に即応機動連隊を中心とする自動車化連隊を装甲化し、防御力と機動性、火力を向上することに大きく寄与していた。


「この基地にこれだけの輸送機がいるのを見るのは初めてですね」


 第15即応機動連隊の機動戦闘車中隊に所属する川倉二等陸尉は圧巻されながら呟いた。巨大なC‐17輸送機の中に同中隊の16式機動戦闘車(MCV)が飲み込まれていく。すでに川倉の乗る機動戦闘車は搭載が完了していた。


 C‐17J輸送機は国際派遣などの需要が高まったことから新たに調達された米国製の大型戦術輸送機で、日本の輸送機の中では唯一戦車が輸送可能だ。16式機動戦闘車であれば三輛を同時に空輸可能なペイロードを持っており、日本が運用する全十機のうちの入間基地第二輸送航空隊第405飛行隊所属の四機がこの徳島飛行場に集結していた。


「ここの飛行場の滑走路はうちの連隊のために強化されたようなものだ」


 中隊長の百瀬一尉が言う。元々の滑走路は旅客機に対応した通常のものだったが、C‐17級の大型輸送機の離着陸に備えて近年滑走路は改修されていた。即応機動連隊を円滑に展開させるためだというのが一説にあるのは川倉も知っていた。


「一度にこの輸送機だけで二十輛とその乗員を少なくとも輸送できますね」


「ああ。……沖縄の地図は頭の中に叩き込んでおけよ」


「分かってます」


 頭上を中型の兵員輸送ヘリがローパスした。この徳島飛行場の陸上自衛軍北徳島分屯地に駐屯する第十四旅団第14飛行隊のUH‐1Y多用途ヘリコプターは、高知駐屯地の第50普通科連隊と共に飛行場周辺を警備していた。


「防衛出動なんですね……」


 そう呟いた川倉は、短銃身の19式5.56mm小銃を胸の前にスリングで吊っていた。銃身を用途に応じて交換可能な19式小銃は、その特徴を活かして車輛や航空機乗員の他、普通科の小隊長等向けには短銃身仕様の銃身が予備銃身として支給されている。


 この第15即応機動連隊は普通科を基幹とする部隊でも、機動戦闘車中隊が有する16式機動戦闘車を運用するのは機甲科の隊員で、川倉自身元は即応機動連隊編成に当たって閉隊した第14戦車中隊の隊員だった。


「今さら何を言ってるんだ」


 百瀬に呆れられながらも川倉はただただ茫然としていた。


 16式機動戦闘車を完全に飲み込んだC‐17は二輛目の16式機動戦闘車を搭載し始めていた。


 射場以外で実弾を持ってなお、未だに実戦という実感が川倉には湧いていなかった。それだけ戦争が正直なところ現実味が無かったのだ。


 防衛大を出て幹部として任官した川倉は所属部隊の改編や新たな装備のための教育訓練に追われ、実戦を意識するどころではない多忙な毎日をここ数年送っていた。部隊の早期戦力化をと考えて各種訓練の計画を立て、その評価や報告を行ってきたというのに、それはほとんど事務的になっていたのだ。毎年のノルマである訓練を消化し、部隊の円滑な運用を進めることに執心してきた川倉には実戦意識が足りていなかった。


 戦えるのだろうか、俺は……


 淡々と作業を行う部下や空自の隊員達を見つめながら川倉は言いしれない不安を覚えていた。






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